「磁石」をぶら下げて歩いている。
この「磁石」は、人それぞれ、
引き寄せるものが違う。
たとえて言うなら。
靴が欲しいときには、
店頭に並ぶ靴、すれ違う人の靴など、
歩いているだけでやたらと「靴」が目に入る、
という状態に似ているかもしれない。
そんなふうに。
興味あるものが、
意識的にも、無意識的にも集まってくる。
そんな「磁力」が集まって、
知らぬ間に「磁石」がつくられていく。
僕の友人は、
「おもしろ磁石」を持っている。
天性の「才能」なのか。
それともどこかで
「それ」を願っているのか。
彼は、なにかと「おかしなもの」を
引き寄せてくる。
先日、その友人と中古CD店へ行った。
それぞれ
「欲しいアルバムを何枚か買おう」
ということになり、
商品の並ぶ棚からあれこれ物色していた。
邦楽、洋楽、新旧のアルバム。
CDだけでも、ものすごい枚数がある。
舟木一夫のアルバムを手に取ってみせたり、
ドリフターズのベスト盤に見入ったりしながら、
軽く1時間が経過した。
僕は、『ガリバー旅行記』のDVDに加え、
2枚のCDを買った。
友人は、
ベル・アンド・セバスチャンのアルバムと、
BECKのアルバムの、計2枚を買った。
友人と2人、家に帰って、
さっそく買ったばかりのCDを聴くことにした。
自分の買ったCDを開封していると、
同じくCDを開封していた友人が急にうつむき、
なぜかニヤつきはじめた。
「どうした?」
彼は、ニヤついたまま
何も言わない。
のぞき込むと、
彼の手にはBECKのアルバム
『ODELAY』があった。
CDの盤面を見て、
違和感があった。
そこに書かれた
文字を見て、目を疑った。
『melody./Next to you
〜アルペンCM挿入歌〜』
一瞬、何が何だか、
わけが分からなかった。
「ジャケットと中身が違っている」
そう気づくのに、
ほんの少し、時間がかかった。
楽曲数4曲の「ミニ」アルバム。
友人は、苦笑いしながら
こう言った。
「一瞬、BECKって
アルペンの歌に使われてたっけ、
とか思った」
いったい、どこでどうやって
「すり替わった」のか。
持ち主が売るときから
入れ違っていたのか。
いや、それはないだろう。
じゃあ、店の人が
入れ間違えたのか。
あり得る。
キズや汚れを
チェックするときかなんかに、
中身を入れ間違えて
しまったのかもしれない。
なら、BECKの
『ODELAY』はどこに?
単純に、melody.の
『Next to you』と
入れ違ったのか・・・?
こたえは分からない。
けれど、
友人の「磁力」に
笑いが止まらなかった。
彼にとっては、初めて行った店だ。
そこで、2枚のCDを買った。
僕は、その店には
数回行ったことがあり、
つごう6枚のCDと
2枚のDVDを買っている。
確率的には、僕のほうが多く、
単純計算で彼の「4倍」だ。
友人は、
たった「2分の1」という高確率で、
「はずれ(当たり?)」を引いた。
何百、何千とあるCDのなかで。
滅多にないはずの
「当たり」を引く磁力。
友人は、
その「磁石」を持っているのだ。
ひとつ、補足しておくならば。
友人が、
4枚あったBECKのなかで、
どれを買おうか迷っていたときに。
「俺だったら、これ買うかな」
と、僕が指したCD。
それが、この『ODELAY』だった。
ドイツのことわざで、
『熱いスープをこぼす人と、
熱いスープをかぶる人』
というような言葉がある。
つまり、
「原因を作るだけ作って
被害を被らない人」と、
「そこにいるだけで、
なぜかとばっちりを食う人」
といった
二者の関係を表す
言葉なのだが。
今回は、まさに
そういった感がある。
もっというなら、
「金田正太郎と鉄人28号」と
いった感じがしなくもない。
それは、
今に始まったことではない。
自分がタバコをあずけたせいで、
彼を「停学」に巻き込んだり。
夜中にスケボーをしようと誘って、
族(ゾク)に囲まれたり、とか。
えらい目にあわせたことは
数知れず、だ。
それでも。
友人の「磁力の強さ」は、本物だ。
僕が関与していない場面でも、
彼はその力をいかんなく発揮している。
高校時代、
学期末の成績表を渡されたとき。
彼の名前が、どういうわけか、
「グレゴリウス賢治」
になっていた。
大まじめな成績表の氏名の、
名字が「グレゴリウス」に
なるなんて、あり得ない。
また、
自動車免許の更新で、
新しい免許証を手渡されたときには。
あろうことか、自分の顔写真が、
見ず知らずのおじさんの
写真になっていた。
「長いあいだ、やってきたけど。
顔写真が入れ替わるなんて、
初めてだ」
免許証を交付する職員も、
そう言って驚いていたそうだ。
新しい免許証で、
なんとなく
わくわくしながら手にしたとき。
自分の名前の
書いてある免許証に、
知らないおじさんの顔が
写っていたら・・・。
考えただけでも、
おかしくて仕方ない。
みんなが帰宅していくなか、
彼だけは一人残されて、
もう一度、写真を
撮り直したということだ。
それを聞いたとき、
僕は、無責任にも、
「なんで持って帰って
こなかったんだよ」
と放言した。
いったん持ち帰って、
スキャンでもして画像を残して、
それから撮り直すべきだった、と。
人ごとだけに、
勝手なことを言うものである。
それでも、どん欲な友人は、
「そっか。しまったなぁ」
と残念がっていた。
さすが、
「おもしろ磁石」の持ち主。
ふところが深い。
こうやってみて見ると、
友人は「すり替わり」の
運命があるようだ。
「すり替わりの神」に
目をつけられた彼は、
これから先も、
ちょとした「すり替わり」で
日常をおもしろくして
いくのだろう。
あくまで致命傷にはならない、
思わず笑ってしまう
「かすり傷」程度のすり替わり。
すり替わりの
神さまのいたずらに、
僕らは、いつも
笑わせてもらっている。
さて。
みなさんは、
どんな種類の「磁石」を
提げて歩いているのでしょう。
ほらほら、
そこのお嬢さん。
グチばかり言っていると、
フコウが寄ってきますよ。
かくいう僕の磁石には・・・。
セミの抜け殻とか、
まいっちんぐマチコ先生の下敷きとか、
のりピーマンとか、キン肉マンの2巻とか。
そんなものばかりが
くっついてる。
はがしても、はがしても。
足元に伸びる影のように、
離れないんです。
< 今日の言葉 >
Won't you turn around to me
ときめきのSPURを追いかけよう
溶けないように今を描こう
Take a chance with me
( melody.『Next to you 』より)