*
ミ ナサン
ゴゾン ジ デス カ ?
DYMO テ ープト
イウモ ノヲ ?
こんな感じに、
英字やカナ、数字などを
印字していく、
少し昔の「テープライター」。
その名も
『 DYMO(ダイモ)』テープ。
本社工場が、
火事で焼失してしまったため、
一時、市場に出回っているだけの
状態になってしまったが。
やや様変わりしつつも、
様々な「姉妹品」を輩出している。
ぼくは、
DYMOの古い型(M-1550S)を
使っている。
握り手の部分に、
テープをセットして。
黒い、樹脂製のディスク(円盤)を
カチカチと回し、
文字を決めたら、
ぐっと握って
テープに文字を刻んでいく。
赤や黄色や青や黒、緑やオレンジ、
透明や、きらきらラメ。
色とりどりのテープに、
白い文字を、ふっくらと刻んでいく。
いわゆる
「エンボス(浮き彫り)」に
なった文字は、
文字間も微妙にずれたりしていて、
なんともいじらしい。
この「M-1550S」を
手に入れるまでは、
樹脂製の、小さな機械を使っていたが。
ふらり立ち寄った街で、
文房具屋さんが
店じまいセールを開催しており、
偶然この
DYMO「M-1550S」と出会った。
かつて文房具店だったそのお店は、
中国の人が
別の店として使っていくらしく、
店に残った商品は、
鼻血が出そうな価格で
大売出しされていた。
ぼくは、
いろいろ物色する中で、
このDYMO「M-1550S」を見つけた。
「うおっ! DYMOだ!」
新品・未使用のDYMO。
興奮を思わず声にしながら、
お店の人に、値段を聞いてみる。
「・・・う〜ん、そうね。
よくわからないキカイだから、
500円でどうですか?」
「うえっ、500円っ!」
「高いですか・・・?」
「高くないです。
じゃあこれ、買います」
「ありがとございまーす」
そんなわけで。
ぼくはこの、DYMO「M-1550S」を、
かれこれ20年以上使っている。
おもに、展覧会の備品や、
お客さんに感想などを
自由に書いてもらう、
『お名前書いて帳』の表紙に
このDYMOテープを使用している。
手持ちのテープは、
いろいろな文具店で、
見つけるたびに買いあさった
当時のものだ。
これがなくなったら、
新しくなったテープを買い求めて、
使っていくつもりだ。
たくさん使ううちに、
文字のディスクの、
いちばんよく使用する
「A」が折れてしまった。
それを機に、
いろいろ探し回ったあげく、
イナネ(inter net)で、
「カナ」と、
やや文字の大きな「英字」の
ディスクを買った。
そんなこんなで。
まだまだしつこく使っている。
* *
そんな仲間として、
タイプライターもなかなか
かわいらしいものだ。
機種は
『BROTHER ヤングエリート』。
国内では、
比較的、出回った機種で、
印字用のリボンなども、
まだ健在である。
レバー操作で、
黒から赤文字に変えることもできる。
赤やピンクや黄色や緑。
自分の好きな紙をはさめば、
そこに文字が印字される。
英語でのタイピングが
堪能(たんのう)なわけではないので、
幼稚なぼくは、
いわゆる「アルファベット」で
文字を打つことが多い。
『Kon nichi wa .
Ogenki desuka?』
といった具合に。
まるで80年代の
ファンシーグッズに記された、
英文字のような感じである。
パチパチパチ、
パチパチパチパチ、パチパチ、
チーン!
ガチャッ。
パチパチ、パチパチパチ・・・。
文字を打つときの感触。
改行を知らせるベルの音。
文字を打つ「作業」自体も、
なんともかわいらしいのだが。
何より、
ゆらぎと手ざわりのある文字が
紙におどるのがうれしい。
最近、ふと思った。
「むかし」のものは、
どれも「不便」だ。
扱うのに「こつ」がいるし、
上手くできるようになるには
ちょっとした技術も必要だ。
その「機械」との関係性。
慣れ親しんでいく中で、
「くせ」や「こつ」を習得していく。
現在の機械と比べると、
操作もなかなか面倒で、
こちらから歩み寄る部分が、
かなり多い。
実際いま、
自分が向き合っている
「パソコン」ですら、
どんどん「面倒で」
「古く」なっている。
キーボードでの文字入力。
これもいずれ、
衰退していくのだろう。
しっぽがなくなったマウスも
どこかにいなくなり、
声や目線で操作するように
なっていくかもしれない。
むかしの道具、生活用品、
遊びや文化。
いまよりずっと、面倒だった。
けれどそこには、
ゆらぎや温度、手ざわりがあった。
そんなふうに思う日が
来るのかもしれない。
手ざわり。
ゆらめき。
温度。
ずれ。
アナログ。
デジタルにもきっと、
それはある。
冷たく感じたそれが、
いつかあたたかくなる。
時代は変わる。
けれど、人の心は変わらない。
あつかう人に、ぬくもりがあれば。
デジタルだってあたたかい。
レコードもCDも、
ペンタブもGペンも、
色鉛筆もRGBも。
大切な軸を失わなければ、
心はゆらぐ。
心までもが
「デジタル」になったら。
「はい」と「いいえ」だけの
二進法になって、
何のゆらめきもなくなり、
温度さえも失ってしまう。
だから、思う。
デジタルの前に、
便利さの前に、
アナログの、
面倒な、手ざわりのある、
温度と感触を、
しっかりと味わいたい。
いつか消えてなくなる前に。
できるだけ、それを味わっておきたい。
生の体験。
まだ見ぬ景色を見るために。
なるべく面倒なことを、
わくわくしながら、
たのしくたのしんでいきたい。
同じじゃない。
少しずれてるほうがいい。
『はじめから
ちょっとずれてる周波数
無理も我慢もしなくていい
ちょっとずれてる周波数
百も承知でいたよ』
(『恋のバッド・チューニング』沢田研二)
そう思った夏でした。
この「ずれ」が、
どうか「ゆらめき」でおさまる
「ずれ」でありますように・・・。
* * *
もうひとつ。
展覧会の広報活動で、
大切なお仕事。
「おはがき」をつくること。
そして、宛名書き。
この時間は、
みんなの顔を思い出し、
「話しかける」時間でもある。
「もう無理!」
と思うようになるまで、
何とか手書きでつづけてきた
宛名書き。
2日間、
朝から晩まで
がっつり集中して書きつづけて
ようやく終わった宛名書きも。
いつしかそれが3日になり、
3日では終わらなくなって、
4日はかかるようになってきて。
今回は、
宛名書きに
5日を費やした。
そう。
結局のところ、
早め早めに動くことができれば、
枚数が増えても、書けてしまう。
書くための日数さえ増やせば、
「ずっと可能」だということに、
今回気がついてしまった。
2021年。
まったく時間のない会があった。
そのとき、
告知もそうだが、
案内はがきでのお知らせが
まるでできなかった。
それが、すごくさみしかった。
だから、おはがきの時間は、
できるだけ確保したい。
広報もたくさんしていきたい。
(ということで今回、
しつこいくらいに広報してます)
展覧会の準備自体も大切だけれど、
お知らせの時間も、
おはがきを書く時間も、
大切な準備の時間だ。
そう思っての今回。
「今日はもう無理!」
そう思う直前まで、
毎日書きました。
かなり余裕を持った時期から、
早め早めに書きました。
ほめてほしいんじゃないんです。
ぼくは、この時間を、
できるかぎり大切にしたい。
だんだん目が見えにくくなってきて。
いい加減な文字がおどるようになっても、
それはそれで、時間の足跡。
嘘いつわりのない記録である。
そんな足跡を、
残していけたら。
それがいつか、
すべての点に集まる。
ぼくは、
その景色を見る日を、
たのしみにしている。
それだけのことだ。
展覧会のはがきを
コレクションしてくれている
もの好きな人も。
ぼくのほかに、
何人かいるみたいですし。
* * *
久々に行った地元の郵便局では、
「お久しぶりです〜!」
という声に迎えられた。
こんな特徴のないぼくのことを、
覚えてくれているなんて・・・。
362枚+小包5通。
地元郵便局のいいところは、
たくさん持って行っても、
1枚1枚切手を貼ってくれること。
スタンプじゃ味気ないから、
ほかの郵便局の場合は、
切手を買って自分で貼って出す。
都心部の忙しい郵便局だと、
たくさん持って行ったとき、
ちょっと面倒な顔を
されることもあるけど、
地元郵便局の局員さんは、
「こんなにたくさん!
ありがとうございます、
助かります!」
と、いつも喜んでくれる。
久しぶりの地元郵便局。
なんだかその、
ウエルカムな空気が、
すごくれしかった。
まさに「帰ってきた」
という感じがした。
*
以上。
ふだん、
あまりお伝えしないような場面の、
展覧会準備報告でした。
展覧会は、
お客さんあっての会ですので。
どうか会場をにぎわせて、
うつくしく飾ってください。
会場の
最後の仕上げは、
あなたの笑顔です。
・・・とにかく。
(帰) 家原美術館
どうぞよろしくお願いいたします。
→ 会場詳細
< 今日の言葉 >
『貝殻のヘドフォン
潮騒のボリューム上げるわ
Just fallin' love』
(『二人のゼネレーション』小比類巻かほる)