2008/09/23

ほら、ホラ



「神さま」(2008)




タケちゃんマンは、
ホラ貝を吹くとやってくるけれど。

小学生のころとかには、
いわゆる「ほら吹き」が
ぽつぽつといた。


彼らの“ ほら ”は、
すぐに「うそ」と分かるものが多く、
たいてい何枚ものうそを
重ね着していく。

追いつめられると、


「ほんとだって、
 いとこのおじさんにきいてみてよ」


などと、確かめようの
ないことを言ったりする。


だまされかけたことは
何度もあるけれど。

どれも、些細なうそばかり
だった気もする。


ちっちゃなうそを重ねる彼らのことを、
どこか、にくみ切れなかった。



こんな歌を、
小学校の音楽の時間に教わった。

『トムピリピ』という歌だ。


「トムピリピは2隻、
 お船を持っている・・・
 ・・・仲良しになりたい。
 大金持ちの、トムピリピ」


というように。

トムピリピという男は、
大きな家に住み、船を持っていたりで、
たいそうな金持ちという内容だ。

そんな(大金持ちの)トムピリピだから、
みんなは「仲良しになりたい」と思う。

しかし、物語(歌)が進むにつれ、
トムピリピの言っていた話が
どれも「つくりごと」だと判明する。


「トムピリピの癖は、ウソをつく癖。
 お家も船も、つくりごと」


そして最後、


大ぼら吹きの、トムピリピ」


といった具合に、歌は終わる。


言ってしまえば、
寂しがりやで、見栄はりな男の歌なのだ。

大ぼら吹きのトムピリピ。

ほら吹きだと分かっても。
それでもみんなは
「仲良しになりたい」と思っている。


たぶんみんなは、
はじめから分かっていたんだと思う。

ぜんぶうそだということを。


この歌、いまにして思えば、
ものすごくふところが深い。

愉快なほら吹き男の、
人徳もあるだろうけれど。

次から次へと出てくるうそを
楽しむ「おおらかさ」に、
なんとものんびりとした
空気を感じる。

罪のない「うそ」に
「だまされつづける」寛容さ。

みんなには、
大ぼら吹きのトムピリピに
つきあう「ゆとり」があるのだ。





さて。

小学校の頃、
ガンダムのプラモデル、
俗にいう「ガンプラ」が、
かなりの勢いで流行っていた。


とにかく新しい
モビルスーツのガンプラを買い、
いかにうまく作るか、
ひそかな勝負が熱く繰り広げられていた。

年上の兄がいたりすると有利だった。

着色や改造など、
同年ではむずかしい技術や
知識を共有できるからだ。


当時のガキどものあいだでは、
ハイレベルで、
完成度の高いガンプラが
部屋に飾ってあることは、
どんなに高級な壷を飾るよりも
まばゆいステイタス・シンボルだった。


きらびやかな「あこがれ」に浸りたい。

けれど、現実にはかなわない。


そんなとき、どこからともなく、
“ ほら吹き ”が現れる。


僕のクラスにいたのは、

「しんせきのおじさんが、
 バンダイのシャチョウだ」

と言って自慢をする子だった。


「だから、ガンプラは
 ぜんしゅるいもってるし、
 1ぶんの1(原寸大)のガンダムも、
 おじさんの別荘においてある」

ってなことも言っていた。


確証はないけれど。

かなり「あやしい」気がする
自慢が多かった。

たいてい理由をつけて、
見せてはくれない。


一度など、

「ここにガンプラがかくしてある」

とはるばる遠くまで連れて行かれた上に、

「ぬすまれた」

と言って、結局、
真っ暗になった夜道を
えんえんと帰らされたこともある。



● ●



もうひとつ流行った
もののなかに、
『ビックリマンシール』がある。

僕は、それより前のシリーズ
『まじゃりんこシール』で
全盛を迎えていたため、
悪魔やら天使やらの出てくる
ビックリマンブームのことは、
やや冷めた感じで見ていた。

シール自体も、
自分で買うことはなく、
当初は誰かにもらったものが
何枚かあっただけだった。


ある日、
同じクラスの「ブーちゃん」が、
僕を含めた3人を家に呼んだ。

3人とも、ブーちゃんの
家に行くのは初めてだ。


「家にあるビックリマンシール、
 ぜんぶ持ってきてよ」


ブーちゃんの言葉どおり、
僕らはありったけの
ビックリマンシールを持って、
家に向かった。


家に着くなり、ブーちゃんは、


「ビックリマンは?
 はやく見せてよ」

と言った。僕らは、

「ブーちゃんのも見せてよ」


と言いながら、
輪ゴムで止めた分厚い札束のようなシールを、
いかにも大事そうに持っていた。

ブーちゃんのシールを
見せてくれたら、こっちも見せる、と
友だちのひとりが切り出した。

するとブーちゃんは、
ややどもりながら、こう言った。


「し、シールは、
 や、屋根裏にある」


じゃあ取ってきてよ、と言うと、
ブーちゃんは少し黙った。

屋根裏部屋というものに
興味を持った僕は、
じゃあみんなで上がろう、
というようなことを言った。

またしてもブーちゃんは、
どもりながら、こう言うのだった。


「い、犬がいるから、ダメ」


「ええっ、屋根裏に
 犬がいるのっ?!」

すぐさま驚きの声が上がった。

「そ、そう。
 い、い、犬がいる」


顔を見あわせた僕らは、
仕方なく、あきらめることにした。


友だちのひとりが
「見せてくれないなら帰る」
と言い出すと、ブーちゃんはこう言った。


「わかった。
 いまから屋根裏に取りにいくから、
 目つぶってて」


屋根裏部屋への入口は、
誰にも秘密だということだ。

そしてなぜか、ブーちゃんは、
こうつけ加えた。


「取ってくるから。
 だから、目つぶって、
 ビックリマンをここに
 ぜんぶ置いておいて」


床の中央を指差され、
僕らは首をかしげながらも、
しぶしぶ言うとおりにした。


長い、沈黙だった。


妙な物音が気になり、
僕はこっそり薄目を開けて見てみた。


あやしいとは思っていたけれど。

まさか、と自分の目を疑った。


なんと。


ブーちゃんが、
床に置かれた分厚い束から、
ごっそりとシールを抜き取っていたのだ。


気をつけて見てみると、
ブーちゃんは、ばれそうで、
ばれなさそうな、
微妙な枚数を抜き取っているふうだった。


そう思ったのも、
僕のペラペラの束からは、
見ただけで1枚も抜こうと
していなかったからだ。


ほかの2人は気づいていない。
僕は、よっぽど声を出そうかと思った。


けれど。


あまりにも「真剣な」表情の
ブーちゃんを見て、
声が、出せなくなった。


「い、いいよ。目、あけて」


ブーちゃんがそう言って、
やや厚みのある
ビックリマンの束を差し出した。


キラキラの、
スーパーゼウスもあったし、
他にもめずらしい
天使のシールが何枚かあった。


「なんだ。けっこう
 持ってるやつばっかだな」


ブーちゃんの
 “ コレクション ” を見て、
友だちがそう言った。


たしかに、当たり前である。
さっきまで自分の束に
あったのだから。


5分もしないうちに、
なぜか急にブーちゃんは
「用事ができた」と言い出した。

そしてすぐに、僕らを
追い返すようにして帰らせた。


帰り道。


迷ったあげく、
僕は、友だちに言った。


「シール、へってない?」


あわてて友人たちは、
シールを調べ、ああっ、
と口々に声をあげた。


翌日、ブーちゃんに言って、
シールは返してもらった。

誰にも言わない、という約束で。

無事にシールが返ってきたので、
友人2人もそれ以上、
何も言わなかった。



チッポケなウソをついた夜には
 自分がとてもチッポケな奴
 ドデカイ ウソをつきとおすなら
 それは本当になる

(『泣かないで恋人よ』作詞・作曲/真島昌利)



些細なウソをついて、
少しのあいだ「酔って」いたい。

そんな罪なき “ ほら吹き ” たちは、
うそと分かっていながら、
どこかそのうそを自分でも
「信じて」いたんじゃないかと思う。


うそと分かっていて、
他人を巻き込むような
うそをつくのはよくないけれど。

誰も傷つけずに、
人を楽しませるような
うそなら大歓迎だ。


うそみたいな出来事が多い、
こんな世の中ですからね。

ふわふわしたうそに、
ずっとだまされつづけていたい。


そして、ずっと
だましつづけていたい。


他の誰でもなく、
自分自身を。



< 今日の言葉 >

グレコローマン?
ああ、たしか
「1000のキズを持つ男」
とかいう超人だよね。

(「マン」がつくとすべて、キン肉マンの超人だと思い込む、成長の止まった男)

※ ちなみに正解は「バッファローマン」でした。