そう言って天を仰ぐと、
右目に激しい痛みを感じた。
点眼液のような正確さで
A男の目を直撃したそれは、
電線に留まったカラスが
尻から落とした褐色の液体だった。
激痛にしばらく片目の視力を失ったA男だが、
その激しい痛みとは裏腹に、
頭の中では、
映画『時計仕掛けのオレンジ』で
主人公のアレックスが、
「I'm blind !!」
と絶叫する場面(シーン)が
上映されていた。
意外に冷静な自分に気づいたA男は、
片目のまま、
客の多いコンビニを2つやり過ごし、
ひと気のない公園で目を洗った。
ベンチに腰を下ろすと、
ゆっくり視界を回復させながら、
もう一度固く、声に出して表明した。
「かっこいい男になってやる」
A男の決意を塗りつぶすかのように、
ちょうどいいタイミングでカラスが
カァカァと、2回鳴いた。
自分の耳にも、
「カァカァになってやる」
と聞こえた気がしたが。
そのばかばかしい発想を苦笑いですすぐと、
そのまますっくと立ち上がった。
今どきめったにない確率で。
昭和のコントよろしく、
A男の尻にはべったりと、
黄緑色のボーダーラインが転写されていた。
『ペンキぬりたて』
それに気づいたのは、
自宅玄関先でのことだったが。
A男の決意は、揺らぐどころか、
ますます強固になる一方であった。
(ライフ:−4ポイント)