2009/03/26

髪型ひとつで





いつからだったか。
かれこれ10年近く、坊主頭だった。


業務用のバリカンで1、2ヶ月に1度、
バリバリと刈っていたのだけれど。

それも、しばらくやっていない。


坊主頭だと、
何かと「誤解」されることも多かった。

お寺では、
深々とお辞儀したおばあさんに合掌され、
公園では、ランニング中の野球部員全員に、

「こんちはース」
「こんちはース」
「こんちはース」
「こんちは〜ス」・・・

と、あいさつされ続けた。

繁華街ではやくざと間違えられ、
新幹線では、沖縄出身のおばちゃんに、

「軍隊の人?」

と聞かれたりもした。


たしかに、
坊主頭は何にでも見える。

いい歳して坊主頭だと、
「堅気」には見えないのかもしれないけれど。

坊主頭というものには、
意外と見る側の「幅」があることを知った。


それが今では。


外に出ると、
必ず1回は笑われる。


笑わすつもりなど
微塵もないのだが。

ここ最近、
ほぼ1日1回は笑われている。

坊主頭から
チリチリパーマへの華麗なる転身。

冒頭の画像は、
ヅラではなく、
自前の毛なのである。


イメージは、
黒いタンポポの綿毛。

きつめのパーマをあててます。


別に「おしゃれ」を
しているつもりもないけれど。

まさか、こうも笑われるとは
夢にも思わなかった。


エスカレータに乗ると、
対面ですれ違う人たちの
いくつもの視線がこちら(あたま)に注がれる。

それでも、
おおっぴらに笑う人は、
そうそういない。

笑うのは子どもだ。


ジャン・コクトーの作品ではないけれど。
やつらはおそろしく正直な生き物だ。

おもしろければ笑うし、
そのおもしろさを
誰かと共有したくて仕方がないのだ。


踏切待ちをしていて、
前にいた女子小学生2人組に
ヒソヒソと噂され、クスクスと笑われた。

そんなときに限って、
踏切がなかなか開かない。

あまりにコソコソする2人の姿に、
もう少しで顔がにやけてしまいそうだった。


ドリトスを買いに行く途中、
小学校高学年くらいの
男女が6、7人いた。


「アフロっ・・・!」


そのひとことを限りに声をひそめ、
短いヒソヒソ話のあと、
爆発するように笑いがはじけた。


これくらいの年代の子には、
「チリチリ頭」=「おもしろいもの」
でしかないのか。

おろるべし、テレビ(マンガ?)の影響。


店からの帰り路、
どうせなら、
セグウェイにでも乗って
現れてやろうかと思った。


「小学生のうちに間近で
 チリチリ頭が見れて、
 ありがたいと思え」


そう言ってやろうかとも思った。


ニヤける口元を抑えつつ、
爆笑するガキどもの前を通過する。

店を出ての帰り道、
何を言ってやろうかと思って
楽しみにしていると、
雨がぱらぱらと降り出した。

雨を避けながら歩いて行くと、
さっきまでいたガキどもの姿が、
まるで最初からいなかったかの
ようにすっかり消えていた。


ガキも、
雨には弱いらしい。

その点では、
チリチリ頭とおんなじだ。



新大久保駅と
大久保駅のあいだ辺り。

中国人や韓国人が経営する
店舗が並ぶ界隈で、
韓国人らしき男女に笑われた。


信号待ちで立っていると、
まず女子がふり返り、
男子に小声で耳打ちした。

続いてリレーのバトンでも受け取る感じで、
ちらりと男子がふり返って、
最後にふたりがもう一度
こちらをチラ見したあと、
ふたりそろって肩を揺らして笑っていた。


韓国語だったら
分からないのに。


ふたりは、気を遣って
コソコソ話していた。

もしかして、韓国の人には
特に「おもしろい頭」なのかもしれない。


韓国に行ったら、
韓国の国民全員に
笑われるんじゃないか。


そんな不安に
駆られたりもしたけれど。

韓国では、
思ったより笑われなかった。


あくまでも
「思ったより」だけれど。


韓国の人は、
みんな親切だった。



日本の、コンビニでは。

父親と手をつないで
歩くガキ(♂)が、
チリチリ頭を見た瞬間、
何か発見したかのような顔で立ち止まり、
父親の手をぐいぐい引っぱって
「知らせようと」していた。


ホームセンターでは、
レジに並ぶガキ(♀)に、

「みてみて、おばあちゃん。
 へんなアタマ」

と、露骨に指を差された。


ほかにも、
何度か子どもに「発見」され、
何度か「報告」されてきた。


けれど。


報告された「おとな」は、
たいてい無反応だ。

聞こえない、
または聞いていない顔で
足早に通りすぎたり、
無関心な感じで
適当に生返事をしたり。


「まさか、僕の姿が
 見えないのか・・・」


妖精や精霊、
妖怪などのように。

いつのまにか自分が
「ガキ」にしか姿が見えない存在に
なってしまったのかと。

ほんの一瞬だけ
浅く疑ったりはしてみたが。

もちろん、かしこい僕は、
本気でそんなことを
思ったりはしなかった。


とにかく、ガキは正直だ。


裸で練り歩く王様を見て、

「あぁっ、王さまが
 ハダカであるいてるよ!」

と素直に言うことができるのも、
ガキの才能だ。


念のために言っておくが。

僕は、笑わせるつもりなど
毛頭ない(髪の毛だけに)。

笑わせるのと笑われるのとでは、
同じようで、全然違う。



朝の駅で、
向かい側のホームの男子高校生が、
こちらをアゴで指して笑っていた。

ポケットに手を突っ込んだまま、
ニヤニヤと笑うその姿に。
よっぽど線路を越えて、

「なんやねん」

と言ってやろうかと思ったが。

ホームに滑り込んできた電車の窓、
そこに映る自分の姿を見て、
思い直した。


「たしかに笑えるわな」


怒りが、笑いによって
浄化された。

ほかでもない。

ガラスに映り込んだ、
自分自身の、シルエットで。



たとえ笑われているのだとしても。
怒らせるよりかは、ましかもしれない。

明るい笑いをふりまく
サザエのように。

お料理片手に、お洗濯。

タラちゃん、ちょっとそれ取って。

かあさん、この味どうかしら?


みんなが楽しければ、僕も楽しい。

だから、なるべく許そうと思う。

ガキ以外の、
大きなガキもことも。


えっ?

本当に髪型だけ、なのかって?


そんなふうには、
考えたことなかった・・・。


< 今日の言葉 >

「いいか。
 一度離れたピーナッツはな、
 二度とくっつかないんだぞ!」

「よく聞け。
 同じ形をしたピーナッツは
 ふたつとしてないんだ」

「そりゃあ、
 ピーナッツで言うところの、
 オスの、『でっぱり』みたいなもんだ。
 主役級に注目されることはなくとも、
 栄養価は高いからな」

(人生の教訓を、何でも『ピーナッツ』でたとえる人)