#9

 




白いシャツを取り出し、
上半身裸になったA男は、
ぎゃっ、と
短い悲鳴をあげた。

興奮した手がシャツをつかみ損ね、
するりと滑り落ちて足元に落下。

個室に入る際、
確認作業を怠ったのも悪かった。


買ったばかりの白いシャツ。
まだ袖を通す間もなく、
汚れた染みをしっかりデザインした。


すぐに対処すればまだ、
何とか救いようはあったもしれない。


けれどもA男は、
足元に落ち、
みるみるうちに染みをプリントする
まっさらなシャツから目が離せず、
まるでそれが映画の一場面のような現実味のなさで
自分を置いて進行していくさまを、
ただただ興味深く、
あっけにとられるふうでもなく、
静かに見つめていた。


一瞬なのか、
それとも永遠なのか。

それすら分からない沈黙の時間。
ノーコメント・モーメント。


そのときA男が選んだのは、
白シャツを救う道ではなく、
残りの品物と
おしゃれなビニールバッグの保持という
選択肢だった。


正しいとか間違いとか、
そういうことよりも。

そのときのA男が下し得た、
最善の答えだった。


(ライフ:−4ポイント