A男が額をこすりつけた
そのすぐ目と鼻の先に、
きらりと光り輝くものが見えた。
「何だ、この光は」
A男の視線に気づいた
駅員の1人が歩み寄る。
「掘ってみよう」
駅員総出で掘り進める。
ツルハシの先に何かが当たった。
出てきたものは古い箱。
開けてみると、
中から大判小判がざっくざく。
サンゴや貝の首飾り、
瑪瑙(めのう)や翡翠(ひすい)の指輪など。
絵にも描けないほど美しい
金銀財宝がわんさか出てきた。
第一発見者のA男。
・・・ではあったが。
発見場所が地下鉄構内だったため、
宝の所有権はすべて「国」ということになり、
サンゴのかけらですら
もらい受けることができなかった。
その代わりに。
翌日の朝刊に大見出しで掲載され、
A男は一躍「時の人」となった。
『痴漢が発見、未曾有(みぞう)の財宝』
『チカンはあかんが宝箱は開いた』
・・・等々。
やがてその熱も覚めたころ。
地下鉄駅の壁、
モザイクタイル画が竣工(しゅんこう)された。
そこには、土下座の末に宝を見つけた
A男の姿とその情景が、克明に描かれていた。
『土下座の先の光明』
モザイクタイル画に描かれた内容を
誰もが気にしなくなった今でも、
待ち合わせの定番として、
みなに知られる場所のひとつである。
正直に謝るのは善い行いだと。
人は、この絵を見て、
そんなふうに語るのであった。
めでたし めでたし