2008/06/07

オオカミが来た

僕は、いたずらが大好きだ。あくまで「いじわる」ではなく「いたずら」が大好きだ。
学生の頃は、ターゲットとなる相手に事欠かなかったので、僕のいたずら引出しはネタであふれ返っていた。
ひどくリアクションのいい女子がいた。彼女は仲のいいメンバーのひとりで、昼休みに弁当を食べる輪にも入っていた。いたずらをしかけると、想像をはるかに超えたリアクションで「応えて」くれるので、彼女は格好のターゲットだった。
彼女にしかけたいたずらのひとつで、めっぽう地味だけれど、長期間にわたってしつこくやり続けたいたずらがある。
それは、彼女と話すとき、「が」と言うときだけ小鼻をぴくりとふくらませるというものだ。顔の表情はまったく変えず、「が」と言う瞬間、小鼻のみを動かす。これは、かなりのテクニックを要するものだが。慣れればどうってことのない技術でもある。
友人にも協力してもらい、ふたりで延々と「が」に合わせて小鼻をぴくり、ふくらませる。2週間ほど毎日「が」=ぴくり、である。
これは、無意識下へと訴えかける、非常にハイレベルないたずらだ。素人は決して真似をしないよう注意か必要だ。
2週目に入ってとうとう彼女は、
「なに、なんか変じゃない? ねえ、なんか『が』っていうときだけ変じゃない?」
と、しきりに詰め寄ってきた。けれども「気のせいじゃない? おまえ変なんだよ」とまた、小鼻をぴくり。
結局、ネタばらしもしないまま、そのままフェードアウトという形で「いたずら」は終了した。
おそらく、彼女の脳の片隅には、約2週間のあいだでかなりのストレスが貯蓄されたことだろう。
中学生の頃。部活仲間の友人宅で、これから強化合宿に出かけるというときに、テレビのリモコンやら、彼のおかんのサンダル右片方などを彼のスポーツバッグにこっそり忍ばせたりした(合宿から帰った彼は、真っ先におかんに叱られたらしい)。
小学校の頃には、隣の席の女子に「おれ、実は双子なんだ」と嘘をつき、さらには「弟と交互で学校に来てる」と彼女にだけ自分の“秘密”を暴露してみたり。彼女に「今日はどっち? 弟?」などと聞かれると、真顔で僕は「いや、今日は兄貴のほう。ほら、ここにホクロがあるから」と、鉛筆で点をつけた腕を見せたりしたものだ。
そんな「いたずら」などすっかり忘れてしまっていた僕は、なんと、そのまま小学校を卒業してしまった。
まさか、とは思うが。彼女は今でも僕のことを「日替わり双子の同級生」と思っているかもしれない。
会社でも、ちょっとしたいたずらや、他愛のない虚言で人を惑わせたりしていた。
そんなことばかりをしていたせいだろう。
『ミニドライバーセット』(柄の長さが2.5㎝、軸の部分が2㎝ほどの小さなツールセット)のマイナスドライバーが小指に突き刺さり、あやうく貫通しそうになったときでも、すぐには信じてもらえなかった。
自分でも信じられず、ミニマイナスドライバーの先が半分近く消えた小指をのぞき込み、前から後ろから、状況を確認してみた。どちらにも「先」は出ていない。きれいに小指のど真ん中に突き立ったマイナスドライバーは、やはり見たまま「小指に突き刺さっていた」のだ。
が、痛みはまったく感じない。
「ねえ、ちょっと見てよ。これ、刺さっちゃった」
驚きというより感動すら覚えた僕は、同僚に見せてみた。
「またぁ」とせせら笑う彼女。いや、本当に、としつこく見せてようやく、“タネもしかけもない”と気づいた彼女は、
「えぇ〜っ! ちょっと何ぃ〜っ! いやだぁ〜っ!」
と、イスから転げ落ちんばかりの勢いでのけぞってしまった。
今回ばかりは「いたずら」ではなく、本当なのだが。彼女はまたしてもすばらしいリアクションで、僕の期待に応えてくれた。
ミニマイナスドライバーが貫通したはずの小指は、抜いてみても、ちゃんと曲がってちゃんと動いたので「まあいいか」ということで、そのままバンソウコウを貼ってよしとした。
救急箱を出してくれた庶務さんは、心配そうにあきれていたけれど。今現在でも何ら生活に支障がないことを、念ため報告しておこう。
日頃の浮ついた言動のせいで、ときに信じてもらえないことがある。
罪のない、罪つくりな「いたずら」のせいだ。
だから僕は、羊飼いにはなれない。
たとえオオカミが来ても、信じて駆けつける人は誰もいないから。
それなら僕は、ペーターのようなきれいな心を持った、いたずら坊主になりたい。

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