#16







A男が躊躇(ちゅうちょ)しているうちに、
老人男性は、ほかの人に席をゆずられ、
お礼を言ってそこに腰を落ち着かせた。


駅に着くたび、あわただしく入れ替わる乗客に、
うとうとと眠りかけては起こされることを繰り返す。


A男のとなりの席が空いて、
すぐまた人で埋まった。

見るともなしに視線を向ける。


可愛らしい女の子だった。


眠気もどこへやら。
かすかに高鳴る鼓動に
固唾(かたず)を飲み、
A男は心持ち背筋を伸ばした。


がたがたとゆれる車両。

A男だけでなく、
となりの女の子も眠りの淵(ふち)へと
誘(いざな)われている様子だ。


こっくり、こっくりとゆれる頭が、
ゆるやかに、徐々に、
A男の肩に近づき、
やがてはそこに居場所を決めた。


「・・・・!」


A男は目を閉じ、
寝たふりをしながら喜びをかみしめた。

ときどき薄目を開けて見てみる。

A男ごのみの髪型の、
とてもチャーミングな女の子だった。


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