《家原美術館2019》
準備期間は、
3月5日から5月5日の2カ月間、
滞在日数43日。
滞在型の制作にしては、
これまでになく短い滞在日数だったのですが、
これまで以上にすばらしい会場に
仕上がったと自負しております。
会場となる場所は、
元診療所の建物で、
今回、初代医院の関係者の方からお話をいただき、
家原美術館の会場として
使わせていただけることとなりました。
この方との出会いは、
さかのぼること4年前、
岐阜、繁華街のはずれの住宅地。
『家原美術館2015』の会場前の路上であります。
昼下がりの、よく晴れた午後。
休憩がてら、路上の片隅で紫煙をくゆらせておりました。
銀色の陽光を受けて過ぎさる人影。
ぼくの前を通り過ぎたかと思うと、
その方は、はたと足を止め、
くるり振り返ってぼくを指差しこう言いました。
「あなた、今朝の朝刊に載ってた方?」
ちょうどその日は、
家原美術館のことが
新聞記事に掲載された日でありました。
「はい、そうです」
「あとで観にきていいですか?」
「はい、もちろんです」
「それでは、あとで」
と、またくるり踵(きびす)を返して、
ぼくの前を去っていったその方。
のちに会場に来られて、
大いにたのしんでいただき、
さらにはご家族もつれてきてくださって。
その方は、めったに出かけないはずが、
お昼にふと「天津飯が食べたい」と思って、
お目当てのお店に出かけた帰り道だったと。
そのときぼくは、会場ではなく、
階下の路上でひと休みしていたのであります。
瞬間の、偶然。
ひらめきと行動。
あれから5年。
こうしてできた「偶然」のご縁が、
今回、このような形で結実したのであります。
掃除をしながら、「終わるのかな」と軽く疑い。
塗装をしながら、「間に合うのかな」と浅く戸惑い。
時計の針は、確実に前へと進んでいる。
決して後ろに進むことは、ない。
あせることなく、
ひとつひとつをたのしみながら、
手を動かしていく。
小さく、微々たるものの集積でも、
集まり、束になれば形になる。
時間の束。
ていねいな線の積み重ねは、
ていねいに編まれた面になる。
ときには勢い、衝動に身を委ね。
深追いはせず、たのしむ心を忘れない。
くだらないものへの愛。
無駄の集積。
正解のない世界でやっているのだから。
正解なんて、あるはずがない。
だったら自分がいいと思うようにやるだけだ。
・・・そんなことを体感した、この43日間。
会場でみなさまがどう感じるのか、
頭に浮かんだ「絵」を現実化するために。
やりながら、手を動かしながら、
その場で感じてつくりあげた会場です。
むずかしいことは考えず、
心ゆくまでたのしんでいただけたら、
と思っております。
それではみなさま。
家原美術館2019、
会場にてお会いしましょう。
家原美術館2019イメージキャラクター/家原令和元年利明
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< 今日の言葉 >
「テレビとかまったく観てないから、
ガンダムの髪型とサザエさんの髪型が同じに見える」
(家原美術館2019滞在制作中に浮かんだ言葉)