#26






手渡した寿司を
口にしたかと思うと、
いきなりB子が泣き出した。

天井を仰ぎ、
鼻をすするB子に、
A男はうろたえた。


「ど・・・どうしたの?」


「何でもない・・・」

鼻をすすりながら、
手のひらをそよがせるB子。


「何でもないのに、どうして・・・」


立ち上がりかけたA男を、
B子の声が引き止めた。


「わさび、効きすぎた」


「なんだよぅ、もう」




そんなふうにして盛り上がった
夢の手巻き寿司パーティも。
やがてフィナーレを迎える。


「デザートあるよ」

冷蔵庫から、
型に入ったプリンを取り出す。


「覚えててくれたの?」


「そんなの、
 忘れるわけナイチンゲールだよ」


「感動ー・・・」

B子が声を詰まらせる。


プリン好きのB子のために、
昨夜、作ったものだ。

スーパーなどで売っている、
簡易的な「プリンのもと」だが。
生クリームなどを混ぜ込んだ、
A男特製のスペシャル・プリンだった。


皿にぷりん、と落とし、
プリンをほおばる。


またしても鼻をすするB子に、
A男は再びうろたえた。


「え、どうしたの?」

愚直に問いかけるA男に、
ひとつ笑って、B子が言った。


「わさび、効きすぎた」


笑うB子の頬を、
丸っこい涙がころりと転がる。


A男は、このまま死んでもいい、
いや、このまま生きつづけたい、と。

すごくそう思った。