ぼくは、たたかっている人が好きだ。
争いや諍(いさか)いではなく、
ほかの誰かとたたかっているのではなく。
自分自身と、たたかっている人が好きだ。
先日、ある料理店に行ってきた。
フランス料理を基にした料理店、と言ったらよいのか。
とにかく、腕のいい料理人が
おいしい料理をふるまってくれる、料理店だ。
そこの主人であり料理人である男性。
厨房に立つ彼の姿を見て、思った。
「たたかってるなぁ」
彼の料理を食べて、思った。
「たたかってるなぁ」
素材や、火や、タイミング。
一瞬しか訪れない料理の「瞬(旬)」を、
彼は逃さずつかまえて、皿に盛る。
新鮮な食材を、
いちばんおいしい料理のしかたで出す。
シンプルなことだからこそ、
何より難しい。
フランス料理というものに対して持っていた、
ぼくの幼稚な概念。
彼のつくり出す料理は、
その概念を、ことごとく裏切ってくれた。
足し算ばかりだと思っていた、フランス料理。
「フランス料理って、おいしいんなだな」
純粋にそう思った。
そして、たのしかった。
たのしい食事、たのしい時間。
くつろいだ感じで出てくる料理を食べながら、
2時間以上が、あっという間に過ぎた。
料理人の彼が、たたかっているから。
ぼくらはおいしい食事を、たのしませてもらえた。
やっぱり、本物ってすごい。
そう思った。
さらに、その料理店に置かれた
テーブル、イス、
カウンター・テーブルなどの家具。
この家具をつくった彼も、たたかう人だ。
今回、この料理店に招待してくれたのは、
知人であり友人である彼なのだが。
彼の家具に対する姿勢、
木と向かいあう姿に、いつも感服する。
ふだんの彼は、
酒も飲まず、喫茶店でお茶を飲みながら、
音楽やアイドルやUFOの話で
何時間も費やせるような気さくな男子だ。
そんな彼も、木工のことになると、
たたかう人に変身する。
彼のつくる家具は、すごい。
本当にかっこいい家具をつくる。
料理店の、
ナイフ・フォークの横に置かれた、黒檀の箸。
彼のつくった箸は、
ピンセットみたいに細くて軽やかで、
つかんだ料理の手ごたえが、
じかに手に伝わるような感じだった。
素材とたたかう人。
時間とたたかう人。
制約とたたかう人。
そして、自分自身とたたかう人。
ぼくは、そんな人と話すのが好きだ。
たたかう人は、
たのしそうに、キラキラした目で話をする。
たたかう人は、
どんなときでもたのしむ術を知っている。
ぼくも、そんな人になりたいと思う。
たたかう人に、なりたいと思う。
さしずめぼくは、
みりん揚げを割らずに4枚、
口のなかに入れることからはじめてみようと思う。
自分自身に負けないよう、
そして、唇のはじを切らないよう。
精一杯たたかっていこうと
固く心に誓うのでありました。
< 今日の言葉 >
『言葉の意味はよく分かるから
すごい自信がない』
(モールス/『光ファイバー』の10曲目)