2010/03/04

黒くてまるっこいやつ








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お下品で汚い話題なので。
お食事中のかたはご遠慮ください。

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うんこ


それはときに、武器にもなる。

小学生のころ。
クラスの友だちと遊んでいて、
度が過ぎてひとりの友だちを怒らせてしまった。

その友だちは成績優秀で、
のちに東京大学に入った、立派な男子だ。

そんな彼が、怒りの末に取った行動。


うんこ投げ。


彼は半泣きになりながら、
公園のすみに「落ちて」いた
犬のうんこをわしづかみで拾い、
逃げ回るぼくらに向かって投げつけてきた。

親しき仲にも限度あり。
仲のいい友だちをおちょくりすぎて、
あそこまで追いつめてしまったことを反省している。



最近聞いた話。

レンタルビデオ店でバイトをしていたとき、
アダルトコーナーにちょくちょく
うんこが「落ちて」いたらしい。

バイトはたいてい、3人のスタッフがいた。
防犯カメラも回っている。


それなのに。


あきらかに、
いましがたしたばかりのほやほやのうんこが、
床にもっそり「落ちて」いるのだ。


いつのまにか、知らぬ間に、
誰がかうんこを放っていく。

謎の、メッセージ。



ときには武器になり、
ときには謎を残していく、うんこ。


うんこは、ときに悲劇を生む。


小学校1年生のころ、
学校帰りにうんこをもらした。

小学校低学年のころ、
ぼくは和式便所が苦手だったので、
学校でうんこをすることがほとんどなかった。


その日はおなかの調子が悪く、
かといって下痢だったわけでもなく、
とにかくうんこがしたかった。

なんとか下校時まで
長時間にわたって持ちこたえ、
りょうちゃん(近所に住む同級生の男子)と
いっしょに通学路を帰った。


それぞれの帰り道が分かれる場所、
郵便ポストと掲示板のある道ばたで。

その日に限って、
りょうちゃんが長話をはじめた。

というより、話が終わらないまま、
その場で立ち止まってしまった。

細かい内容は忘れてしまったけれど。
話題は、ガンダムの話だった。


いつもならすぐに「もう帰る」と言えるのに。

そのときのぼくは、
うんこを我慢しているのを
さとられなくないという一心で、
「帰る」のひとことが言えなかった。

もし、りょうちゃんに、

「まだいいじゃん」

と言われたら、なんて答えたらいいのか。

「うんこがしたいから」

そんなふうに言ったら笑われそうな気がして、
じっとうんこを我慢していた。


肛門を引き締めながら
ガンダムの話をつづけること数分。

ぼくにはそれが数十分にも数時間にも感じられた。


もしかして、ぼくがうんこを我慢しているのを知って、
わざとガンダムの話を引き延ばしているんじゃないか。

そんなふうに
りょうちゃんのことを疑うほど、
ぼくのうんこ事情は切羽詰まってきた。


何を言われてももう、
うなずくだけで精一杯だった。

冷たい汗が額を濡らし、
自分でも、顔から血の気が
退いているのが分かったほどだ。


もう、我慢の限界だ。


このまま何も言わず、走り去ろうか。


そう思ったとき。

肛門が、ぷっくり動いた気がした。


おしりのあたりに、
なにやら怪しげな重みを感じた。


次の瞬間。


ゆるゆるのパンツのすきまから、
太ももを伝ってうんこが転がるのを感じた。


ジーンズの長ズボンを履いていたぼくは、
左足のすそから、
足元にころりと転がるわがうんこを見た。


地面に転がる、暗褐色のうんこ。


かたく、まるっこいそれは、
ずいぶん長いあいだ、
直腸の中で待機していたことを伝えていた。


左の足元。

フライングしてしまった、ぼくのうんこ。


よりによってりょうちゃんは、
ぼくの左側に立っている。


瞬間的な速さでりょうちゃんをうかがい、
動物的な速さで気づかれていないと判断したぼくは、
反射的にうんこを足蹴にした。


その間、わずか1秒足らず。


ぼくは、
つま先あたりでそいつを素早く蹴った。


蹴られたぼくのうんこは、
まるで石ころか松ぼっくりのような速さで、
ころころと赤土の上を転がっていった。


一瞬、りょうちゃんの目が、
それを追った気がした。

けれども、
りょうちゃんは何も言わなかった。

口を開いたりょうちゃんが、
代わりに言ったひとこと。


「どうしたの?
 なんか、せんべいみたいな顔になってる」


それの意味するところは、
いまでもよく分からないけれど。

とにかく、いつもと違うぼくの様子を見て、
りょうちゃんはそう形容したのだ。


結局、うんこのことは、
りょうちゃんには言わずに終わった。



中学に入っても、
その話をすることは一切なかった。


ガンダムの話を長々としていて。
我慢できずにうんこをもらしただけに留まらず、
もらしたうんこをズボンのすそから転がして、
それをつま先で足蹴にしたなどというトリッキーな事件。


この事実を、
りょうちゃんが知ってるのか、知らないままなのか。

それはいまでも分からない。


現場にいたのは、
ぼくと、りょうちゃんだけ。


完全犯罪なのか、否か。


これが悲劇なのか、それとも喜劇なのか。


黒くてまるっこいうんこは、
記憶の中でころころと転がり続ける。



< 今日の言葉 >

「おめぇ、他人の星でめちゃくちゃすんな。
 壊れたらどうすんだ」

(孫悟空がフリーザに言った言葉)