《家原美術館2015》岐阜。
長きにわたり開催しました展覧会も、
おかげさまで大盛況のうちに幕を閉じました。
ご来場いただいたみなさまはもとより、
今日まで支えてくださったみなさま、
ときどき思い出して微笑んでくださったみなさま方、
本当にどうもありがとうございました。
会期中、いろいろなことがありました。
毎日が物語のような出来事の連続で、
1日が3日くらいに感じられたこの数カ月。
本当に、濃ゆい数カ月でした。
現場の下見に行ったのが2014年末、
まだ寒いさなかでありました。
準備に入ったころ、
すぐそばの公園には桜が咲いておりました。
それが散ったかと思うと、
新緑が生い茂り、
セミが鳴きはじめ、
いくつかの台風が去来した後。
この《家原美術館2015》が開館し、
閉館のころには、
すぐそばの公園から
キンモクセイの香りが立ちこめておりました。
季節を3つ、4つ駆け抜けた《家原美術館2015》。
語りたいことは、
大盛りライスのようにてんこ盛りでございます。
会期中の出来事につきましては、
次回『其の2』以降で語ることとして。
まずは、開催までの過程、
展示空間が完成するまでのようすを
お伝えいたしたいと思うのでございます。
いってみれば、
『家原美術館2015〜中間報告・其の3』からのつづき、
といった流れであります。
会場のようす、開催期間中の出来事などは、
追ってお伝えしようという所存でございますゆえ、
どうぞ気長にお待ちくださいますことを
お勧めいたします。
それでは『回想録・其の1』、
は〜じま〜るよ〜!
※今回もまた長尺になることが予想されますので、
手元にお菓子とお飲み物を用意したうえ、
お手洗い等をお済ませになってからお読みください。
★
5月1日(金)晴れ <16日目>
家を出て駅の改札をくぐり抜けてから、
忘れものに気がついた。
駅員さんに話すと、
改札口を開けてくれた。
帰宅し、再び駅。いい陽気に汗ばむ。
今回の制作で使用したのは、赤、黄、青、白、黒の水性ペンキ。 日を浴びたそのさまは、まるでヒーローかスターであります。 |
ペンキ、赤(4㎏)。
まず、やってみて、それから考える。
まずは赤色のペンキから。 |
純白の中にたたずむ白衣姿。 さあ、はじめるよ! |
真っ白い空間。 |
13時37分 |
14時06分 |
15時19分 |
15時56分 |
16時11分 |
16時30分 |
13時37分 |
赤を塗った。
ただ、何も考えず、描きなぐった。
どうなることかはまだ分からないけど、
100でやる。100にする。
赤いペンキのついた白衣。 |
この白衣を着たまま、ポカリスウェットを買いに行ったら、
すれちがう人みなが二度見、三度見でふり返った。
病院のひしめく界隈(かいわい)で。
血のような「赤」がついた白衣。
そりゃあ見るよね、誰でも。
5月2日(土)晴れ <17日目>
よく眠った。
ひと晩つけ込んだフレンチトースト。
めちゃくちゃおいしかった。
クリームサンドチョコクッキーも
すごくおいしく感じた。
9時50分、始動。
ペンキ、黄色(4㎏)。 |
10時27分 |
11時04分 |
12時30分 |
しまった!
パピコ(チョココーヒー味)食べる前に
カフェオレ飲んじゃった!
14時11分 |
15時12分 |
16時08分 |
16時28分 |
16時42分 |
赤に、黄色のついた白衣。 こうなると、三度見する人もいなくなった。 |
17:00。黄色、終了。
刷毛が、ドレットになった。
髪の毛が、タイガースになった。
19:00、晩ごはん。
5月3日(日)晴れ <18日目>
8:00起き。
9:45準備、10:00始動。
うすピンク/ペンキ赤:白=3:1
天井、うすピンク |
左手、青 |
1本ずつ、少しずつ、線をつないで、
そこからまた考える。
13:30、青(ピンク+原色青)。
17:05、終了。
5月4日(月)雨 <19日目>
床、水色 |
右正面壁、青 |
黄緑、青 |
床、黄緑 |
透けたり、刷毛がぼさぼさで
コントロールしにくかったりで
へこたれそうにもなったけれど。
自分を鼓舞して立て直す。
と、それが線にも出てくる。
いつ完成するのか、どれくらいなのかと。
思えばそこでおしまい。
19:50、うす紫。
22:00、終了。
左手、うす紫 |
5月5日(月)晴れ <20日目>
8:00起床。
朝から『トム・ソーヤーの冒険』を読んで涙々。
床、青と、 |
天井、うす紫 |
★ ★
5月9日(土)曇り <22日目>
刷毛では描きにくかったので、筆を用意した。 |
天井、赤 |
天井、水色 |
右手正面壁、赤 |
左手下方、白ピンク。天井中央、うすピンク。 |
5月10日(日)晴れ <23日目>
快晴。風もおだやか。
右壁、うすピンク、青 |
左手、床の間、赤 |
左、茶色 |
同じ色は二度とできない。
まったく同じ色は、二度とできない。
5月11日(月)晴れ <24日目>
ひんやりとする朝。
空も、冬みたいな色だった。
天井、緑 |
正面、群青色 |
『永遠さえも白髪になっているにちがいないという気がした』
(『トム・ソーヤーの冒険』より)
5月12日(火)曇りのち雨 <25日目>
右肩の筋がおかしい。痛い。
体が痛くて朝、起きづらかったけれど、
10:00には開始。
正面、うすピンク。右正面、青紫。 |
右手、ふすまと壁面。 |
激しい雨。
居室廊下にも小さな雨漏り。
「線の終わらせ方」
5月13日(水)晴れ <26日目>
雨上がりの快晴。
高さのちょうどいい、風呂のイス。
「定位置」から見るために置く。
立て膝からの解放。
テニスのボールボーイのような日々との決別。
右下方向、ピンク |
茶色の横、ピンク |
5月14日(木)晴れ <27日目>
爽やかな快晴。
左上方向、ライトグリーン |
調色のむずかしさ。
照明との関係。
塗ってみて、乾かして、気に入る色になるまで塗る。
5月15日(金)晴れ <28日目>
深く眠った。
今回、現場に来て1週間が経った。
右下方向、青 |
青、あらため青緑。左手、緑。 |
天井、オレンジ。右下方向、青グレー。 |
5月16日(土)曇り時々雨 <29日目>
椅子と椅子固定具、完成。
★ ★ ★
5月19日(火)晴れ <30日目>
雨上がりの快晴。
昨日、車でペンキを置きにきたのが
遠い昔のことに感じる。
赤2㎏と黄色3㎏を買い足した。
右下方向、オレンジ |
緑も、黄緑も、
オレンジ色も、クリーム色も。
みんな黄色が必要だ。
黄色の偉大さ。
5月20日(水)晴れ <31日目>
朝食(晩ごはんしかり)。
量より品目。
いろいろな味、種類を食べると、
いろいろ感じる受容体が目覚める。
左上方向、紺色 |
いきなりすぐに、
いい感じになるものでもない。
5月21日(木)晴れ <32日目>
夜中の雷鳴、豪雨。
朝はさわやかな晴。
天井右手、ウォームグレー |
5月22日(金)曇り時々晴れ <33日目>
5月23日(土)曇り <34日目>
想像力、対応力、選択。
5月24日(日)曇り <35日目>
「散らかった頭がまとまった」
★ ★ ★ ★
5月27日(日)曇り <36日目>
予定より遅刻した電車の中で、
オーストラリアから一時帰国した友人とばったり。
すごい確率。
5月28日(木)晴れ時々曇り <37日目>
蒸し暑い夜から朝。
冷房なしは慣れているけど、
鉄筋コンクリートの暑さは暑い。
5月29日(金)曇り <38日目>
8:00。ジェット機が目覚まし。
難所。
よく見て、シンプルに感じること。
5月30日(土)晴れ <39日目>
暑い、風のない朝。
10:30ごろ、窓の外、
階下から何やら声がしたので覗いてみると、
女の人がこちらを見上げて話しかけてきた。
「その音楽いいね、なんていう人?」
「ラモーンズです」
「え?」
「ラモーンズっていう、70年代のバンドです」
「かっこいいね。ここでずっと聴いてたからさ」
「あ、ありがとうございます。
迷惑じゃなければよかったです」
「たぶん、迷惑なんじゃない?
向こうから歩いてくるときずっと聞こえてたから」
「え、そうなんですか?」
「夜中はだめだよ。迷惑だから」
「はい。朝も10時ごろからですから」
「夜中はだめだよ」
「はい、分かりました」
うなずく女の人。
「ありがとうございます」
と、手を合わせて、
再びうなずく女の人に敬礼。
そのまま静かに後ずさりしながら、
女の人の視界から消えると、
フルボリュームの音楽の音量を
少し下げたのでした。
やさしく、諭してくれた女の人に、
感謝しつつ。
明日からはひかえめな音量で
聞こうと思ったのであります。
自動販売機にポカリスウェットを買いに行ったら
10円足りなくて戻る道すがら、
50円玉が埋まっていると思ったら、
ワッシャーだった。
夜、屋上で一服。
屋内より外のほうが涼しい。
5月31日(日)晴れ <40日目>
7:25ごろ。
快晴。
風のほかには誰もいないような静かな朝に、
昼すぎまで寝てしまったかと思い、
時計を見る。
そのまま起きて、のんびり朝食。
昨晩は体が痛くて
何度も寝返りを打ったのを覚えている。
右腕のしびれ。
けれどよく眠った。
雨の予報が、晴れた。
★ ★ ★ ★ ★
6月3日(水)雨のち曇り <41日目>
家を出るころには雨も上がった。
じっくり見て、色、流れ、形を決めていく。
中央、うすピンク右手の緑青を
何度も消して描き直す。
音楽の合間、
外の道路を自転車で走り去るおじさんが、
「ふあぁぁぁ〜ぁあ。眠いな、ちくしょう!」
と、大あくびのあと
大きな声で言うのが聞こえた。
6月4日(木)晴れ <42日目>
6月5日(金)曇時々雨 <43日目>
肌寒い朝。
外に出たとき、
信号待ちをしながらぼんやりと
レストランのメニューに目を向けていたら、
自転車に乗った男性にいきなり声をかけられた。
「1ポンドハム食べれば?」
最初、その男性はこう言っていると思った。
「え?」
と、聞き返すと、
「いちばん高いの食べれば?」
と言っているのが分かった。
そう言い残し、男性は、
信号が青になったと同時に、
「カウンターー!!!」
と、大きなおたけびをあげて、
全速力で自転車をこいで去っていった。
商店街で、
ずっと目をつけていた置物を買った。
いつも覗いていたお店が
金曜日ということで開いていて、
ようやく買うことができた。
6月6日(土)晴れ <44日目>
6月7日(日)晴れ <45日目>
朝、目を覚ますと、
いい声の「さお竹屋さん」がきたのかと思って、
よく耳を澄ますと、お経を読む声だった。
すごくいい声とメロディだった。
6月8日(月)曇りのち雨 <46日目>
スティーブ・ライヒ(Steve Reich)の
『18人の音楽家のための音楽(Music for 18 musician)』は
集中できる。
時間の密度がものすごく濃くなる。
6月9日(火)曇り <47日目>
6月10日(水)晴れ <48日目>
☆ ★
さて。
そろそろ朝が迫ってきましたので、
今回はここまでにいたしましょう。
次回は<49日目>から。
おそらくまた
すぐにお会いできると思いますが。
どうかそのときまで、
みなさまごきげんよう=♡×100
・家原美術館2015〜中間報告・其の1
・家原美術館2015〜中間報告・其の2
・家原美術館2015〜中間報告・其の3
< 今日の言葉 >
「豆が たいずき」
(豆が大好き/「豆」と「大豆」と「大好き」をかけた
ハイクオリティな だじゃれ)