昔、アダルトショップで働いたことがある。
アダルトショップとは、ご存知のとおり、
「アダルトな」「グッズ」を販売する店のことだ。
セクシーな下着やローション、
大人がごそごそと遊ぶ「おもちゃ」をはじめ、
アダルトなDVDなどが所狭しと並んだお店。
カナダへの飛行機代を稼ごうと考えていたとき、
アダルトショップの店先に、
「スタッフ募集」の貼紙があるのを見つけた。
おもしろそうだな、と思い、
さっそく店内に入ってみる。
そのときぼくは、
初めてアダルトな店に入った。
どぎつい蛍光色のPOP、
ゆれる裸の女のポスター。
立体迷路の壁のように立ちはだかる棚には
DVDがびっしりつまっており、
ふだん人前で口にしてはいけないような単語が
ずらりと続いていた。
まず、店のスタッフらしき人を捜すのに苦労した。
「すみませーん」
「はい、いらっしゃいませ」
沈黙。
「・・・あのー、すみません」
「はーい」
声はするのだが、姿が見えない。
天井に届きそうなほど高くそびえる棚たちが、
行く先々で視界をさえぎる。
まるで『パックマン』だ。
声のするほうへ進んだつもりが、
そこに姿はない。
堂々巡りの不毛な鬼ごっこをしばらく繰り返したのち、
ようやくスタッフらしき人の姿を見つけた。
身長190センチ、体重100キロ超。
マトリョーシカのような体格の男性が、
額に汗を浮かべて、
棚と棚とのあいだに挟まるかのようにして立っていた。
(詳しくは、2009年01月27日号『歳下の店長』をご覧下さい)
そして。
初めて入ったアダルトな店が、
そのまま自分の「職場」となった。
正午に店を開け、深夜2時には店を閉める。
早番、遅番のシフトはあるが、
勤務は、基本的に1人。
引き継ぎのときにようやく雑談ができる程度で、
あとは1人、黙々と勤務する時間が続く。
早番。
掃除をして、諸々の開店準備をする。
午後から夕方にかけて、
アダルトグッズやDVDなどが続々と配送されてくる。
ローション、バイブ、ローター、下着、
オナホール、ダッチワイフ。
それらの商品をダンボールから出し、
入荷処理をして値札を貼り、
「商品」として梱包して店頭に並べる。
さらにはDVDやエロ本、
エロマンガ、エロ雑誌などがどんどん送られてくる。
DVDだけでも、日に50〜60本ほど入ってきたりする。
おもしろタイトルにいちいち反応していると、
仕事がちっとも進まなくなる。
とはいえ、
おもしろいものをそのまま放ってはおけないので、
手元のノートにさらさらとメモを取る。
遅番。
アダルトなお店のお客さんは、
おもに夜、集まってくる。
だから夕方以降は、
接客、レジ応対などが中心になる。
ちなみにレジからは、お客さんとこちらと、
お互いの顔は見えない造りになっている。
手の空いたときには、
頼まれてもいないのにPOPを作ったりしていた。
ピンクいチラシからカワイコちゃんの
写真を切り取って、厚紙に貼って。
『買ってみたら、すごくいいかも♡』
などと、意味不明なコピーをしゃべらせたりして。
それがなぜか効いたようで、
いままで売れなかった安売りコーナーのDVDが、
続々と完売するようになったのだから不思議だ。
冬場、オナホール(男子が使うものです)を温めるための、
棒状の器具が登場したとき。
店頭に並べただけでは、1つも売れなかった。
だから、POPを作って貼った。
『アノ温もりを再現』
わざとカタカナにした「アノ」の上部に
「・(傍点)」をふって。
これはさすがに伝わったらしく、
分かりやすいほどの反応で売れていった。
オナホールとセットで買うのが
あたりまえとでもいうように、
結構な確率で “ 温めスティック ” を
買って行ってくれた。
あるとき、男女ふたりが店にやってきた。
20代前半くらいの、若いふたりだった。
入店するなり、
女性が真剣に「おもちゃ」を選びはじめた。
あれこれ手にすること数十分。
そのあまりの真剣さに興味が失せた男性は、
エロビデオを物色しはじめた。
ひとり取り残された女性は、
レジ前の「小窓」からこちらをのぞき込むようにして、
「あのー、これ、どっちが気持ちいいですか?」
と、普通に聞いてきた。
そのあまりにも普通な感じに、
一瞬、戸惑いかけたけれど。
「ぼくは使ったことないんで分かんないですけど。
こっちのはここが回って、こっちのはここが
こうやって動くみたいですね」
と、書いてある説明を口頭で説明した。
「あ、じゃあ、こっちにします」
結局、その女性は、ごつめのバイブと、
男性の選んだDVDを1枚買った。
その男性分の会計も、
手慣れた感じで女性が支払っていった。
さて。
人には、好みというものがある。
それは性についても、しかり。
女子高生などの制服が好きな人もいれば、
おしっこやうんこなどのスカトロが好きな人もいる。
残念ながらぼくには、あまり特別な好みや性癖がない。
正直、エロビデオやエロ本もあまり見ることがなかった。
だから、仕事をして初めて実態を知って、
毎日が驚きの連続だった。
( ここからさき、よいこのおともだちはみないでね!! )
商品の選び方には、当然、その人の好みが出る。
性癖というか、嗜好というか。
こういった「性」の分野では、
ほかの買物に比べて「好み」が如実に出ているような気がした。
『素人娘直送投稿オナニー』
『女子高生の乳首オナニー』
『病みつきオナニー3(女子高生自宅オナニー)』
『あなたのオナニー買い取ります』
計4点:¥20,620-
なるほど、分かりやすい。
ワイシャツとネクタイ姿にカーディガンを羽織った、
学校の教師風の男性が、
『女子高生痴漢作品集2005』
というものを買って行ったときには、
さすがに「えっ?!」とか思ったりもしたけれど。
とにかく、おもしろタイトルに、
平常心で接客するのが精一杯だった。
『糞尿流しそうめん』
『巨乳なわとび』
『インチキ教祖のワイセツ除霊』
『パンスト擦りつけオナニー中毒
〜女子高生のアソコから煙が出ちゃう〜』
『リモコン角オナニー』
『生理ランナー』
『ハイレグ熟女』
『濡れ衣』
『洗髪』
『 boys be MASAKI 〜マサキを独り占め』
『極太鰻(うなぎ)と
泥鰌(どじょう)と淫らなレズ肛門』
暴力的な指向の強いものばかり買う人など、
ちょっと笑えない場合もあるけれど。
そういったときは、
どうしようもない感じのタイトルやコピーに「癒される」。
『快楽エロ汁マンチョ』
・得意技/パイズリフェラ(この巨乳に触ってね♡)
恋人プレイ(いつまでも待ってるよん♡)
教えてください(ご指名お願いします♡)
受け身プレイ(ワタシに会いにきてね♡)
ギリギリ素股(どんなプレイもOKだよ♡)
『母乳搾りコレクション』
・ゆうこママは、産後1カ月というミルク工場オープンしたての
新鮮生絞りミルクを存分に披露してくれます。揉んで搾るたび
にどんどん出が良くなってくるミルクタンクは・・・(省略)。
新鮮生絞りミルクを存分に披露してくれます。揉んで搾るたび
にどんどん出が良くなってくるミルクタンクは・・・(省略)。
『とん汁』という、太めの女性を扱ったビデオもあった。
これはどうもシリーズ展開しているらしく、「パート5」とか、
何本か同名のタイトルが並んでいた。
おたまとニンジンを手に、
風呂場で裸の女性が写っている。
ネギやジャガイモ、鍋などに囲まれて。
太めの女性が裸で登場する表紙は、
どれも同じシチュエーションで撮られていた。
その表紙の写真に、じわじわと笑いがこみ上げて、思わず、
「・・・とん汁て」
と、ひとり声に出して突っ込んでしまった。
『畑のおばあちゃん』というシリーズもあった。
タイトルどおり、畑で農作業する
おばあちゃんの姿が表紙だった。
どう見ても、おばあちゃんが畑で
農作業しているようにしか見えないのだけれど。
どうやらそれも「熟女向け」のビデオのようだった。
そんなゆかいな商品と、
ゆかいなお客さんたちに囲まれたアダルトな日々。
粉雪が舞い散るクリスマス・イブの深夜。
店内のスピーカーからは、
クリスマスムードたっぷりの曲が流れてくる。
日付も変わり、25日。
午前1:50。
もうすぐ閉店の時間だ。
寒い、クリスマスの夜。
入口のガラス戸が音を立てて開き、
ひとりのお客さんが入ってきた。
女性の、
いや、女性の格好をした男性のお客だ。
年齢は、50代半ばくらいだろうか。
現れたのは、あきらかに女装したおじさんだった。
アダルトな店には似つかわしいほど、
カツカツと硬質なハイヒールの音を立てて。
真っ赤なハイヒールの彼女(まはた彼)は、
店内を闊歩(かっぽ)しはじめた。
おそらくカツラだと思われるその髪型は、
パーマのかかったショートカット。
60年代風の、大きめなレンズのサングラスをかけて。
頬にはうっすらとピンク色のチークをはたき、
真っ赤な口紅を引いて。
耳には、丸い、球状のキラキラした
イヤリングがゆれていた。
白地に赤の水玉模様のひらひらシャツに、
白いカーディガンを羽織って。
胸元には、ふっくらと「おっぱい」の
ふくらみがあった。
黄色いミニスカートから伸びた脚は、
白いストッキングを履いて、
両サイドをガーターベルトで留めている。
ミニスカートの丈は、
ガーターベルトの留め具がはっきり見えるほど、
ものすごく短かかった。
おかま、というのか、女装というのか。
その姿を見て、ぼくは、
ダスティン・ホフマンが演じた
『トッツィー』を連想した。
彼女(または彼)が入店したあと。
もうすぐ閉店時間だということもあり、
ぼくは、店内を整頓しながら巡回をはじめた。
彼女(または彼)は、
こちらにちらちらと視線をよこしながら、
雑誌をパラパラめくっていた。
ぼくが棚のまわりをぐるりと回ったとき、
そのスカート丈を意識してか、
彼女(または彼)が、
棚の下段の雑誌に手を伸ばした。
やや、おしりを突き出すようにして、
前のめりの姿勢で。
その瞬間、
彼女(または彼)のミニスカートの裾から
真っ白い下着がのぞいた。
テニスのアンダー ・スコートのような、
ひらひらのフリルのついた白い下着。
彼女(または彼)は、
完全にぼくの目を意識していた。
彼女(または彼)の視線が、
ちらりとぼくをうかがう。
ぼくは、そのまま
彼女(または彼)の目を見つめ返した。
目をそらすことなく、
まっすぐ彼女(または彼)の目を見つめ返した。
すると、彼女(または彼)は、
雑誌を放り投げるようにしてその場を離れ、
店の外へと駆け出していった。
ゆっくりと店の入口に向かい、
店の外に視線を向けると、
意外に男っぽい運転でタイヤを鳴らしながら
走り去っていく白いセダンが見えた。
粉雪の舞い散る中の、
クリスマス・プレゼント。
その年、最初にもらったクリスマス・プレゼントは、
女装したおじさんの、フリフリの白いパンツだった。
ああ、まったく。
世の中には、
いろいろな姿のサンタクロースがいるものだ。
けど、ある意味、
いいものをもらった気もした。
いまでも夜空に舞い散る粉雪を見ると、
女装したおじさんの、
黄色いミニスカート姿を思い出す。
ミニスカートから伸びたストッキングの脚は、
意外に細く、すらりときれいだった。
< 今日の言葉 >
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