これは、友人から聞いた、
リンちゃんという子の話だ。
彼女は「林(はやし)」という名字で、
自己紹介のとき、
「あたしのこと、リンちゃんって呼んでね」
と自ら言った。
リンちゃんは、自分自身の名前(下の名前)が
男みたいな名前で気に入っていないらしく、
みんなに「リンちゃん」と呼んでもらうよう
喧伝しているのだ。
リンちゃんは、
野球観戦と競馬が好きな20代の女の子。
とある会社で、販売業務(接客業)をしている。
お母さんは病気で療養中。
お兄さんはどこかに失踪中。
おもに、お父さんと生活していて、
休暇などにはお父さんと2人、旅行に行ったりする。
リンちゃんは、どちらかといえば、
同年代や歳下の男性より、
歳上の、お父さんくらいの年齢の男性が好みらしい。
職場でも、同年代の男性と話すより、
出入りしている業者さんなどの、
いわゆる「おじさん」と話すことのほうが多い。
そんなリンちゃんの、
かわいらしいエピソードがある。
あるとき、リンちゃんからお菓子をもらった。
どこかのおみやげらしい、個封包装のお菓子。
「あ、これ。お菓子あげる。
別にお返しとか、いいからね」
お菓子を差し出しながら、
リンちゃんがうれしそうに言う。
リンちゃんは、そうやっていつも、
みんなにお菓子を配って回る。
そして去りぎわ、もう一度、
念を押すかのようにリンちゃんが言う。
「あ、別にお返しとかいいからね」
リンちゃんのくれた「おみやげ」のお菓子。
そのお菓子は、ほかの誰かが
旅行に行った「おみやげ」だったと。
休憩室に行って、あとで知った。
また別のあるとき。
仕事が終わったリンちゃんは、
着替えを済ませ、更衣室を出た。
「おつかれさまでーす」
入れ違いに戻ってきた同僚の子と、廊下ですれ違った。
その子の手には、
出先で買ったお菓子の袋が握られていた。
それを見たリンちゃんは、
「あ、忘れもの」
と、踵(きびす)を返し、
いったんあとにした更衣室へと戻る。
更衣室に戻ったリンちゃんは、
机の上に広げられたおみやげを見て、
「あれっ、どこのおみやげ?」
と、あくまで「自然な」感じで、お菓子に気づく。
「このお菓子、もらってもいい?」
遠慮がちに、お菓子をもらって帰っていくリンちゃん。
そのお菓子は、自分で食べることもあれば、
先のように、誰かへの「おみやげ」として配られることもある。
ぼくは、
リンちゃんに会ったこともなければ、
直接話したこともない。
けれども。
そんな「けなげ」なリンちゃんを、かわいらしいと思う。
お菓子が好きで、
お菓子をあげれば、みんな喜んでくれると、
純粋に心から信じているリンちゃん。
そして、
ちょっとだけ「計算高い」「小ずるさ」も
持ち併せている小悪魔ガール。
不器用で、怒られやすくて、
「損」をすることの多いリンちゃんは、
お客さんからの「クレーム」が積み重なって、
結局、会社から「退職」を
命じられてしまったそうだけど。
今日もどこかで、
職場のみんなにお菓子を配っているかもしれない。
「あ、別にお返しとかいいからね」
お菓子をあげれば、誰もがみんな喜んでくれる。
そう信じて疑わない、まっすぐな目で。
< 今日の言葉 >
「こーなりパスタ」
(コンビニの広告で見たキャッチコピー/抜粋)