2021/06/01

視覚的旅行記5:バンコク博覧会





 さてさて。


お伝えしてきました視覚的旅行記も、

今回がついに、本当に、

正真正銘、最終回となりました。


長らくおのお付き合い、

どうもありがとうございました。


タイ編は最後となりましたが。


これに懲りることなく、

またいつか別の機会に、

旅行記などをお伝えできたらなぁと

思っております。



・・・ご挨拶はこれくらいにして。



さっそく本編へ、

さあ、エカマイ!





宿を出て、朝食。

昨日と同じく、屋台へと向かう。


朝食にしては遅く、

昼食にしては早い時間帯。


昨日の混雑ぶりとはうって変わって、

すいすい歩けるほど空(す)いていた。










































ビュッフェ形式のお店で、

気になる料理を指差し、お皿に盛ってもらう。


食べるまでその味も、甘いのか辛いのか、

どんな味なのかはまったく分からない。


けれど、どれもがおいしく、

どれもきちんと味わいが違った。



昨日は人ごみに埋もれて気づかなかったが。

スプーンやフォークなどの銀器を

煮沸(しゃふつ)消毒する場所があった。


もしかすると昨日スーパーマーケットで

お腹がごろごろになったのも、

スプーンをきちんと消毒せずに

食事したからなのかもしれない。


それほどデリケートなお腹でもないが、

その因果関係はなんとも言いがたい。


ともかく今日は、きちんと消毒した。


こんな消毒のシステムも、

旅行客の身からすると、おもしろい余興だ。



日本じゃ食べられないかもしれないから。

また例のもち米ココナッツミルク(マンゴー添え)をいただく。

あわせて、色が変わるほどカラメルが染み込んだ、

大きなプリンもいただいた。



この濃厚なココナッツミルクソースが、

家の蛇口から出たらいいのに!



・・・と天を仰いで。


甘〜いデザートを頰ばっていく。


タイにいるあいだ、

ちょくちょく飲んでいた瓶入りの豆乳、

『VITA MILK』。

駅の自動販売機でも売っているほど、

タイではメジャーな銘柄の豆乳だ。


この甘めの豆乳も、

タイではまるで牛乳に感じるほど、

さらりと飲める。


ちなみにこの豆乳は、

日本のベトナム食材店などで

買うことができた。


近所で見つけたときに、

再会をよろこんで小踊りした。



「ごちそうさまでした」



腹ごしらえをすませて、

いざ、駅へと向かう。



今日は、市場を見に行く予定だ。
























目の細かい敷物のような、バス路線図。

バス停を横目にしながら、

向かうは地下鉄の駅。


地下鉄(MRT)、

チャレーム・ラチャモンコン線、

『クイーンシリキット ナショナル コンベンション センター駅』。


覚えるどころか、

口で言うだけでも難易度の高い情報だが。


とにかく、その駅の近くにある、

「クロントーイ市場」へと向かった。


地下鉄チャレーム・ラチャモンコン線は、

黒いプラスチック製のチップ(コイン)のようなものが切符代わりで、

何枚かに1枚の割合で「調子の悪い」チップがあるらしく、

運が悪い(いい?)と、改札口でバーに阻まれる。


バーにはさまれる人のことを笑っていると、

こんどは自分がはさまれる番に回る。


直径25ミリほどの黒いチップは、

なにやら教訓めいた、

フォーチュン・チップだった。


クイーンシリキット ナショナル コンベンション センター駅に到着。


市場へは、

駅を出てどう行ったらいいのか。


さっぱり分からなかったので、

駅員さんに聞いてみる。


「すぐ近くだ、

 こっちに出てまっすぐだ」


こんなに分かりやすくて、

やや頼り気のない情報を手にして、

駅をあとにして歩いて行った。























































ずいぶん歩いたように思えるが。

それらしいものは見えてこない。


それでも言うとおり、

まっすぐ歩き進んでいく。


道路をまたぐ、長い歩道橋。

足元を、車やバイクが流れていくのが見える。


交差点内には、白線がない。

けれど、フランスみたいに

クラクションがけたたましく

鳴り響くわけでもない。


信号が赤に変わると、

バイクも車も、きれいに整列する。


青になると、

息を吹きかけたようにして

あちこちへと一斉に散らばっていく。


赤信号でたくさんのバイクが

横一列に並ぶさまは、

レース前のスタートラインのようでもあり、

見ていて何だかたのしかった。


きれいに並んだ車やバイクに、

スーパーマーケットなどに陳列された商品を

想起せずにはいられない。



「・・・あれかな?」


右手のほうに、

そう思える一廓(いっかく)があった。


歩道橋を対角に進む。


なんだか近づいている。

そんな気がした。



建設中のビルは、

鉄骨を組んでいる箇所や

型枠をつくっている箇所や

養生シートをかぶせている箇所など、

ひとつのビルなのに、

まるでばらばらの外観だった。


ビル建設の工程がわかる

図解のようなそのさまは、

パズルみたいでおもしろかった。


























どうやらこの、

目の前の一廓が市場らしい。


目の前にあるにはあるのだが。

入口が見当たらない。



いったいどこから入ったらよいものか。



交差点を左に折れて、

その一廓に沿うようにして歩き進んでいく。


すると、ひとりのご婦人が、

鉄製の柵の、1本歯抜けになったところを、

またぎくぐるふうにして入っていくのが見えた。


ご婦人の姿は、

闇に飲み込まれたように

見えなくなった。



ここが、入口だ。



見よう見まねで、

またぎ、くぐってみる。


歩みを止めたせいでも

暑さのせいでもなく。


にわかに鼓動が早まって、

少しばかり喉が乾くのが分かった。


















































真っ暗な闇の視界に、

色とりどりの靴の山が

いきなり飛び込んできた。


お店なのか、倉庫なのか、

はたまた住居なのか。


物はいっぱいあってにぎやかなのに、

妙に静かだ。


その静寂が緊張感を誘い、

こちらが闖入者(ちんにゅうしゃ)であることを

誇示するかのようだった。


それもつかの間。

好奇心がわずかに上回る。


見たい、という好奇心が、

迷いや戸惑いの雲を吹き払い、

歩みに、背に、

確固たる自信を灯しはじめる。


穴ぐらの中の街。


まるで映画や写真集で見た

九龍城(クーロン)の中みたいだ。


ここは中なのか、外なのか?


目が慣れたばかりではなく、

実際、暗闇が徐々に少なくなり、

物が、空間が、秩序を持ちはじめた。



なんだろう、この風景は。



胸の動悸(どうき)はすでに、

興奮のための高鳴りに変わっていた。


どうやらここは、市場らしい。


事実ここが、

クロントーイ市場だった。


そしてこれが、

「バンコク博覧会」の始まりだった。


































「入口」だと思っていたそれは、

どうやら完全なる「裏口」だったらしい。


まっすぐな路を進むと、視野も明るく、

分かりやすいくらいにお店感がある露店が

軒並み現れてきた。


光だけでなく、

声も、音も、聞こえてくる。


ここへきてようやく、

息をすることを思い出したような。


そんな気分だった。


薬品、化粧品、おもちゃ屋さんにつづいて、

お菓子や食品の露店が出てきた。

































































知らないもの、

見たことがないものが多すぎて、

見ているだけでたのしかった。


それで充分、いや、

それが精一杯だった。


情報量が多すぎて、

頭が、目が、感覚が、

景色についていくのに必死だった。


ゆっくり見ているつもりでも、

自分で自分に追いつくのがやっとだ。


とにかく目まぐるしく、

たのしくてしかたない。



空が、見えた。



ここで深呼吸。



たのしいものがいっぱいすぎると、

どうしたらいいのか分からなくなって、

混乱してしまう。


10代のころ、

初めての海外、フランス。


あのときも、

あっけにとられて口ばかり開けて、

写真も撮れない数日間を過ごしたのち。

ようやく自分と風景とが

現実味を持って結びついていったことを

よく覚えている。



興奮と戸惑いの状態から

少しばかり落ち着きを取り戻し、

あらためてゆっくり感覚に身を委ねていく。


色が、匂いが、形が、音が、

いろいろなものの輪郭が意味をなし、

感覚と共鳴していく。


タイの色、タイの匂い、

タイのデザイン、タイの音。






























縦軸横軸に連なる露店をジグザグと歩き、

あちこち見て回る。


食品類につづいて、

こんどは服飾のお店が集まる場所に出た。


そこでは、販売するだけでなく、

服を仕立てて売っているお店もあった。


なんだかミッキー(ネズミ)みたいな色合いの、

エプロンに長靴の女性にも出会える場所。


にぎやかな色合い。

あれこれ物色する。

好みのものが多かった。


1軒のお店で、

長袖シャツを買った。

ブランドのロゴがいっぱい書かれた

ピンクのビニール袋に入れて渡してくれた。









角のお店で、いいズボンを見つけた。

茶色い、細身のズボン。


マネキンが履いているそのズボンを、

採寸させて欲しいと伝えるも、

タイ語しか通じないようすのおじさんは、

おそらく「大丈夫だ、履ける履ける」

というようなことを

しきりに連呼していた。


ぼくが小さな巻尺を手にしているのを見ると、

下半身だけのマネキンをごろりと寝かし、

履いているズボンを脱がそうと懸命に手を伸ばした。


なかなかぴったりとしたサイズで履いているため、

そうそう簡単には脱がせられない。


脱がそうとするたび、

下半身だけのマネキンがごろごろと転がる。


お店には、おじさんのほかにおばさんもいたが、

どうやら足がよくないらしく、

ずっと椅子に座ったままだった。


ひとり、マネキンと格闘するおじさんに、

居ても立ってもいられず、参戦。


いま会ったばかりの、

見ず知らずのタイのおじさんとの共同作業。


男ふたり、真っ白なマネキンの下半身から、

ぴっちりとした茶色のズボンを脱がすさまは、

少しばかり滑稽だったに違いない。


額に汗を浮かべて、

やっとのことで脱がせたズボン。


そうまでして脱がせてもらったのに、

まるで履けなかったらどうしよう。


と、思ったのも刹那(せつな)、

腰に当ててみると、計るまでもなく、

ちょうどよさそうなサイズだった。


「おじさん、すごいね。

 ちょうどいい、ぴったり。

 ジャストサイズだよ」


日本語で言うぼくに、

何かが通じたようすのおじさんは、

初めてその表情をゆるめた。


終始、無表情で無愛想な人だと思っていたのだが。

実際は、そうでもなかった。


ズボンを買うと伝えたとき、

おじさんは白い歯を見せてにっこり笑った。


そう。


言葉も通じない、

ちょっと図体のでかい外国人が来たら、

誰だって表情が硬くなるはずだ。


共同作業からの購入。


「コップンクラップ」


おじさんの顔には、もう、

猜疑心(さいぎしん)のような色は消えていた。



その代わりに、というのか。


ふたりのあいだに、

さわやかな風が、流れたような気がした。


















路傍(ろぼう)の合鍵屋さん。

年季の入ったグラインダーと、

カバーのない扇風機。


道のわきで昼寝をしている人。

その人のサンダルは、

片方が猫で、片方が魚の骨の絵柄だった。


トイレは有料で、

なんだか牢屋のようなたたずまいだった。


たのしげな色を放つ、文房具屋さん。

色とりどりの誘惑にからめ取られるようにして、

すうっと中へと入って行く。


頼れるものは直感。

直感は、嘘をつかない。






















































たくさんの文房具。

シールやはがき、日用雑貨。


中でも興味を引いたのは、

古びた引き出しの中にぎっしり詰まったワッペン類たち。


日本でもよく「物色」していたおかげで、

3本指のワッペンやチーフリングを見て、

それがボーイスカウトのものだと判った。


タイのボーイスカウト。


興奮のあまり、

ひとまず全種類を並べることにした。


どのくらい見ていたのかは覚えていないが。

この文房具屋さんでのひと幕は、

クロントーイ前編の山場だった。


途中、制服を着た小学生の女の子が、

チョークなどを買いにやってきて消えた。


あれこれ物色しながら、

分からないことや質問、要望を

お店のご婦人に伝えるも、

タイ語しか通じず、

なかなか意思の疎通が難しかった。


そばに立つおじさんも、

黙ったままだった。


と、店の奥から少年が現れた。

眼鏡をかけた、利発そうな少年である。


彼は英語ができた。


ということで彼(息子)が、

英語での質問をご婦人(母親)にタイ語で伝え直し、

それを英語に訳して伝えてくれるという、

泰英・英泰通訳を買って出てくれた。


埒(らち)が空かなかった交渉がはかどり、

要望が通じるようになった。


幼き彼が、まぶしく見えた。


欲しいものをカゴに入れて、

お会計に立つ。


会計台の横、カゴの中に収まった茶褐色の毛皮。

すぐにはそれが、猫だとは分からなかった。

ご婦人の手で、上にカゴが置かれても、

おとなしく寝息を立てつづける猫。


眠る猫のかたわらに立つ

お店のご婦人の胸には、

ネズミのキャラクターの絵柄が

でかでかとプリントされていた。


最初、困惑気味だったお店のご婦人も、

黙ったままだったおじさんも、

最後は、満面の笑顔だった。




















これまで見てきた場所から

道をはさんだ向こう側。


そこには、こことおなじか、

あるいはここよりも広大な市場が広がってる。



市場は、まだまだつづく。



わくわくもどきどきも、

まだまだつづくのであります。



********  intermission ********



(ちょっと休憩)



まだまだつづくタイ!


***********************



















クロントーイ市場「別館」へ。


横断歩道で道路を渡るとき、

いままでいた界隈を見下ろしてみて、

どんなところにいたのか、

初めて分かった。


薄いトタンを何枚も何枚も

重ね合わせていくうちにできた「屋根」。


身を寄せ合うようにして集まる露店と露店、

傘と傘、テントとテント。


本来の建物から

増殖するふうにして広がった市場の敷地。


中か外か、分からないのも当然だった。


歩道橋を渡り、

こんどは、これから行く界隈を見下ろしてみる。


長く伸びる青い屋根から、運動会の旗みたいに、

色とりどりの幕が垂れ下がっている。


こんどはどんな感じの風景なんだろう。


歩道橋の階段を、1段また1段と、

噛みしめるような足取りで降りていった。




























































歩道橋を降りてすぐ。

お菓子の「トンネル」のあとは、

猫と野菜と、豚の顔3兄弟。


野菜のほかに、お米の量り売りもあった。


水にぬれた路地が、きらきらと輝く。


網や氷やクーラーボックス。


海産物をあつかうお店か、

どうやらここは、

朝、にぎわいを見せるエリアらしい。

すでに片づけを終えたところが、

ちらほらつづく。






























まだこれからの海産物店も出てきた。

新鮮な魚介類。

エビ、カニ、魚。


歩き進むたび、傘の色が、

色とりどりに変わっていく。


赤、青、黄、緑。


ぬれた地面が色とりどりに輝いて、

すごくきれいだ。


ステンドグラスかネオンサインか。

傘の色で、視野まで染まる。


逆光に、人の姿がシルエットになって、

セロファンを使った影絵を見ているようだ。


自然光を照り返す地面に、

天地が逆さまになって、

人が浮いているふうに見えなくもない。


本当に、すごくきれいな瞬間の連続だった。


意図してそうしたわけでもなく。


偶然のような必然がいろいろからまって、

ごくごく日常的な顔つきで、

特別な風景をつくり出していた。



















































お肉エリアに来て、気づいたこと。


傘の色は、恣意(しい)的ではなく、

意味があっての色だということ。


お肉の赤が、分かりやすかった。


お肉コーナーで見かける、暖色の照明。

赤い傘は、それとおなじ役目を果たしているのだ。


青い傘は、海産物。

緑の傘は、野菜類。

黄色の傘は、その他の物。


絶対、とまではいかないが、

お菓子や食材、雑貨などは、

黄色い傘が多かった気がする。


傘の色は、飾りではなく、

それぞれが「おいしそうに見える色」。


演出だけでなく、もしかすると、

何屋かという目印も兼ねているのかもしれない。


そんなことを思いながら、

お店にはさまれた路を、まっすぐ進んでいく。















先ほどの道がY軸だとしたら、

それに対してのX軸の筋。

縦軸から、横につづく道との十字路に出た。


道は乾いていて、広々としている。

ここにも、露店が連なっていた。


お肉などを串に刺して焼く露店。

食品を入れるための、発砲スチロールの箱のお店。

バイクタクシーの人たちの「たまり場」もあった。


遠くにそびえるビルとの対比のせいで、

ここが異質な世界に見える。















暑さと興奮で、喉がからからだった。


タイのミルクティー。

オレンジ色のミルクティー。

氷がいっぱい入った、冷たいミルクティー。


ストローをくわえ、

喉が痛くなるなるくらい、

ぐいぐい飲んだ。


ここのミルクティーはすごくおいしくて、

あとでもう1回、買いに来て飲んだ。


横道から、縦道の市場へ戻る。



****  CAUTION ****


次につづく画像の中、

苦手な人には

ちょっと衝撃が走る写真が

何枚かあるので、

心の準備&どうかご注意ください。













































魚、肉、野菜。


カエル、丸裸の鶏。鶏肉。


通路を歩いていたら、

「売り物」であるはずのお魚が、

いきなりぴょんと飛び跳ねてきた。


あちこちで、びしっ、ばしっ、と、

跳ねる魚や海産物。


さすがにお肉類は(野菜類も)

飛び跳ねたりしなかったが。


あまりの鮮度で跳ね回る商品たちに。

前を行く人が、やや肩をいからせながら、

おっかなびっくり歩いていく背中が印象に残る。




























































きれいな色の野菜たち。


おそらくご令嬢たちも、

緊張感なく、ゆったり見られる界隈です。


山盛りいっぱい、

きれいに並べられた野菜。


ここでもやはり、陳列を感じた。


色ごとに並ぶ野菜は、

パレットの絵具みたいにみずみずしかった。


自然光の差し込む空間だったこともあり、

野菜だけでなく、

プラスチックのカゴやお店のおばちゃんの服も、

色鮮やかに見えた。



























おパンティなどの下着類を売りながら、

横で何やらデザートのようなものを作っているおばちゃん。

ランジェリー&スイーツ。

どちらが本業で、どちらが副業なのだろう。



大きな籐(とう)の

カゴに入った野菜の葉っぱ。


それは、

キャベツなどの葉野菜の

外側の葉っぱをむいたものや、

大根やニンジンなどの根菜から

切り落とされた葉っぱらしかった。


野菜の、商品にならない部分。


「ご自由にお持ちください」


書き記されてはいないけれど、

知る人ぞ知る人たちが

それをもらいに立ち寄っていた。


ハンガー、お皿、着古した服など。


どこの国でも

「ご自由にお持ちください」には

宝物が眠っている。



帰国後、

日本のスーパーの野菜売り場で、

キャベツの外側の葉っぱが

山盛りに捨ててあるのを見て。


タイだったらこれ、

みんな持っていくのに、と。


目を閉じ懐かしく、

遠きタイランドのことを

思い出したものである。

































次の「X軸」。裏通り。


ひび割れたコンクリートの建物。


上を歩いて渡れるんじゃないかと思えるほど、

何本も束になった電線。


たくさんの露店の傘に、

どちらが「裏通り」か分からなくなる。


香ばしい香りと煙をもくもく立ちのぼらせる、

縁日のような屋台の数々。


おいしそうな香りにつられて、

一軒の露店に寄ってみる。


どれをどう頼むか分からなかったが。

とにかくひとつ、頼んでみた。


炭火で豪快に焼いたお肉を、

はさみでちょきちょき、

食べやすいサイズに切って、

ビニール袋に入れてくれた。


内臓系の、ぷりぷりしたお肉。

炭焼きの香り。

何の肉とか、どこの部位とか、

そんなことは分からなかったけれど。

やわらかなお肉は、甘辛いたれ味で、

とてもおいしかった。











































いかしたトラック。

日本とはまた意匠が違う。


肉干し、とでもいうのか。

神社の絵馬のように、幾重(いくえ)にも吊るされたお肉。

なんだかご利益(りやく)がありそうな感じのそのお肉を、

下で猫が見張って(狙って?)いる。


お肉をもうもうと焼く、

三輪タイヤ付きの露店には、

試行錯誤の雰囲気ただよう、排煙装置。

銀色の「煙突」の下に、

平置き状態で換気扇が据え付けられている。


『You Can Smell Our  BUTTS  For Miles』

(俺たちの “ バッツ ” は、

 何マイル離れていても匂うぜ)


という文言のTシャツを着た男性。


バッツ(BUTTS)は、

「お尻(ケツ)」でもあり、

「たばこ」の意味でもあり。


何にせよ、

何マイル離れていても、

匂うようだ。























読めないタイ語の看板文字。

それが『うひさひ』に見えたり。


絶妙な密度でぎっしり並んだ、

スチロール製容器や、

調味料類に驚いてみたり。



これまで、タイの陳列術、

整列術を目の当たりにしてきたが。


市場に来て、

あらためてそのすごさを体感した。


デッドスペースになりがちな、頭上空間。

タイの人は、上から吊り下げることで、

その空間を効率的に使っている。


きっとテトリスとかやるのが上手なはずだ。


・・・いや。


もしかすると、


「おもしろいけど、

 そんなことやってる暇はないね」


と、肩をすくめられるのかもしれない。







































柔和な笑顔の、

バイクタクシーのおじさんたち。


舞台のセット(ステージ)みたいな配置に見える、

カラフルな店先。


ブラシのお化けかと思った、

ほうき・ブラシ類移動販売車(者)。


建物の軒先にぶら下がる、

看板、たれ幕、テントシートに洗濯物。


建物から建物へ、

蔓(つる)のように伸びる電線。


前半戦、文房具屋さんへ入る前に、

路上靴修理屋さんで見かけた、

カバーのない扇風機。


なるほど、そうか。


扇風機のカバーは、

お肉干し器として使うらしい。
























裏通りには、

市場で暮らす人たちの生活も垣間見えた。


ここが、市場の端っこ。

左手には、バスが走る大通り。

なかなかすみずみまで歩けたように思う。


思うに、こちらが「入口側」で、

自分が入った場所は確実に「裏手」だった。


こんなに分かりやすいほど「開いて」いるのに。

駅からだと、すぐには「入口」が見当たらない。



どれくらいの時間を過ごしたのか。

ずっと歩いたり立ちっぱなしだったことに気づいた。


歩道のすみに腰かけて、ミルクティーを飲む。


子どもを乗せたバイクが、

目の前を勢いよく通過していった。


後ろに乗った少年が、

こちらを「見下ろす」。


一瞬ではあったが。


まるで2階の窓から見下ろすような彼の目つきが

妙に冷めて大人びていて、

なぜだか妙におかしかった。



生命力というのか熱量というのか。

市場には、エネルギーがあふれていた。


活気、熱気、たくましさ。



生きる、ということ。



みんな、懸命に生きている。



市場での終幕。

少し真面目にそう思った。


やや薄まったミルクティーを飲み干すと、

腰を上げ、広大な市場をあとにした。



ありがとう、

たのしかったよ、クロントーイ。

































市場を出てすぐ、

またもや大変な光景に遭遇。


大樹に飲み込まれた商店。


トム・ソーヤーとかラピタというより、

ゲゲゲの鬼太郎といった風情か。


大樹のふところには、

年老いたおばちゃんの営む、

駄菓子屋的な食品店。


そこで、

瓶入り豆乳『VITA MILK』を買う。

瓶は、ロゴがプリントされた

旧タイプ(現行の主流はシール式)だった。


歩きながら、ちらりとのぞく市場に、

後ろ髪を引かれながら。


こんどこそ、

クロントーイに別れを告げる。


駅へとつづく道。


コントラストが強すぎて。


歩道橋から見た風景は、

現実的なはずなのに非現実的な、

絵に描いた未来都市のような景色に見えた。































宿のある街。


その風景が、

もはや懐かしく感じるほど、

濃ゆい時間旅行をしてきたようだ。



途中でのぞいた

お店の蝋燭(ろうそく)。


どのくらいの歳月でこうなるのだろうか。


滝の白糸のようにこぼれた蝋が、

工芸品のようできれいだった。



タイ、最後の夜。


最後の晩餐は、

地元の人でにぎわう食堂に入った。


店内の壁は、鮮やかな黄緑色で、

クロマキー合成の背景みたいだ。

(この色、コマックでも見たような・・・)


蛍光みたいな黄緑と、

椅子や机、

赤や青との対比がおもしろい。


相変わらず読めないメニュー。

まわりのテーブルに並ぶ料理をきょろきょろ。


何だか分からぬままに、

あれこれ注文してみる。


米は、白米ではなく、

もち米にしてみた。



ここで、

カメラのバッテリーが切れた。



市場にいたとき、

いつでも撮影できるようにと、

ずっと電源を落とさなかったせいもある。


そうでなくとも、たくさん撮った。


こうして見直していて、

あらためてそう思う。



宿に戻り、

シャワーを浴びる。


シャワールームは共同。


誰かの残したシャンプーで頭を洗い、

誰かの残したボディソープで体を洗って、

誰かの残した歯みがき粉で歯をみがく。


荷物を持って、チェックアウト。


電車とバスで、空港へ。


タイ、最後の風景。











窓外を流れる夕刻の風景を

しっかりと目に焼きつけて。


空港に到着。


ごたつきながらも無事搭乗。


ゾウにも乗らなかったし、

お寺も見なかったけれど。


最後、空港の中の看板で、

タイの、タイたる風景をしかと見た。


「へぇっ、

 タイってこんな感じなんだ」


と。


本気でそう思った。



ちっとも「タイらしいところ」へは

行かなかったのかもしれないけれど。


とにかくずっとたのしかった。


そして思った。


何も知らないって、いい。



まだまだ何も知らないから。



「タイにまた行きタイ!」



いちばん禁句なフレーズを、

思わず口にするのでありました。





ここまで読んでいただいた読者の皆様。

誠、長きにわたって通読いただき、

ありがとうございます。


感謝の言葉があるようでいて、

いますぐ気の利いたものは見当たりませんが。


「とにかくすごくカオマンガイ」


そんな気持ちでいっぱいです。



涙のフィナーレ。


感動の渦。



・・・とまではいきませんが。



またいつか、

ともに旅に出かけられる日を夢見て。



さようなラーゴンクラップ!



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其の1

其の2

其の3

其の4

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< 今日の言葉 >


「チャレームラチャモンコン線クイーンシリキットナショナルコンベンションセンター駅」