お、お金!
て、もうだまされないぞ。
足元のそれを素どおりするA男。
しばらくして背後で少年の声がした。
「わ、500円みっけ!ラッキー」
「しまった!本物かっ!」
思わず声に出してふり返ったA男の身体は、
その急激な動作に対応できず、
右首の付け根辺りをぐきりと鳴らした。
うう、と短い悲鳴をあげて、
しばしその場に固まる。
首を傷めたA男は、そのまま
右後ろを気にしたような姿勢で、
「あれぇ、こっちだったかな、
あっちだったかなぁ」
などとつぶやき、
すれちがう人たちの視線をごまかしつつ、
家までの10分弱の道のりを
右後ろを見たまま歩きつづけるのであった。
「このままじゃダメだ」
帰宅後、鏡に映った自分を見て、
そう強く思った、A男であった。
(ライフ:−1ポイント)