#2

 


路上の100円玉に手を伸ばし、
指先が届きかけたちょうどそのとき、
胸ポケットにしまっていたお釣りの小銭たちが
音を立ててこぼれ落ちた。


落ちた先は金属製の、網目状のドブのフタ。
500円玉2枚と、残り876円、
合わせて1,876円也。


お賽銭(さいせん)のごとき軽やかさで
吸い込まれていった小銭に舌打ちしつつも、
かろうじて十字部分に乗っかっていた500円玉に、
何と自分は運がいいのかと
白い歯をのぞかせて大きくうなずき、
ゆっくり手を伸ばすも、目測を誤り、
助かったはずの500円玉をも
真っ黒なドブの中へと落下させてしまう。


しかも、100円硬貨かと思われたそれが、
車に踏みつぶされたジュースのフタだと知り、
さらにがっくりうなだれる。


気持ちまでもがドブのように
真っ黒くなりかけたA男だったが、
急に奇声を発したかと思うと、
重たい鉄製のフタに手をかけ、
檻(おり)に閉じ込められた野人のごとく勢いで、
両腕を激しくゆすり始めた。



(ライフ:−2ポイント