友人から聞いた話だ。
友人の元同僚で、
「まっすん」という、30代の男子がいる。
彼、まっすんは、
大手生活用品店の販売員で、
食品売場を担当している。
そんな「まっすん」の姿を、
たまたま見ることができた。
待合せ場所の百貨店前で。
タイトなズボンをはいて、
清潔感あふれるワイシャツを着て。
首に、赤いストールを巻いていた。
背はそれほど高いわけでもないけれど。
全身細身の服で、顔立ちもしゅっとしていたので、
とても爽やかな好男子に見えた。
まっすんは、
いわゆる「ゲイ」である。
友人は、職場を辞めるまで
そのことを知らされずにいた。
辞めて数年経った現在まで、
顔を会わせる機会もなかったので、
はっきりとした告白はなかった。
それでも、それと分かるような瞬間は
たびたびあったという。
興奮すると、両手をバタバタさせて話す姿や、
言葉づかいやちょっとした仕草など。
まっすんの所作は、
どう見ても「女形」らしかった。
同僚でなくなったいま。
まっすんは、それらしいことを「におわせて」、
ついには自分で語りはじめた、ということだ。
友人がまっすんと再会したのは、
共通の友人の就職が決まった
お祝いの席でのこと。
友人と2人、食事を兼ねて
ささやかな祝賀会をする予定だったのだけれど。
そこにまっすんが加わり、
3人が久々に顔を会わせる運びとなった。
その席で、まっすんが言ったひとこと。
「妹がいると、“こっちの世界” に
来やすくなるんだよね」
“こっちの世界”。
それが、まっすんなりの「告白」だった。
「ウチはねえ・・・」
自分のことを「ウチ」と呼びながら。
まっすんが自らを語りはじめた。
高校時代、まっすんは、
美術部に所属していた。
高校1年。
まっすんの初恋の相手。
それは、野球部に所属する、
同学年の男子だった。
彼は、中学からの親友でもある。
美術部のまっすんは、
親友である彼といっしょに帰るため、
連日、野球部の練習が終わるのを待った。
夕暮れの帰り道。
どんな会話をしていたのかは不明だけれど。
ある日の帰り、
まっすんは彼の部屋に寄ることとなった。
そこで、まっすんは彼とキスをした。
そのことについて、詳しく尋ねると、
「そんなの。
最初からフィニッシュまで
行くわけないでしょ」
と笑いながら否定したらしい。
その後、まっすんは、
「昼間の」アルバイトをしながら、
夜はゲイバーで働いていた。
いくつかの恋をして、
いくつかの恋に破れ。
まっすんは、あるひとりの男性と出会った。
同年代の彼とまっすんは、
恋人として交際をはじめた。
まっすんの「彼」が、
お金もなく、仕事もないとき。
献身的で、やさしいまっすんは、
彼にいろいろと貢いだそうだ。
ニンテンドーの『Wii』にはじまり、
BOSEのホームシアターセットや各種家電製品など。
夜の仕事で稼いだお金を「物」に換えて、
彼への愛情表現としてプレゼントを贈りつづけた。
半ば同棲のような、アパートの1室。
気づくとまっすんからの
一方的な「愛」だけが大きくなり、
バランスを崩し、ついには壊れたふたりの関係。
彼の喜ぶ顔が見たくて。
彼が欲しい物をついつい買ってしまうまっすん。
プレゼントを贈るたび、
彼との距離が縮まるどころか、
いたずらにどんどん広がっていく。
悲しいかな。
その恋も、はかなく散った。
まっすんは、やさしくて、純粋すぎた。
人間は、慣れていく動物だから。
何かを「あたりまえ」だと思ったとき、
そこから後退がはじまっていく。
まっすんは、きっと誰かに
聞いて欲しかったんだと思う。
自分のことを、そして彼との悲しい失恋話を。
赤いストールを巻いたまっすんが、
友人に尋ねる。
「ねえ。牛丼だったら
『松屋』と『吉野家』、どっち派?」
うっすらと化粧をしたまっすんが、
たのしげに笑う。
「じゃあ、『すきや』は?」
ひとり、大盛りの『メンズセット』の
パスタを注文したまっすん。
そのくせ体重の話になると、
はずかしそうに顔を赤らめる。
「ねえ、メールアドレス教えてよ。
ウチの携帯、赤外線だから」
健気で、やさしいまっすん。
このクリスマスは、
誰と、どこですごすのだろう。
まったく余計なお世話かもしれないが。
彼にしあわせが訪れんことを。
< 今日の言葉 >
『子供の頃からローストチキンが大好物だった。ルーズソックス?を履いた鶏のもも肉
は否応なく食卓のテンションをマックスにした。淡白な味のはずの鶏ももが黒コショ
ウと岩塩、更にはハーブをまといテーブルの上に鎮座する姿は、正に『ご馳走』。「そん
な味を表現するには淡白な中に深みのあるカシューナッツ・・・!」とひらめいた。ビー
ルは勿論、赤ワインにも合う、ストライクゾーンの広いこの逸品をぜひご賞味あれ。』
(コンビニで買ったハーブソルトカシューナッツの裏面コピー/原文ママ)