会社勤めのころ。
仕事に忙殺されそうなとき、
ひと息つくため、ふらりと散歩へでかけた。
あてもなく、近くをぶらつく。
ふらふらと歩き回る。
そんなとき、「街の天使」に出会うことがある。
乳母車を押す、
三つ編みのおばあちゃん。
生え際から、
頭の半分くらいが白い地毛で、
ふたつ編みの三つ編みは茶色い髪色。
その髪型はまるで、
「耳の細いスヌーピー」のようだった。
乳母車をゆっくり押し進めながら歩く
おばあちゃんを見て。
思わずぼくは、
こわばった頬をゆるめていた。
また別のあるときには、
スキップで歩く女の人を見た。
アジア系の、
おそらく20代前半くらいのその女の人は、
待ち合わせ場所に立つの彼の元へ
弾むようなスキップで駆け寄った。
なんだかすごく微笑ましい光景に。
ぼくは、心をなでられたような
気持ちになった。
そんなふうにして、
いつでも「街の天使」に救われてきた。
季節はずれの黄色い蝶々や、
ビルとビルとのあいだの空に浮かんだ
赤色の風船とか、
どこからかふわり飛んできた
虹色のシャボン玉とか。
そんな、メルヘンで
乙女チックな「天使」たちもいる。
つい先日。
電車にゆられながら、
見るともなしに流れる風景を目に映していると、
雨のなか、緑の生い茂った河の土手の上で、
耳のたれた茶色のイヌが
おしりを下げてうんこをしていた。
鉄橋を渡る電車の音に反応したのか。
そのイヌは、
つぶらな黒目をこちらに向けて、
なんだか申し訳なさそうな顔をしていた。
目覚めの悪い雨の朝だったけれど。
そのなんともいえないイヌの姿に、
声もなくぼくは、ふふっと笑った。
スーパーマーケットの野菜売場では、
野菜たちに負けないくらい鮮やかな、
フレッシュ・グリーンの
ジャージの上下を着たおじさんが、
真剣にレタスを選んでいた。
あまりにも新鮮な色の、
蛍光色にもほど近いフレッシュなグリーン。
ぼくは、
おじさんが「野菜の妖精」なんじゃないかと、
軽く疑った。
駅までの帰り道。
ひとり夜道を歩いていたら、
前から2人組のおじさんたちがやってきた。
きっちりネクタイを締めた、
会社帰りのおじさんたち。
そのおじさんたちとすれちがうとき、
ちょうど2人のあいだをすり抜けるような格好になった。
すれちがう、その瞬間。
乾いた音が「ブリッ」と鳴った。
まぎれもない「屁」の音に、
思わずぼくは腰が砕けそうになったのだけれど。
右か左、
どっちのおじさんがしたのか、
結局、分からずじまいだった。
闇に溶けたおじさんたちの背中に。
遅れて笑いがこみ上げた。
疲れていても、忙しくても。
天使はいつも、そばにいる。
見えないのは、
ただただ「天使たち」を
見すごしているだけかもしれない。
展覧会の帰り道。
電車にゆられて、家路に向かう。
駅のホームに立った若い女子2人組が、
走り出した電車に座るぼくを見て笑っている。
夜のなかを走る電車の、
ガラスに映った自分の姿を見て。
自分が「佐藤蛾次郎」か、
実写板「ガッチャン」にしか見えなかった。
彼女たちには、何に見えたのだろう。
ついに自分も「天使」の仲間入りか。
みんなに笑顔をお届けするため。
とうとう「天使」になってしまったぼくは、
小さな声で、
「クピプゥ、クペポ」
と、つぶやいたのであります。
< 今日の言葉 >
ブリリアント・グリーンだヨ!
(途中でなんかが混ざっちゃった言葉)