#33






「本当にすみませんでしたっ」


意図せず着せられた
汚名ではあったが。

A男は必死で土下座した。


すると、
頭を下げるA男のもとに、
黄金色のカーテンのような光が垂れ込めた。


まぶしさに目を細めながら顔を上げると、
光の束の中心に、
やわらかな衣(ころも)をまとった
女神がたたずんでいた。


「あなたの落としたのは、
 この、金のよだれですか?
 それとも、銀のよだれですか?」


「金でも銀でもなく。
 落としたのは、ふつうのよだれです」


「正直者には、
 褒美(ほうび)を授けましょう」


そう言って差し出されたのは、
やわらかい布でできた、
やさしいよだれかけでした。



後の世に、
そのよだれかけをした
A男の姿をかたどった地蔵が、
人々の悩みや願いに応えてくれる
たいそうご利益があるお地蔵様だと
あがめられるのだけれど。


今のA男本人には、
まるで何ひとつ
関係のないことでありました。



めでたし めでたし