いやらしい本が落ちてると思ったら、
大相撲の写真集だった。
最近はめっきりエロい本など
読まなくなったけれど。
かつて、
アダルトショップでバイトを
していたことがある。
もちろん、
純粋に「仕事」をするのが目的ではあったが、
その「未知の世界」に興味を抱いたのも事実。
男性向けの、いわゆる
「AV(アダルトなビデオ)」はもちろん、
セクシーな用途の「玩具」が
所狭しと並べられた店内で。
平日休日を問わず、
深夜2時過ぎまで働いていた。
店番は、基本的に
いつも1人きりだった。
気に入った写真のAVを
「面陳(ジャケットが正面に
くるよう陳列すること)」したり、
ローションなどのアダルトグッズの
向きをそろえたり。
ホックの複雑さに苦労しながら、
セクシー下着をマネキンに
着せたりすることもあった。
手が空いたときには、
頼まれもしないのに
「POP」を作ったりした。
よさが伝わったのか、
おかげで手も出されずにいた商品が、
次々と売れるようになったりした。
仕事を始める前までは、
特別AVに詳しかったわけでもない。
アイドルを気どるつもりは毛頭ないが。
本当にそれまでは、アダルトビデオを
観ることもほとんどなかった。
当然、レーベル(制作会社)はもちろんのこと、
AV女優の名前もまったくと言っていいほど
知らなかった。
「××××の新作ある?」
などとお客さんに聞かれて、
店内を走り回りながら。
1人、また1人と
「彼女たち」の名前を覚えていく。
何千、何万本もありそうな
AVのジャケット写真を見ているうちに、
名前やレーベルのカラー(特色・傾向)などが
分かってきた。
さらに連日、
何百本ものビデオが店に届く。
その「商品」を
入荷・陳列していると、
少しずつAV界の「現状」が見えてきた。
しばらくすると、
「△△△のビデオ、どこですか?」
と聞かれて、移籍前の、
旧レーベル作品まで
頭に浮かぶ女優もいた。
本当に、気づいたら、といった感じで、
女優さんやレーベルの名前を
覚えてしまっていた。
その店を辞めたのは、
もう4年ほど前の話だ。
新しい職場で働きはじめ、
春がきて、夏がすぎ、秋がきて。
ふと、電車の中吊り広告に目が留まった。
週刊誌の広告だった。
『▲▲▲▲、初グラビア』
そこに書かれた「女優」の名前を見て、
はっとした。
彼女は、
アダルトショップで働いていたころには、
まだまだ新人の女優だった。
彼女の「デビュー作」を陳列し、
ポスターやPOPも貼った。
当時、
彼女は「セル初」といって、
販売専用のAV作品を、
ようやく撮ってもらえるようになった・・・と、
そんな位置にいた。
店長に聞いたところ、
「レンタル業界」である程度の実績が出なければ、
なかなか「セル専用」のビデオは
作ってもらえないという。
(※セル=SELL「売る」)
コンピレーションではなく、
単独での「セル」ビデオ。
特別な思い入れがあったわけではないが。
彼女のことは、よく覚えている。
だから、
電車の中吊り広告を見て思わず、
「おおっ、頑張ってるなぁ」
と、口のなかで
つぶやいてしまった。
この数年のあいだで、
着実に活躍の場を広げている
彼女の姿に。
親心のような気持ちと、
何ともいえない、
妙な感慨深さがあった。
この4年間で、
自分はどれだけ成長
できたのだろう。
いちばん上の、
小学3年だった甥っ子は、
来年中学生になる。
背も伸びて、
声も少し低くなった。
この4年間で、
自分はどれだけのことが
できただろう。
更地だった駅前の敷地には、
40階建てのビルができた。
それを追うように、
空に届きそうなほどのビルが
次々と建つ。
この4年間を、
きっちり4年分、
使い切ってきただろうか。
去年のスケジュール帳も、
その前の年のスケジュール帳も。
年が変わるとともに、
新しい1冊へと移り変わる。
空白の部分を残したまま、
また新しい空白を埋めていく。
時間。
1日は24時間で、
1時間は1分が60個集まって
できている。
時間は同じ長さでしかない。
けれども、
密度だけは自分で決められる。
それが「時間」。
寝ていても、起きていても。
映画を観ても、本を読んでも。
ぶらぶらしてても、じっとしてても。
削っていても、燃やしていても。
同じ長さの時間を、どう使うか。
時間を、何に変えるか。
目の前に並んだ、まだ見ぬ時間。
後ろに連なる、過ぎ去った時間。
数字ばかりが
幅を利かせる世の中ですが。
数字だけじゃ測れない、
濃密な時間を
積み上げたいものですね。
ちなみに今日は、
公園で拾った百個のドングリ
ひとつひとつに名前をつけて、
スタメン組と控え組とに分けて
1日を過ごしました。
毎日こんなふうに
有意義な時間を過ごせたら・・・。
そう。
いつでも真剣白羽取りです。
< 今日の言葉 >
ほんの少し、皆さんより長生きしている私お姉様は、ほんの少し、
物事も、見えてきたと申しましょうか、役に立てるのは、あなたしだい。
私のとっておきの知識を公開しちゃいましょう。
何事をするにも大切なことは、自分自身を知ることだよね。
そんな自分発見のちょっとした、きっかけになるんじゃないかな。
この豆本を、トゥール(道具)として、楽しんでちょうだい。
そして、あなたの妹達にもまた、伝えていってちょうだい。
それが、お姉様のお願いよ。
(『ものしりおねえさまの知恵袋』の序文/「はじめに」より)