2008/05/27

あだ名


「石の人」(2008)




「箸休め」という言葉で
急に思い出した。


高校生の頃、
ハンバーガーショップで
バイトしていたときの“同僚”で、


『ハシパン』


というあだ名の男子がいた。


どうして『ハシパン』
なのかと聞くと、


「パンを箸で食べるから」


だそうだ。

・・・今考えても、
何ともストレートで
安直なネーミングだが。

果たしてそれが
あだ名としてふさわしいのかは、
いささか疑問である。




子ども時代のあだ名は、
ときに残酷でもある。


骨折の影響だったか、
鼻がやや平べったい彼は
『ぺっちゃ』と呼ばれていた。


スリッパに書いた名前の「こ」が、
行書のようにつながって
「て」に見えたせいで
『かて』くんと呼ばれたり。


眉毛をはさむように
上下にホクロがある彼が、
『÷(わる)』
というあだ名で呼ばれていたと。

友人からそんな話を聞いたこともある。



今にして思えば、
どれも“揚げ足取り”のようなあだ名で、
最初にそう呼ばれたときの
気分はどんなだったか。

呼ばれた本人以外、
その思いは想像もできない。

変なあだ名を付けた
「名付け親」のことを、
少なからず恨んだかもしれない。

呼ばれるうちに、
それが自分の“呼び名”に
なっていくのだから。


当時(といってもそれほど
大昔ではないが)は、
今より何もかもが「おおらか」で、
今では考えられないような
ことが笑って許された風潮もある。


それでも。


大人になって、結婚して、
子どもができて。



「父さんは昔、
 ドスケベ課長って
 呼ばれていたんだよ」


などと語り聞かせたりは
しないだろう。

(部長や社長でなくて、
 なんで課長なんだ、って聞かれたら困るし)




人は、親しみを込めて
あだ名を付ける。

「Daniel(ダニエル)」のことを
『Dan(ダン)』と呼ぶように。

呼びやすさから
短縮することもあるが、
それがそのまま
親しみに変わるから不思議だ。



一人で歩き出すまでは

友達ができるまでは

ほとんどの名前はオヤジが決める

ニックネームは

他人が決める

(by 甲本ヒロト)



そのとおり。

ニックネームは
「他人」が付けるのだ。


あだ名を付けられることで、
他人との関係が
作られると言ってもいい。


それがどんな関係かは、
何よりそのあだ名が
語っているはずだ。



電子レンジのことを
『チン』と呼ぶのも、
テレビのリモコンのことを
『チャンネル』と呼んだりするのも、
れっきとしたあだ名だろう。


人は「電子レンジ」と
呼ぶときよりも親しみを込めて、
電子レンジのことを
『チン』と呼ぶのだ。


電子レンジで温めて
食べてください

→「チンして食べてね」


家の電子レンジが
壊れました

→「うちのチンが壊れてさー」


昨晩、電子レンジの
夢を見た

→「昨日、おれ、
 チンの夢見てよー」


ほら、どうでしょう? 


親しみがこもって、
ぐっと距離が縮まって
感じるでしょう。




ちなみに僕は
リーダーと呼ばれている。


たいして引っぱるほどの
内容でもないが。


その由来を話すのは、
また別の機会に譲るとしよう。