#13





「なるほど、
 五次元からの使者というのは、
 どこにでも存在し、かつ、
 招かざる者には見えない存在なのだな」


映画『シリンダー状のサスペンダーは
群れに染まる』を観終わったA男は、
目玉をらんらんと光らせ、
興奮をそのまま足取りに表していた。


「00110101111011100011001
 01011101011100001000100
 00010010001000101011111
 0111011110100100・・・・」


光速で動き出したA男の思考は、
はるか四次元の料金所を超えて、
飴(あめ)のようにしなやかな
銀色の流体と化していた。


「こちら、セリヌンティウス号。
 聞こえますか。応答願います」


そのシグナルに反応するものもなく、
宇宙時間で250光年が過ぎ去った。


素粒子となったA男の魂は、
恐竜時代の記憶と融合し、
プラトニックでオーガニックな
調べ(メロディ)に変わる。


「どうしてそこに、
 在(あ)ったのですか?」


透明な金属が天使の唄声を真似ながら、
おごそかな調子で優しくたずねる。


「はじめからそのように
 仕組まれていたことです」


「しめった炎が、
 そうするように、ですね」


「ええ、まるで真昼のように」


重力から解き放たれたA男の体は、
色という色を放ちながら回転し、
大きな羽根を羽ばたかせながら、
α- ユリイカ:episode.3(仮)の
虚空(こくう)に包まれ、
やがては大きな流れになった。


時空のゆがみに気づき、
そこからつまみ上げた果実の前では、
もはや階層など無意味なものである。


「ずいぶん長く、眠ったようだ」


冬眠コフィンから身を起こしたA男は、
500光年の夢をそうめんのように束ね、
荒々しく沸騰(ふっとう)する
セル(細胞)の中に投じた。


「地球では今、アメンホテプ4の時代か」


A男は、かつての故郷を見下ろしながら、
ピラミッドと呼ばれる錐(すい)状の造形物を
そっと配置していった。


かなしい争いや諍(いさか)いが
なくなりますように、と。


ひそやかで真摯(しんし)な願いを込めて、
目を閉じたA男は、
星々の唄を
そらんじるのでありました。



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