A男が躊躇(ちゅうちょ)しているうちに、
老人男性は、ほかの人に席をゆずられ、
お礼を言ってそこに腰を落ち着かせた。
駅に着くたび、あわただしく入れ替わる乗客に、
うとうとと眠りかけては起こされることを繰り返す。
A男のとなりの席が空いて、
すぐまた人で埋まった。
見るともなしに視線を向ける。
可愛らしい女の子だった。
眠気もどこへやら。
かすかに高鳴る鼓動に
固唾(かたず)を飲み、
A男は心持ち背筋を伸ばした。
がたがたとゆれる車両。
A男だけでなく、
となりの女の子も眠りの淵(ふち)へと
誘(いざな)われている様子だ。
こっくり、こっくりとゆれる頭が、
ゆるやかに、徐々に、
A男の肩に近づき、
やがてはそこに居場所を決めた。
「・・・・!」
A男は目を閉じ、
寝たふりをしながら喜びをかみしめた。
ときどき薄目を開けて見てみる。
A男ごのみの髪型の、
とてもチャーミングな女の子だった。