2008/07/13

若気のイタリー




生徒と話していると、
自分の若かりし日を思い出すことが多い。

今よりもいくらか
おおらかな時代だったとはいえ、
思い返すと、
ずいぶんおかしなことを
しでかしたような気もする。


何の目的もなく、
単なる思いつきで行動できたことが、
妙に懐かしくも感じる。

人はそれを「青春」と
呼ぶのかもしれない。


青春。


青くさい、若々しい日々。

自分のそれは、
青春と呼ぶにふさわしいのかどうか。


中学生の頃、
勇気をふりしぼって、
好きな女の子に
「一緒に帰って欲しい」と
誘ったにもかかわらず、
結局ひとことも話せないまま
分かれ道に着いてしまった

・・・という類いの「青い経験」は、
僕の「甘酸っぱいフォルダ」に
そっと保管してあるのだけれど。


そんな
「ステキな思ひ出」には属さない、
ガラクタのような思い出が
いくつもある。



頭にトイレットペーパーを巻き付けて、
おでこの中央に「ビンディ」ならぬ
赤い絵具で点を打って。

「にわかインド人」に扮装して、
カレー専門店に行ったことがある。

当のインド国民が見たら激怒しそうな、
およそ学のない仕上がりだったことは
言うまでもないが。

その格好で、
ごく普通の辛さのカレーを食べて、
食後に

「辛っ」

とひとことつぶやくという、
ただそれだけのために。

ひとり、その「エセインド人」
スタイルで店に行き、
黙々とカレーを食べはじめた。


少し離れた場所から
そのさまを見守っていた友人たちは、
食後の「辛っ」のひとことで小さく笑った。


それ以上は何もない。

長いわりには尻すぼみな、
バカバカしいだけの思いつきだった。



炭酸飲料のCMで、
初めてローラーブレード
(インライン・スケート)を見て。

いたく感動した僕は、
友人を巻き込んですぐに
ローラーブレードを購入した。


「街の中を自由に走り回りたい」


今では考えられないが。

まだローラーブレードが
出はじめだった時代のこと、
何の躊躇もなく、
すぐに公道を走り回った。


滑るうち、映画
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の
ワンシーンをそっくりそのまま
真似したくなった僕は、
信号待ちのトラックに忍び寄り、
後ろの荷台につかまった。

信号が青に変わり、
トラックが走り出す。

そのままぐんぐん加速していく。


やばい。速すぎる。


本当に、ウイル(車輪)から
火花が出るんじゃないかと
思うほどスピードが上がり、
地面から伝わる振動で、
足首がもげそうに感じた。

が、止まりたくても
止まれない。

手を放せば、後続車に
轢(ひ)かれてしまう。


歩行者やほかの車の運転手が、
各者各様の面持ちで
僕を見ていた。

もちろん僕の存在など気づかぬトラックは、
減速することなく走り続け、
何度か左折を繰り返した。


ようやく止まったときには、
予想外の急停車で、
荷台部分に肋骨を強く打ちつけた。


「これが、
 慣性の法則か・・・」


などとは当然思わなかったが。
そのまま背を丸め、
逃げるようにして歩道へ滑り込んだ。


ほっとしたのもつかの間。
友人と再び合流したあと、
懲りずにそのまま地下街へ潜り込んだ。


地下街の床は、
アスファルトに比べて
相当滑らかで、
気持ちよく滑走できる。

僕らは通行人を縫うようにして、
人工大理石の路面を
北風のように疾走した。


そして・・・。


地下街の警備員と「鬼ごっこ」したあと、
追加投入された「鬼」に捕らえられ、
あえなく「裸足」で
地上へと送り出される結果に終わった。



ある年の秋には、
紅葉を意識して、
髪の毛をオレンジにした。

今ほどヘアカラー商品が
充実していなかった時代。

ひたすらブリーチで
何度も繰り返し脱色して、
そこに原色オレンジの染料を塗り込むのだ。


ブリーチ液を頭に塗りたくり、
待つこと1時間。


洗い流すころには、
頭皮全体がサロンパスにでも
なったようなスースー感で、
ぬるいお湯でもひどくしみる。


そんなことを3回も繰り返すと、
髪の毛がバービー人形の
髪のような手触りになる。

最終的には、
絵具のような朱色の髪に仕上がった。

まさに日本の秋を
感じさせる色合いだった。



眉のあたりにピアスを空けて。

リングピアスをつけたまま
雪山に滑りに行って、
凍傷になったこともある。


スケボーで30段ほどの
階段を飛び降り、
無事、着地に成功したのにも関わらず、
雨上がりの地面でスリップして
大きくすっ転んだこともあった。


どしゃ降りの雨を利用して
シャンプーをしてみたこともあれば、
友人のタバコに
花火を仕込んだこともある。



・・・と。



こんな「イタリーな体験」を
挙げればきりがない。


いったい何をやっていたのか。
何をやろうとしていたのか。


自分で自分に問いつめてみても、
答えはまったく出る気配がない。


今となっては、
こうして語る以外に使い道もない、
ほんのちょっとした「小ネタ」ばかりだが。

今の僕は間違いなく、
このガラクタが集まってできている。


そんな「青さ」を経て、
すっかり大人になった僕は、
わけも分からぬことで
はしゃいだりはしない。

無軌道で、無目的で、
無計画なことなどは一切しない。


その証拠に。


夜中にどっさりと
雪が降り積もったのを知っても、
あわてて外に出たりはしなかった。

しっかり厚着をして、
雪がしみ込まない格好に着替えて。
落ち着いて真っ白な雪の世界へ飛び出した。


誰もが寝静まった真夜中の公園。

広々とした緑地公園には、
僕以外、猫の子1匹見あたらなかった。


それでも僕は、
大人の節度をわきまえて、
大声で騒いだりせず、
ひとり新雪の中を転げ回っていた。


大人の僕は、
次の日が仕事だということも、
その瞬間だけしか
忘れていなかった・・・。


結局、いくつになっても
「若気のイタリー」は
健在なんだろう、と。


そう思ったしだいであります。



< 今日の格言 >

けふはきのうの我にかち、
あすは下手にかち、
後は上手に勝とおもひ

宮本武蔵