2010/06/09

国内小アジア旅行





先日、夜のお店が立ち並ぶ界隈を
ふらふらとぶらついた。

太陽がさんさんと輝く午後。
明るい時間に見る「夜のお店」は、
なんだかにぎやかで、
お祭りみたいな感じがする。

どぎつい配色に彩られた看板。
まだネオンの灯っていない看板は、
古くさいピンボール・マシンみたいに見える。

ゴミとか吐瀉物(としゃぶつ)とかガムとかに汚れた路上。
歩きながら、地面にできた模様を見るのもたのしい。


お店が立ち並ぶ界隈から一本裏手に入ると、
そこで働く人たちのためのお店がぽつぽつ出てくる。


夜のお店で働く女性のコスチューム。
「夜の衣装」のお店屋さんには、
赤、青、緑、黄緑、オレンジと、
色鮮やかなドレスが並ぶ。

店先に並んだマネキンは、
異国情緒あふれる鯉のぼりみたいだ。

すその長い、ロングドレスが風になびいて、
光沢のある生地が光を照り返す。
ぴかぴかしてすごくきれいだ。

ぼくは、それを見るのが好きだ。


料理店の店先。
なにやら茶色い液体の入った鍋で、
玉子を煮込んでいた。

殻つきのまま煮込まれた「ゆでたまご」。

なんか、いいにおいがする。

ぐつぐつ煮える鍋の横、
ダンボールの切れ端に、
黒マジックで『2個100円』と書いてある。

不思議な感じだったので、
立ち止まってじいっと見ていると、
奥の店から女の人が走ってきた。

「これ、茶葉蛋(チャーイェーダン)っていう、台湾のタマゴ。
 お茶で煮込んである、すごくおいしい」

女の人が、にこにこしながら話してくれた。
聞くと、ウーロン茶に香辛料を入れて煮込んだ、
台湾ではおなじみの煮玉子らしい。


「これって、殻ごと煮込んであるの?」

「はい、そうです」

「殻も食べるの?」

「そんなことはないです。これ、すぐにむけるようになってます」

「おいしそう」

「はい、おいしいです。食べてください」

「じゃあ、2個ください」

「ありがとございます」


女の人は、にこにこと笑いながら、
トングでつかんだ煮玉子を2つ、ビニール袋に入れて、
袋の口をくるりとしばって手渡してくれた。

ものすごく熱々だった。

いまのいままで鍋で煮込まれていたのだから、
そりゃあたりまえだ。

昼ごはんには、中国の米粉のヌードルをもりもり食べた。
そのせいでまだ、おなかがいっぱいだった。

煮玉子は、またあとで食べることにして、
そのまま店先を離れたのだけれど。


この、熱々のタマゴをどうしたものか。


しかたなく、
熱々タマゴ入りのビニール袋を片手に、
とぼとぼとまた歩きはじめた。


フィリピンの商品を扱うお店。

横長のお店のいちばん奥、
つるりと頭を丸めた、いかついおじさんが、
無表情に座っていた。

おもしろいお菓子はないかな、と。
お店の商品を物色していると、
店のおじさんの視線を感じた。

ぼくを見ていたわけではないらしい。

見上げると、天井にテレビがあった。
画面には、ワールドカップのニュースが流れていた。

サッカーのニュースは、ぼくだって見たい。

じゃまにならないよう、
首をすくめてお菓子を見ていると、
店のおじさんが小さく笑った。

「いいよ」

みたいなことをおじさんに言われて、
ぼくもちょっと笑った。

おいしそうなお菓子をいくつか手に持ち、ふり向くと、
気になるものが目に入った。

直径5センチくらい。

オレンジ色のセロファンで、
アメちゃんみたいにくるまれたそれは、お菓子にも見える。

けれど、置いてあるところが、
シャンプーとか固形洗剤とか、
生活用品コーナーの一角だった。


「これ何? せっけん?」


おじさんが首をふり、口を開いた。


「あまいお菓子」

「キャンディ?」


おじさんが首をふって、説明する。


「クッキーみたいなお菓子」


気になったのでひとつ、買ってみることにした。


フィリピンのお菓子がたくさん入った、
白い、ビニール袋。

そのなかに、
さっき買った台湾の熱々煮玉子を入れた。


中国の食材を扱うお店。

米粉のラーメンとか、
おいしそうな乾麺がいっぱいだ。

中華食材だけでなく、
ナンプラーとかスイートチリとか、
アジア各国の調味料もたくさんあって、
すごくおもしろい。

お菓子もいろいろあった。


店を出るたび、
袋がひとつ、またひとつふえていく。

ココヤシ(ココナッツ)ジュースを飲みながら、
ふらふらとまた歩いていく。


韓国の食材を扱うお店。

ぼくは、キムチが好きなので、
見ていてよだれが落ちそうになった。

トッポギのお菓子もあったし、
黒糖羊羹(ようかん)もあったし、
黒豆マッコリとかもあった。

韓国料理の食器、
石鍋とか金属製の茶碗とかも、かっこいい。

いろいろな種類が並んだ
エッセンス・マスク(美顔パック)。
外袋の説明文は、
英語、韓国語のほかに日本語の表記もされていて、

『コエンジャイム』

『トックリイチゴ』(ラズベリーの一種)

などといったふうに「和訳」されていた。




小さいころ住んでたところには、
近くに「ストア」があった。

そのストアには、
外国のお菓子とか食材がちらほらあった。

4、5歳のころ。
母の買い物についていくたび、
好きなお菓子を買ってもらっていた。

ハリボーの「クマグミ」とか、
ハーシーズの『キスチョコ』とか。

色形がどぎつくて、味や匂いも濃くって、大きくて。
甘ったるかったり、くどかったり。

当時のぼくは、
外国製のお菓子だとは知らず、
いつも母にねだって買ってもらっていた。

まったく、ぜいたくなぼっちゃんですね。


留学生会館前の駐車場で遊んでいて。
バングラデシュのおにいさんと仲よくなって、
すぐそばの喫茶店でパフェをおごってもらった。

だからぼくは、バングラデシュが好きだ。

幼稚園の運動会の準備で旗をつくるとき、
バングラデシュの旗を描いた。


なんだか話が脇道にそれてしまったけれど。


「小アジア旅行」を終えて家に帰ると、
近所の香港料理店で晩ごはんを食べた。

ワンタンのラー油あえ
これが、辛くてすごくおいしくて。
白いごはんがどんどん進む。


再び家に戻って。

買い物袋の中身を広げると、
台湾煮玉子の汁がもれていた。

フィリピンの甘いお菓子が
その汁を、すっかり吸い込んでいた。

しめったフィリピンのお菓子を乾かしながら、就寝。


翌朝、下痢だった。

久々に食べたワンタンのラー油あえにやられて、
下ったらしい。

最近はキムチも食べていなかったので、
久しぶりの辛さにびっくりしたのだろう。

分娩しながら、
思わずぼくは、こう叫んだ。


「かっ、カライ!」


肛門がピリピリ、激辛だった。


3回分娩して、治まった。

30分間で、3回。

うそみたいにけろりと治った。


台湾の煮玉子、茶葉蛋(チャーイェーダン)は、
香辛料が効いていて、すごくおいしかった。

そしてこれから、
すっかり乾いたフィリピンのお菓子を食べてみようと思う。

ちょっとそのまえに、
『とろべ〜』をひとつまみ食べて。


フィリピンのお菓子は、
ココナッツの風味の甘いクッキーで、
心なしかほんのりウーロン茶とスパイスの香りがして。
なんだかとても、おいしかったです。




< 今日の言葉 >

ぼく、ポテコ。
カリッとしたポテト・リングスナックだよ。トマトとオニ
オンを効かせた香ばしいバーベキューソースの味わ
いがあとをひくよ!指にはめて食べるともっとおい
しいよ。ぼくと一緒に新緑の山へおでかけしようよ!

(東ハト『ポテコ・バーベキュー味』裏面コピー/改行原文ママ)