岐阜市内にて開催いたしました、
《家原美術館2015》。
早いもので、閉館から1カ月が経ちました。
ふり返るともうずいぶん前の、
はるか昔の出来事のようにも感じますが。
思い返すとつい昨日のことように、
色あざやかな風景がよみがえってきます。
さて、先回お送りいたしました、
『ありがとう、家原美術館2015〜回想録・其の1』。
お待たせいたしました。
この期におよんで、
『〜其の2』をお送りする機会がやってきました。
世間ではもうすっかり
忘れ去られてしまった、過去の出来事かもしれません。
が、それでもかまいません。
私は負けません。
贅沢しません、勝つまでは。
そんなわけで、
《家原美術館2015〜回想録・其の2》、
どうぞごゆるりとご賞味ください。
※今回もまた長きにわたる絵巻となることが予想されますので、
おかしや飲み物、クッション等、準備のほどをよろしくお願いいたします。
★
6月14日(日)晴れ時々曇り <49日目>
所シェフの講演会に行く。
料理店のシェフご夫妻と3人で。
聞いていてたのしいうえに、すごく勉強になった。
90分があっという間だった。
まさに、プリンのごとき濃厚な時間。
講演会終了後、
いただいたプリンを河原でいただく。
空の青、山の深緑、草の若緑。
向こうから金八先生が歩いてきそうなほど
平和的な風景のなかで、
シェフご夫妻といっしょにプリンを味わう。
そのあと、長女ちゃんも合流し、
75歳の大将が営む中華料理店へ。
窓ガラスから差し込む、
オレンジがかった西日に切り取られた大将のシルエット。
ゆったりとした動きではあっても、
まるで動きに無駄がない。
手数が少なく、的確な、
熟練の手さばき。
そんな大将の料理は、
味にも、まったく雑味がなかった。
6月15日(月)晴れ <50日目>
イギリス、マルドンの塩と、
フランス、ゲランドの塩。
全粒粉のパンに合うのは、ゲランドの塩。
マルドンの塩は、生野菜に合う。
6月16日(火)曇り <51日目>
涼しい朝。
『激辛ピリカレー』(スナック菓子)の暴力的な辛さ。
左壁、右壁。
肩がこって大変だった。
6月17日(水)晴れ <52日目>
6月18日(木)曇り時々雨 <53日目>
白ペンキが少なくなってきた。
3㎏くらい買おうか。
「制作の 合間の癒し わんこチョコ」
6月19日(金)曇りのち雨 <54日目>
コーヒーのない朝。
野菜ジュースがおいしかった。
白ペンキ3㎏を注文。
着くころに雨があがっていて、
空いっぱいに大きな虹がかかっていた。
★ ★
6月23日(火)晴れのち雨 <55日目>
ちょっと夏めいた日。
スーパーに寄って13:00着。
白ペンキ3㎏、追加。
左、グリーン。
長い、道のり。
空から響く、鈍い音。
花火かと思ってあわてて屋上に行ったら、雷だった。
また音がしたと思ったら、
こんどこそ花火で、
屋上に行ったら雨が降っていた。
タバコ屋さんには羽虫がいっぱい集まっていて、
おばさんが、
「すぐ近くに街灯が新しくできたから、
虫が集まってくる」
と言っていた。
「扇風機を点けたら」と、言うと、
「それはいい考えね、そうしてみるわ」
と、ほほえんでいた。
6月24日(水)晴れ <56日目>
昨日は23:00すぎに寝た。
よく眠って8:25ごろ起きあがる。
10:00、開始。
色のちがい、調色、手直しのむずかしさ。
「できたところを眺める」
まだ描いていない箇所ばかりに目を向けず、
描いたところに目を向けて、
成果を見つめる。
左上、若緑色に苦労した。
いい色になるまで3回塗り直した。
重ね塗りも合わせると、6、7回は同じ形をなぞった。
6月25日(木)曇りのち雨 <57日目>
左部分が完了。
すきまが埋まった。
ひとつの山を越えた感じ。
まだ先の道のりは長いけれど。
少しずつ埋まっていく色と形に、
一歩、また一歩と進んでいることを実感。
6月26日(金)雨 <58日目>
大雨。どしゃ降り。
あまりの雨に、笑いがこぼれる。
★ ★ ★
7月1日(水)雨のち曇り <60日目>
「セザンヌ」
「え、スザンヌ?」
7月2日(木)晴れ <61日目>
さわやかな快晴。
「早く起きて出かけないと」
と思ったが、
もうここが現場だった。
どこで寝たのか、
どこで寝ているのか、
ときどき分からなくなることがある昨今。
7月3日(金)晴れ <62日目>
清らかさ。
濁らない、白紙。無。
脚立の上でバランスを崩してこらえたときに、
右腕に力が入って、筆のピンクが飛び散った。
きれいな斑点が壁にできたけど、
急いでぞうきんで拭き取った。
屋上で一服。
金華山の稜線(ライン)。
7月4日(土)曇りのち雨 <63日目>
8:25起床。
朝、目覚めると、
布団カバーを着ている現状。
カバーのひもがなくて外れやすいせいで、
起きると布団カバーをまとっている。
天井がつづいて首がつらい。
肩とふくらはぎもパンパンに。
あたたかい汗が額、首筋を伝う。
雨が降ってきた。
外は涼しくても、天井付近は暑い。
それでも集中力高くできた。
天井ばかり、上を見てばかりの1日。
明日からも天井DAYS。
7月5日(日)曇り <64日目>
昨晩、左脚ふくらはぎと右腕がつった。
昨日、描き終えたあと、
描いている部屋を見て回った。
いつも見ている角度とちがった景色、
見え方に感動を覚えた。
そして思った。
いい感じにやれていると。
7月6日(月)曇り <65日目>
<天井部分について考えてみる、の図> |
7月7日(火)雨 <66日目>
おりひめ、ひこぼし。
山田珈琲さんにいただいた
コーヒーを淹れる。
そして口に運んでみる。
香りのちがいは歴然。
味は、というと、
あぶない味がした。
ひと口、味見するつもりが
すぐにまた次のひと口を誘い、
あと味の広さ、深さに感覚がくすぐられる。
透明で奥行きのある、特別なコーヒー。
とにかく、困ってしまうくらい、
とてもおいしく感じた。
ひとことでは言い表わせない複雑な旨さ。
なるほど、これが「深み」というものか。
コーヒーの旨さに魅了され、
のんびりの朝。
朝食は、フィリピン食材店で買ったパン。 見た目はキュートでも、食べごたえはどっしり。 |
同じくフィリピン食材店で買ったケーキ。 カスタードクリームとココナッツスライスがたまらないです。 |
デザートには、所シェフにいただいたスイーツを。 もちろん、いっぺんにではなく、ひとつずつ。 |
7月8日(水)曇りのち雨 <67日目>
ペンキを使いはじめて53日目。
岐阜の友人と食事をしたあと、
公園でおしゃべり。
ベンチに座ってしゃべっていたら、
雨が降ってきたので、
屋根のあるベンチへ移動。
おそろしく強まった雨に、
しばし「閉じこめられた」ような状態になる。
とはいえ、雨とは関係なく、
他愛のない話に花を咲かせて、
気づけば午前1:00すぎ。
雨も、あがった。
すぐそばで眠る、野良猫の寝息。
遊び回る、仔猫たち。
ぽつぽつ人が通る、公園での夜。
高校生のころのような夜だった。
7月9日(木)曇り <68日目>
夜中に雨が強く降る日々。
8:35起床。
蒸し暑い朝。
意地と気力と体力の闘い。
ほとんど天井の9日間。
右腕が上がりづらかったけれど、
線はいい線が描けた。
つまずいてペンキを床にこぼした。
根性。
今回の仕事はここまでに。
現場を出るとき、お隣りのご婦人に、
「旅行ですか?」
と聞かれる。
カートを引くその姿のせいか。
説明するのもややこしいので、
そんなものです、と笑って応えると、
「ハワイですか?」
と言われた。
花柄シャツに、だぼだぼズボンのせいなのか。
もしハワイに行くとしたら、
はしゃぎすぎな、自分の私服。
★ ★ ★ ★
7月13日(月)晴れ <69日目>
夏がやってきた。
郵便局に、はがきを出しにいく。
昨日書いた、113枚。
夏らしい、貝がらの切手を貼ってくれるとのことで、
ちょっとうれしく思った。
郵便局は、クーラーが効いていて涼しい。
天井を描くの図(イメージ) |
ぽたぽたと垂れ落ちる滴が、
ペンキなのか汗なのか。
止まらない汗。
16:15。
ひとまず、大きな流れでの天井が終わった。
ちょっとだけ、じぃんときた。
埋まったという実感を「定位置」から味わった。
あとは、床だ。
<床部分について考えてみる、の図> |
7月14日(火)晴れ <70日目>
昨日は制作中の熱が冷めなかったのか、
1日じゅう熱が冷めなかった。
夜もなかなか体が冷めず、
真夜中に屋上で一服。
建物自体が熱を帯び、
3階とかの上階へ行くと、
もわもわとしていた。
屋上に水をまく。
建物も涼しげな顔つきに見えた。
8:10起床。
夏という感じの朝。
昨日から扇風機の登場。
あまりの暑さに思考が停止。
モーローマン。
意識モーローマンに変身。
夜はお食事に誘われて、
ごちそうをいただいた。
生ビールがものすごくおいしかった。
7月15日(水)晴れのち雨 <71日目>
快晴。
夏休みみたいな朝。
蝉しぐれ。
7:00に目が開いた。
今日も暑くなりそうだ。
午後、スコールのような雨が
いきなり降ってきた。
30分くらい降って、またあがった。
夕方、また激しく降ってきた。
外に出て、柳ヶ瀬のほうに行くと、
アーケードの屋根を叩く雨音で何も聞こえないくらいだった。
屋根のない「外界」は、
雨のカーテンを下ろしたようで、
視界が遮られていた。
赤ペンキ1㎏、黄ペンキ1㎏追加。
濡れた服を脱いで
パンツ1枚で窓を閉めに行くと、
階下の路上から見上げる
フィリピン人女性2人組と目が合って気まずかった。
<ここが痛い/天井と床とのちがい、の図> |
7月16日(木)雨 <72日目>
台風の噂は聞いていたけれど。
朝からかなりの風雨だった。
斜め35度に降る雨。
残すところあと1本。
19:00。
床の割れ板を修繕。
板の設置。
作業前に道具をそろえておくこと。
(こどもじゃないんだから!)
7月17日(金)雨 <73日目>
台風の影響で風が強く、
雨がぱらつく朝。
8:25起床。
台風11号「ナンカー」。
マレーシア語の、果物の名前。
(和名:パラミツ/波羅蜜)
どんより鈍い色の空。
雨と風が、出たり引っ込んだり。
午前中、ものすごく蒸し暑くて、
滴る汗が止まらなかった。
17:35。
完成。
タバコを吸いながら眺めてみる。
感慨深いものがある。
長かった、というより、
たくさん描いたな、と思った。
ちょっとだけ、うるっときた。
マスキングもはがしてみた。
久しぶりにあらわになった地肌。
こんなふうだったか、と思った。
22:30。
押入れ部分に上がり込み、
しゃがみこんだ格好で照明を設置していたとき。
パンッ! という破裂音とともに、
目の前で青白い閃光が炸裂した。
配線していたコードが断線し、
ショートしたらしい。
いきなりの破裂音と青白い閃光に、
「蹲踞(そんきょ)」の姿勢のまま
思わず体を後ろに逃がし、
壁面を背中で受け止めるような形になった。
危なかった。
裸足だし、半袖だし。
あまりに激しい閃光で、
白っぽくて緑で赤いモヤモヤ残像に、
しばらく視界が支配されていた。
「・・・びっ、くりしたぁ」
思わず声を上げるほどの驚きに、
遅れてじわじわ笑いがこみ上げた。
7月18日(土)雨 <74日目>
しとしととしつこく降る雨。
昨夜からずっと降りつづけている。
8:40起床。
連日の短睡眠で、ちょっと「寝坊」してみた。
3階の雨受けに、
バケツ9杯分の雨水がたまっていた。
14:10。
照明のための配線終了。
蝉が鳴いて、外は晴れつつある。
片づけをして帰宅。
帰りの電車は、
途中で記憶が途切れた。
前置きもなく、いきなり眠りに堕ちていた。
窓外を流れる地元の風景が
妙になつかしく映り、
大げさなようだけど、
1年か半年ぶりくらいに感じた。
★ ☆ ★ ☆ ★
さて。
何のひねりもなくお送りいたしました、
この『家原美術館2015〜回想録・其の2』ですが。
いかがだったでしょうか。
今回、制作風景のすべてを
語り尽くす勢いで挑んだのですが。
またしても語りきれずに
お別れのお時間がきてしまいました。
会場を描きあげたところで
ひと区切りとさせていただいて。
あとほんの少し、
絵が飾られるまでの模様はこの次、
ということにさせてはいただけないでしょうか。
ここまで忍耐強く通読していただけた
あなたでありますから。
この先も、
やわらかな毛布のごとき温度で
包み込んでいただけることと信じておりますゆえ、
どうぞ続編にご期待くださいませ。
それでは、また。
長いお時間、
読んでいただきありがとうございました。
いや、これは本当です。
この「無駄」な時間が、
みなさまの栄養となりますように。
でわ!
※下の写真は、会場屋上で撮影した(宇宙的な)深夜の風景です。
・家原美術館2015〜中間報告・其の1
・家原美術館2015〜中間報告・其の2
・家原美術館2015〜中間報告・其の3
< 今日の言葉 >
『最初のころに』と言われると、ぼくの頭のなかでは、
『最初のコロニー』というふうに変換されて、
話もそっちのけで、気持ちははるか宇宙に旅立ってしまうのです。
(こまったぼくの性質/家原利明)