*
好きって何?
冒頭からいきなり
気持ちの悪い素朴さが
炸裂してしまったが。
そんなのは序の口。
ここからが本題です。
好きって何だろう。
好きっていうものの、
正体や形は、
どんなものなんだろう。
明確な定義や答えが
出したいわけではないけれど、
ちょっと考えてみたくなった。
* *
以前に書いた話と
重複する部分も多いが。
小学6年生の時、
男子友だちが集まって、
それぞれ、
「好きな子」が誰か、
言い合うことになった。
みんなで順番に、
「好きな子」の名前を口にした。
そのたびに、
「ええ」とか「ああ」とか、
「へえ」とか「おお」とか。
さまざまな声で、
いちいち色めき立った。
僕は、
隠すつもりも、
嘘を言うつもりも
なかったけれど。
「好きって何だ?」
心のどこかで、
はっきりとわからない、
もやもやした疑問があった。
だから、
僕の番になったとき、
誰の名前を言えばいいのか、
ちょっと迷った。
考えあぐねる僕に、
友だちの一人が言った。
「かわいいなって
思う子でもいいよ」
なるほど。
かわいいなと思う子なら、
何人か思い浮かんだ。
僕は、
かわいいと思う子の中から、
一人、名前を挙げた。
そのl頃、
接点が急に増えた、
女子だった。
それが僕の
「好きな子」になった。
言い換えると、
僕の好きな子が
その子だということに
なった瞬間でもあった。
好きって何だろう?
その答えが
わからずにいた僕は、
みんなに告白した
その子のことが、
「僕の好きな子」のように
思えてきた。
周りの声や言葉に、
だんだん、その子のことが、
好きなような気がしてきた。
もちろん初めから
「好き」ではあった。
けれでもその「好き」が、
いわゆる「好き」なのかは、
よくわかっていなかった。
当時の表現で言えば・・・
「『LIKE」じゃなくて、
『LOVE』のほうの『好き』」
みんなの空気や扱いで、
妙に意識をするように
なったりして。
次第にその子と
顔を会わせるだけで、
恥ずかしいような、
どきどきするような、、
ぎこちない緊張感を
覚えるようになった。
好きって、
こういう感じなのか。
そんなふうに思った。
* * *
中学に上がり、
たくさんの
新しい「友だち」と出会った。
男子も、女子も、
小学生の頃とは
比べものにならないほど、
たくさんの出会いがあった。
中学1年生の時。
僕は、クラスの女子と
仲よくなった。
その子としゃべっていると、
すごく楽しい。
その子が笑うと、
すごく嬉しい。
その子といると、
なぜか落ち着く。
かわいいなと
思っていたけれど。
好きかどうとか、
そんなことを考えたことは
なかった。
ただ、
その子がいるおかげで、
毎日、学校へ行くのが
楽しみだった。
怒られてばかりで
窮屈な学校生活も、
その子に会いたくて、
毎日、休まず学校へ行った。
それでも——。
その子のことを、
好きだとか何とか
考えたことはなかった。
学校の中で、
いちばん一緒に
いたい女子——。
それが、
「好き」だという気持ちだとは、
思いもしなかった。
幼稚園の頃、
仲のよかった
近所の女の子みたいに。
仲のいいのい女の子なのかと
思っていた。
バレンタインデーに、
その子からチョコをもらった。
「義理チョコだからね」
と言われて、
ちょっとだけがっかりもしたが。
そうか、そうなんだと、
納得したのも事実だった。
僕の「好きな子」は、
小学生のときに
公言した子なんだと。
中学生になってからも、
依然としてそれが「公認」で、
公私ともに、
それが「僕の好きな人」だと
思っていた。
* * * *
中学2年生になって。
僕は、好その、
「好きな人」に告白した。
好きだと言ったかどうか、
覚えはないが。
一緒に帰ってほしいと、
しどろもどろに懇願した記憶は、
ひりつくほど鮮明に覚えている。
自分の未熟さや
青さでしかないのだけれど。
その子との「「恋路」は、
ほとんど何もなかったと
言っていいほど、
惨憺たるものだった。
部活が終わった帰り道。
街灯の灯った
暗い国道を歩きながら、
懸命に話した言葉は、
走り抜ける車の音にさらわれて、
沈黙ばかりが際立った。
用意した話題も、
盛り上がらぬまま尽き果てて、
たった15分ほどの帰り道が、
出口のないトンネルみたいに重たく、
いたずらに長く続いた。
それでいて、
その子を見送る場所まで来ると、
このままでは
終わりたくないという、
敗北の悔しさに包まれ、
坊主頭の、短い襟足が、
未練がましく、
ぐいっと引っぱられる。
今日も、何もなかった。
手をつなぐことも、
楽しく笑い合うことも。
何も、なかった。
好きって、
こういうものかと。
そのときの僕は、
自分の無力さにじっと
歯噛みしていた。
顔色ばかり
気にしていた僕は、
一緒にいても
息詰まるばかりで、
退屈どころか、
きっと苦痛な
時間だっただろう。
夏休みが終わる頃、
僕は彼女に「ふられた」。
おそらく、
付き合ってもいないのだが。
お盆休みに、
梅田のキディランドで買った、
『いまどきの子ども』の
登場人物、「ツグム君」の
ぬいぐるみを、
あげた時の状態のまま、
返された。
悲しかった。
いらない、という
明確な答えが、
そこにあった。
ああ、これで、
終わりということか。
何もわからず、
何もできなかった自分。
誰だって、
好きでもない、
読んだこともない漫画の
キャラクターのぬいぐるみを、
いきなり渡されたら・・・。
きっと困惑するだろう。
ましてや、
ちっとも話が
盛り上がらない相手に
もらったのだから。
それは、
仕方のないことだ。
後年、成人してから、
この件について、当人に伝えた。
遠い過去の、笑い話として、
明るく話せたことはありがたい。
おかげで、辛酸な過去として、
墓場まで持って行かずにすんだ。
とにかく——。
僕の「好き」は、
夏の終わりを待たずに、
あっさり終わりを迎えた。
新学期。
掃除の時間に、
廊下を歩いていると、
教室から声が聞こえた。
「私が好きなのは、
イエハラだから!」
掃除道具入れの、
ロッカーの前で。
ちょっと怒ったみたいに、
叫ぶような大きな声で。
声はの主は、
1年生の時、同じクラスの、
「「一緒にいて
いちばん楽しい子」の
声だった。
そうだったのか。
僕は、
義理チョコに添えられた言葉を、
そのまま、
額面どおりに受け取った。
好きっていう気持ち。
2年生になって、
仲のいい友だちが、
その子を「好き」だと言っていた。
僕の好きな子は、
その子ではなく、あの子だと。
周りのみんなが、
そう思っていた。
僕自身ですら、
そう思っていた。
好きだったはずのあの子は、
もう「好きな子」では
なくなった。
好きだとかは考えなかった
その子のことが、
もしかすると、
好きだったのかもしれないと、
そう気づいた時——。
僕は、
仲のいい友だちの「好き」を
奪ってはいけない気がして、
好きなのかもしれないという気持ちを、
ぐっと喉の奥へと飲み込んで隠した。
なんだかすごく、
さみしかったけれど。
そのときの僕には、
そうする以外に、
何もできなかった。
* * * * *
好きって何?
ずいぶんと歳を重ねて、思う。
好きは、好きでしかない。
それは、
すぐにわかる。
一緒にいたい。
ずっと話していたい。
笑顔が嬉しい。
喜ばせたい。
もっと知りたい。
もっとあげたい。
わけっこしたい。
心おどって、ときめいて、
飽きることなく
ずっと見ていたい。
一緒にいると、
安心して落ち着く。
他に何も、いらない。
そう思えるくらい、
満たされた気持ちに
させてくれる。
好き、は、
すぐにわかる。
中学生ではない、
今の僕には、すぐわかる。
好きは、
心地よくて、疲れなくて、
大変だけど、元気になれる。
人でも、物でも、
「好き」を見つけることは、
難しくない。
けれど、
それに出会えるかどうかは、
わからない。
出会ったら、わかる。
中学時代に感じた、
あの気持ち。
それを
上回る気持ちがなかれば、
僕は、敗者だ。
これだ、と思える
「好き」に出会い、
ずっと大切にできたら。
僕は、成功者だ。
好きって何?
説明はできないけれど、
僕にはわかる。
これが、
好きというものだと。
本当の好きは、
好きとかどうとか、
考える間もなく
「好き」だから。
呼びかたなんて気にせず、
心に従うだけでいい。
人は勝手なことを言う。
言葉は、心を惑わせる。
好きは、言葉で説明できない。
好きの他に、言いようがないから。
目の前に
「好き」が現れたとき——。
すぐにわかる。
頭より先に、心がわかる。
頭が邪魔をして、
心がそれを
「好き」だと気づかなかったり、
「好き」ということを
大切にしなかったり、
最初の気持ちを
忘れてしまったりすると、
「好き」だったものが
「好き」でなくなってしまう。
せっかく見つけた「好き」だから。
せっかく出会った「好き」だから。
目の前の「好き」を、
最初の気持ちのまま、
ずっとずっと
好きでいたい。
好きは、いいものだから。
「好き」に好かれて、
「好き」と両想いで
いられるように。
目の前の「好き」を、
思いっきり大切に
好きでいようと思う。
押しつけることなく、
拒むことなく。
目をそらすことも、
耳をふさぐこともなく。
好きを、
全身に受け止めたい。
好きって何?
愛とか、恋とか、欲望とか。
好きは、
すべてを包括して、
超越する。
この感じ。
まだまだ言葉では
言えそうにない。
好きって何?
誰かに止められようとも、
誰に何を言われようとも、
ゆるがない気持ち。
最初で最後の「好き」。
そんな「好き」に
出会えたなら。
「好き」に好かれて、
好かれ続けられるように。
最初の気持ちを、
最後まで忘れない。
このお話が、
何のおちも結末もなく、
気持ち悪いまま
気持ち悪く
終わるのと同じく。
最初の気持ちは、
最期の瞬間まで、
忘れない。
< 今日の言葉 >
『発見というのは、
自分のよく知る場所に
隠れていたりする。
ただそれが、
大きすぎたり、小さすぎたり、
気づけていないだけなんです』
(マヤ文明について語る、考古学者の言葉より)
