#25




昨日のうちに買っておいた花束、
と言っても、2本の花を束ねただけの
簡素なものだが。

彼女に喜んでもらうだけの効果は、
充分すぎるほどあった。


「ありがとー」


そんな彼女の笑顔が、
A男にとっての何よりのご褒美(ほうび)だった。



手巻き寿司パーティの始まり。


「具はね、はんぺんとちくわと、
 かまぼことカニカマ。
 あとはキュウリとカイワレがあるよ」


「なんか練り物、多くない?」


「練り物は体にいいんだよ。
 カルシウムも豊富だし、
 かめばかむほど粘り強い子に育つって
 昔から言われてるし」


「A男は何でも知ってるね」


B子からの尊敬のまなざし。

何度浴びてもくすぐったい。

えへへ、と照れて頭をかきながら、
さっそく海苔を手に取り、
酢飯を盛っていく。


「あれぇ、おかしいな。
 昨日はうまくいったんだけどな」


シャリや具がこぼれてうまく巻けず、
手際に手間取る手巻き寿司。


「やっぱ味付け海苔じゃ、
 むずかしいか」


ぽつりつぶやくA男に、
B子が声をあげる。


「ほら、見てっ。
 こうやってはさめばいい感じ」


巻くのではなくサンドする。

なるほど!

そのコペルニクス的発想転換に、
A男はぐるりと舌を巻き、
畏敬(いけい)の念に打ちひしがれた。


「サンドイッチか・・・。
 さすが現代(いま)を生きる、
 都会(まち)のヤングガールだ」


A男は、B子のために作った
手巻き寿司ならぬサンドイッチ寿司を
彼女に手渡した。