「可愛いだけの子には、
これまで出会ったことがある。
けど、君はそれ以上だ」
「そんなふうに言うの、あたしで何人目?」
「そうだな。こんなセリフを、
淀みなく言えるようになるくらいかな」
なんていう大人の恋愛を夢見て、
故郷(くに)を飛び出してきたA男。
現在の彼は、というと。
家の近所のスーパーマーケットで、
「今夜の晩ごはんにいかがですか?」
と、笑顔で勧める
エプロン姿のアルバイトの女の子が
その場を離れたすきに、
慣れた手つきで、
試食のトレイに並んだ
焼きたての厚切りはんぺんを
根こそぎ口に頬ばって、
したたかにヤケドした上顎(あご)の皮を
舌先でいたわりながら、
満足そうに高楊枝(ようじ)で店を出たとき、
店先の道路に光るものを
見つけるくらいが、
精いっぱいの出会いであった。
「お、100円!」