あくまで「いじわる」ではなく
「いたずら」が大好きだ。
学生の頃は、
ターゲットとなる相手に
事欠かなかったので、
僕のいたずら引出しは
ネタであふれ返っていた。
ひどくリアクションのいい女子がいた。
彼女は仲のいいメンバーのひとりで、
昼休みに弁当を食べる輪にも入っていた。
いたずらをしかけると、
想像をはるかに超えたリアクションで
「応えて」くれるので、
彼女は格好のターゲットだった。
彼女にしかけたいたずらのひとつで、
めっぽう地味だけれど、
長期間にわたって
しつこくやり続けたいたずらがある。
それは、彼女と話すとき、
「が」と言うときだけ
小鼻をぴくりとふくらませるというものだ。
顔の表情はまったく変えず、
「が」
と言う瞬間、
小鼻のみを動かす。
これは、
かなりのテクニックを
要するものだが。
慣れればどうってことのない
技術でもある。
友人にも協力してもらい、
ふたりで延々と「が」に合わせて
小鼻をぴくり、ふくらませる。
2週間ほど毎日「が」=ぴくり、である。
これは、無意識下へと訴えかける、
非常にハイレベルないたずらだ。
素人は決して真似をしないよう注意か必要だ。
2週目に入ってとうとう彼女は、
「なに、なんか変じゃない?
ねえ、なんか『が』っていうときだけ
変じゃない?」
と、しきりに詰め寄ってきた。
けれども、
「気のせいじゃない?
おまえが変なんだよ」
とまた、小鼻をぴくり。
結局、ネタばらしもしないまま、
そのままフェードアウトという形で
「いたずら」は終了した。
おそらく、彼女の脳の片隅には、
約2週間のあいだでかなりのストレスが
貯蓄されたことだろう。
中学生の頃。
部活仲間の友人宅で、
これから強化合宿に出かけるというときに、
テレビのリモコンやら、
彼のおかんのサンダル右片方などを
彼のスポーツバッグにこっそり忍ばせたりした。
(合宿から帰った彼は、
真っ先におかんに叱られたらしい)
小学校の頃には、隣の席の女子に、
「おれ、実は双子なんだ」と嘘をつき、
さらには「弟と交互で学校に来てる」と
彼女にだけ自分の“秘密”を暴露してみたり。
彼女に「今日はどっち? 弟?」などと聞かれると、
真顔で僕は、
「いや、今日は兄貴のほう。
ほら、ここにホクロがあるから」
と、鉛筆で点をつけた腕を
見せたりしたものだ。
そんな「いたずら」など
すっかり忘れてしまっていた僕は、
なんと、そのまま小学校を卒業してしまった。
まさか、とは思うが。
彼女は今でも僕のことを
「日替わり双子の同級生」と
思っているかもしれない。
会社でも、ちょっとしたいたずらや、
他愛のない虚言で人を惑わせたりしていた。
そんなことばかりをしていたせいだろう。
『ミニドライバーセット』
(柄の長さが2.5㎝、
軸の部分が2㎝ほどの
小さなツールセット)の
マイナスドライバーが小指に突き刺さり、
あやうく貫通しそうになったときでも、
すぐには信じてもらえなかった。
自分でも信じられず、
ミニマイナスドライバーの先が
半分近く消えた小指をのぞき込み、
前から後ろから、
状況を確認してみた。
どちらにも「先」は出ていない。
きれいに小指の
ど真ん中に突き立ったマイナスドライバーは、
やはり見たまま「小指に突き刺さっていた」のだ。
が、痛みはまったく感じない。
「ねえ、ちょっと見てよ。
これ、刺さっちゃった」
驚きというより感動すら覚えた僕は、
同僚に見せてみた。
「またぁ」とせせら笑う彼女。
いや、本当に、と
しつこく見せてようやく、
“タネもしかけもない”と
気づいた彼女は、
「えぇ〜っ!
ちょっと何ぃ〜っ! いやだぁ〜っ!」
と、イスから転げ落ちんばかりの勢いで
のけぞってしまった。
今回ばかりは「いたずら」ではなく、
本当なのだが。
彼女はすばらしいリアクションで、
僕の期待に応えてくれた。
ミニマイナスドライバーが
貫通したはずの小指は、抜いてみても、
ちゃんと曲がってちゃんと動いたので、
「まあいいか」ということで、
そのままバンソウコウを貼ってよしとした。
救急箱を出してくれた庶務さんは、
心配そうにあきれていたけれど。
今現在でも
何ら生活に支障がないことを、
念ため報告しておこう。
日頃の浮ついた言動のせいで、
ときに信じてもらえないことがある。
罪のない、
罪つくりな「いたずら」のせいだ。
だから僕は、羊飼いにはなれない。
たとえオオカミが来ても、
信じて駆けつける人は誰もいないから。
それなら僕は、
ペーターのようなきれいな心を持った、
いたずら坊主になりたい。
あ、
ペーターは羊飼いじゃなくて、
ヤギ飼いか。