#30






「本当にすみませんでしたっ」


勢よく土下座するA男の耳に、
何やら裂けるような音が聞こえた。


A男のズボンの、
尻の部分が破れた音であった。


「お尻が破れてる!」

指を差して笑う駅員。


「本当だ! おケツ丸出しだ!」


小さな笑いが連鎖して、
雪だるま式に大きくなると、
やがで決壊したような笑いが暴発した。


駅員室に笑い声がこだまする。



「土下座でおケツ丸出しだって」


涙目の駅員が
A男の肩をパンパンとたたく。


気づくとその場の全員が、
腹を抱えて笑っていた。


「もう二度とこんな
 バカな真似するんじゃないぞ」


そう言いながらも、
真面目になればなるほどおかしくて、
みな思い出したかのように
笑いをもよおした。


「シリません、なんて、
 もう言わせないぞ」


「あははは。そうだそうだ」


「本当に見事なケツ末だ」



みな、どうしてここに集まったのか
その理由を忘れそうになりながら、
申しわけなさげに頭をかくA男を取り囲んで、
いつまでも愉快に
笑いつづけるのでありました。



めでたし めでたし