2008/06/11

偶然のオアシス


「前を向いて座る女の人」(2008)




小さいころ、
ニュースなどで耳にする

『汚職事件』

という言葉を、ずっと

『お食事券』

だとばかり思っていた。


「政治家ってのは
 いつもごちそうばっかり食べてけしからん」


などと、
分かったようなことを言っていた僕は、
中途半端にかしこぶった
小学生だったのだろう。


少し前のことだ。

食事に行った席で、
甥っ子がメニューの一品を指して言った。


「タマゴと地面ってなに?」


卵と地面。

見るとたしかに

『たまごとじめん』

と記されている。


たまごとじめん・・・たまごと・・・

ほどなくしてそれが
『卵とじ麺』だということに気がついた。


同じ小学生でも、自分に比べると
何ともかわいらしい間違いである。



あるとき、
前を歩くご婦人たちのやりとりが耳に入った。


A「この前、ベルヘラルドに行ってね」

B「えっ、ヘラヘラ?」

A「ベルヘラルドっ」

B「ベルヘラ?」

A「そう、ベルヘラ」


・・・話し手のAさんは、
あきらめてしまったのか。

それとも勢いに押されて
事実を曲げてしまったのか。

もしかすると、
あまりにBさんが堂々と言うものだから、

「あれっ、そっちが正しいのかしら」
と、自信が揺らいでしまったのかもしれない。

いずれにせよ、後ろを歩く僕は、
何度もつんのめりそうになりながら、
突っ込みを入れたくなるのを
ぐっとこらえていた。


そういった “ 間違い談 ” は、
友人からこぼれ落ちることも多い。

書道の話をしていて、
友人が言った。


「ああいう味のある書体ってあるよね。
 ほら、せんだみつおとか」


彼が言いたかった人物は、言わずもがな、
『せんだ』ではなく『あいだ』のほうだ。

ちなみに『お』は接続の『を』が正しい。


ある友人は
『P IN』(Parking in「駐車場はこちら」)と
書かれた看板が並んでいるのを見て、


「ピンピンって何だ?」


と大真面目に言った。
飛躍的読解力を持った男である。


ちなみに彼は高校時代、
英訳の宿題で、


「ペニー・パターソンさんは、
 棒を口の中に入れて動かし・・・」


と、何だか
ヒワイにも聞こえかねない和訳を発表して、
あわてた先生が途中で止めに入ったいう経歴を持つ。

文章というか、
物語の筋を追ってみれば、
自分の訳がどれほどおかしいのか
気づくだろうに。

発達心理学者(当時)、
フランシーヌ・ペニー・パターソン博士も
びっくりの訳である。


彼の和訳はいつも支離滅裂だった。
毎回毎回、時間をかけて、
大真面目に宿題をしてきているのが痛々しい。

彼が純粋なバカなら、
宿題すらできなかったのだろうが。

彼も僕と同じく、
中途半端に「できる」からこそ、
落し穴に落ちるのだ。


こういった微笑ましい思い違いや間違いは、
マイナスよりもプラスの要素に
なってくれることが多い。

カサつきがちな日常に潤いを与えてくれる、
偶然のオアシスだ。

これからも、
こんな思い違いや間違いを
拾い集めていきたい。

思い違いや間違いを
笑えるだけの「余裕」をいつでも持って。

僕もどんどん「まちがい」をしていきたい。

経験がたくましくなると、
なかなか間違いをする勇気が
なくなってしまうから。


<今日の格言>

ちょっとバカなくらいがちょうどいい。
お酒はぬるめのカンがいい。
同じカンでも、アルファベットなら
「必ず最後に愛は勝つ」。