2025/08/15

パズルな人生


『じっとしたセミ』(2014年)


 


南半球に住む友人と

やりとりしていて。


友人が、

ジグソーパズルを組んではくずして、

また組み上げていくことに

はまってる、と聞いて、

ふと思った。


人生は、パズル。


組んではくずして、

また組み上げる。

そのくり返し、その連続。


そんなことを、ふと思った。


* *


完成した「絵」を

そのまま完成として飾るもよし。

完成を迎えるのではなく、

くずして、また

組んでいく過程を楽しむもよし。


完成形はあっても、

完成はない。


終わりのない完成。


パズルは、人生。

人生は、パズル。


パズルをする人、しない人。


初めから完成している「絵」を眺める人。

誰かの描いた「絵」を眺める人。


ゆっくりと過程を楽しむ人。

完成を急いで突き進む人。


うっかりピースをなくす人。

思わずパズルをくずしちゃう人。

パズル自体を作っちゃう人。


パズルと人生。


いろいろな形があって、

おもしろい。


* * *


見たい人は、見ようとする。


やって「みたい」。

して「みたい」。

見て「みたい」。

「みたい」という気持ち。


味わいたい人は、

よく噛んで食べる。

ゆっくりと噛みしめ、

じっくり楽しむ。


ジグソーパズルに、

説明書は付いていない。


ただ、完成形の絵が描かれている。


一つ一つのピースは、

どれもがおなじように見えるけれど。

手に取ってじっと見てみると、

全部ちがって、

まちがったところには

ぴったりはまらない。


目。感触。感覚。

観察。経験。積み重ね。


理屈じゃない。

説明書は、必要ない。


自分が思った「絵」を目指して、

自分が思い描いた「絵」を目指して、

ひたすら組んでいけばいい。


小さなことの、くり返し。

地道なものの、積み重ね。

一つ一つのピースがつながって、

気づけば大きな一枚絵になる。


始める前のわくわく感。

絵がつながったときの感動。

完成が見えてきたときの興奮。

長い時間をかけて組み上げ、

完成したときの喜び、達成感。


パズル。

人生。


数で満足する人もいる。

ピースや完成枚数、難易度。

そこに描かれた絵に

価値を見出す人もいる。

満足の基準は、

人それぞれの尺度がある。


完成図はあっても、正解はない。


ここらへんは生垣の部分だな、と。

ざっくり「色分け」して組んでいく人。

四隅から固めて、

どんどんつなげていく人。

わかりやすいところからつないで、

転々と進めていく人。

この横にくるのは・・・と、

ピースの山から探し出す人。


完成したパズルを、

額に入れて飾る人。


角がぼろぼろになるまで、

何度もくり返し遊び続ける人。


途中でやめちゃう人。


やりかけのパズルばかりが

たくさんたまっていく人。


買っただけで、やらない人。


買ったままの状態で、

開けられない箱が、

どんどん積み重ねられていく人。


それも、パズル。

それでも、パズル。


組むことがパズルではない。


パズルは常にパズルであり、

最初から最後まで

ずっとパズルのままだ。


組むも、組まないも、

パズルを手にした人の自由。

完成させようがさせまいが、

その人の自由だ。


どんな「絵」を見たいか、だけではなく。

どんなふうにしてその「絵」を見たいのか。


パズル。

人生。


人生は、パズル。

パズルは、人生。


目に見えるものが

すべてではない。


目に見えないものが

見えるようになってこそ、

その絵のすばらしさがわかってくる。


音楽を聴きながら。

お菓子を食べながら。

誰かと一緒におしゃべりしながら。

大きな背中にもたれながら。

小さな頭を背中に感じながら。

雨の日に。天気のいい日に。

暑かった夏に。寒かった冬に。

窓辺からの日差しを感じながら。

途中で洗濯物を取り込みながら。

愛犬にじゃまをされながら。


そんなふうにして組んだパズルは、

そこに描かれている絵以上に

ゆたかな景色を見せてくれる。


完成だけが、完成ではない。


パズルを楽しめる余裕こそが、

人生の醍醐味なんだと。


南半球からのメールで、

ふと気づかされた。



かくいうぼくの

パズルの現状は。


くしゃみをした拍子にひじが当たって倒れかけたからっぽのグラスを支えようと手を伸ばしたものの目測を誤って机の天板の底面を思いっきり撥(は)ね上げてしまいこれまで長い時間をかけて組み上げてきた何万ピースもの絵が見る影もなくばらばらにくずれてしまったのだけれど花火のように散らばったパズルの残像がゆるやかに目の奥に焼きついてそれがものすごくきれいだなと回想しつつ床のあちこちに点在したピースをお花畑みたいにぼんやり眺めながらひとり肩をゆらして声なく失笑しているような状態です。


嗚呼。

人生は、パズル。

パズルは、人生。


最後まで笑って、

楽しんでいきたいものですね。



< 今日の言葉 >


『大丈夫って言ってる人、

 たいてい大丈夫じゃ

 ないんですよ』

 

(映画『ヤクザと家族』より)