2008/07/30

喫茶という場所






僕は、
コーヒーが好きだ。

カフェに行くことは
少ないが、喫茶にはよく行く。


僕は「喫茶」が好きだ。


サンドイッチやトースト、
チョコレートパフェや
サンデーなどが
ウインドウに飾られた喫茶店。


その、ウインドウの
コーヒーカップには
コーヒー豆が入っていたり、
タバコの包み紙で作った
ミニ番傘が飾られていたり。

樹脂でできた観葉植物のツタが、
くるくると巻き付けられて
いたりもする。


そんな個人趣味満載の
「喫茶店」には、
生活臭というか、
等身大の人間くささが
プンプンただよう。


入口の扉に
『冷暖房完備』
書かれた喫茶店。

今ならもっと他の
うたい文句があるだろうに。

老夫婦の営むその喫茶で、
年季の入ったメニューを
手にした僕は、


「ナポリタンと
 メロンソーダをください」

と注文した。


そのときは、
食い合わせよりも
 “ 色合い ” を
重視したのだけれど。

おばあさん店員は、
困ったような顔で
こう言った。


「今ねぇ、ナポリタンは
 ちょっと切らしてるんで。
 焼うどんならできるけど」


・・・と、
まあこんな具合に。

何とも強引な
「麺つながり」で
焼うどんを勧めるのだ。


そのあとも
あれこれ断られながら。

結局、オレンジエードと
ハムエッグを頼んだ僕は、
喉がひりひりするような
甘いオレンジエードを飲みながら、
青のりのふりかかった
ハムエッグを食べた。


どきどき・わくわく

僕は、こういう
「喫茶」が大好きなのだ。



会話が聞き取れないほどの
大音量でレコードを
流すジャズ喫茶。


また別の店では、
1杯のコーヒーを飲んでいると、
頼んでもいないのに
ゆでたてのトウモロコシが
出てきたり、
丸いスイカを切るからと、
まな板の上のスイカを
両手で支えさせられたと
思いきや、
またしても「サービス」で
スイカがふるまわれたり。


そんな風変わりな
お店ばかりではないけれど。

喫茶の気どらない
「もてなし」が、
僕にはちょうどいい。



先日も友人とふたりで、
とある喫茶店に行った。

その店に入るのは
ちょうど1年ぶりのことだ。

内装も、店員のおじさん、
おばさんの顔も変わっていない。

まるで昨日も
きたような感じがする。

そのことに、
ほんの少しほっとしつつも、
ベロアのような生地の、
薄緑色のソファに座る。


以前、ハンバーグセットを
頼んでみて、とてもおいしかった。

今回はデザートを食べたいので、
ハンバーガーを頼むことにした。

いざ注文してみると、
「パンがひとつしかない」
ということで、
友人はチーズホットサンドを頼み、
僕は希望どおりに
ハンバーガーを頼んだ。


待っている間に、
ちょっとごたごたしたせいもあるが。

出てきたハンバーガーは、
あきらかにディスプレイされた
「見本」と違っていた。

ハンバーグがはさまれたパンが、
バーガー用の「バンズ」ではなく、
細長いコッペパン型のパンだった。


UFOでいうところの
葉巻型の、パン。

これでは、
ハンバーガーではなく
「ホットドッグ」だ。


これ以上、
おじさんとおばさんに
口ゲンカさせるのも
よろしくない。

さきほどのごたごたを
思い返した僕は、
そのまま黙って
「バーグドッグ」をほおばった。

その味はもちろん、
文句なしのおいしさだった。

ちなみに
チーズホットサンドは
初めて頼んだものだが、
またしてもおいしい発見だった。


店の名前が印刷された
素朴なカップ。

これまた少し
ごたごたしたせいか、
カップの底に
コーヒーがこぼれている。

苦みの利いた
ブラックのコーヒーは、
僕好みの濃い味だ。


去年、
この店に入ったとき。

向かいの席のおじさんが、
若槻千夏のグラビアを
「写メ」で撮っていた。


今年は、サイドの髪の毛を
見事なまでにてっぺんへ送り
芸術的な手腕で「地肌」を
隠したおじさんがいた。

昔っぽい緑の柄シャツを着て、
ニコチン除去フィルターを
つけた煙草をくわえて。

コーヒー片手に、
ゆったりと新聞を読んでいる。

見るからに不自然な
髪型にも関わらず、
ごく自然にふるまう
おじさんの姿は、
むしろ神々しくさえ
見えてしまった。



自分の「指定席」が空くのを
待っているおじさんもいた。


窓の外には、
商店街を行き交う人の姿が、
別世界の風景みたいに
ぐるぐると流れる。


バーグドッグを食べ終わり、
再びメニューを見ていて
疑問がわいた。


サンデーとパフェの
違いとは・・・?


そこで、
店のおじさんに聞いてみた。

返ってきた答えは、
いたってシンプルな
ものだった。


「・・・ああ。
 サンデーとパフェ?
 入れ物が違うだけ。

 サンデーは皿型で、
 パフェはこう、
 カップ型になってるやつ。
 あとは中身も全部いっしょ」


・・・・ということである。

何ともアバウトな感じが
よいではないか。


長いスプーンで、
縦に削って食べるほうが
好きな僕は、
チョコレートサンデーではなく、
チョコレートパフェを注文した。


赤いチェリーが乗っかって、
カラフルなスプレーチョコが
まぶされた、
おもちゃみたいな
チョコレートパフェ。

理想的な容姿の
チョコレートパフェは、
予想以上に
理想的な味わいだった。



僕は、喫茶が好きだ。


だから、これからも
喫茶な時間を大切にしたい。

気どらず、流されず、
ごまかさず。

不格好でも正直な味を
味わいたい。