2018/09/28

お茶どころの商店街と宇宙船












「馬鹿を承知でなったやくざ稼業」

「四十三太刀(しじゅうさんたち)斬られて逃げ傷ひとつなし」

「馬鹿は死ななきゃ治らない」


(広沢虎造/浪曲「清水の次郎長伝」より)






☆ ☆ ★





お茶どころの城下町。

時間が早かったので、お城はまだ開いていなかった。


城郭を散歩したあと、

周辺をふらふら歩いてみる。

お城の近くには、

歴史と由緒のある建物がたくさんあった。



















寺社のような、立派な講堂。

ただそこに、博物館的にあるだけでなく、

講演会や講座などで、

ごくふつうに利用されているのがすばらしい。


二宮金治郎の像として親しみのある、二宮尊徳氏。

背中の薪(まき)がリュックサックに変わり、

手にした書物がモバイルに変わっても。


勤勉な姿は、いまにもしっかり受け継がれている。



こんな講堂で講演会を開けたら、

きっとたのしいはずだろう。



いつか講演会を開く日のために、

ちょっと舞台に立ってみた。



外の光が、とてもまぶしかった。







































お城に戻り、天守閣から景色を眺めて。

城下の街を一望した。



本丸御殿で、

迷路のような間取りをたのしみながら、

金襴緞子(きんらんどんす)の打掛や、

鎧兜(よろいかぶと)、

刺又(さすまた)など、

いろいろな展示物をたのしんだのち。

























お城のすぐお膝元、

観光風情の店々をのぞいてみる。


甲冑(かっちゅう)を扱うお店に入ると、

お店の男性が、いろいろお話を聞かせてくれた。


甲冑の意匠(デザイン)には、

ぜんぶ意味がある、ということ。


神々を象った甲冑の姿が、

鎧兜を着る各人の思いや考え方を象徴するものと

なっていたこと。


満ち欠けする「月」。

再生、復活。不死の象徴。


色の意味。

青龍(せいりゅう)、白虎(びゃっこ)、

朱雀(すざく)、玄武(げんぶ)。

東西南北の四神。

青、白、赤、黒。

四つの色。


鎧兜は、

さまざまな手しごとが

集まってできているということ。


漆、組紐、染色、彫金、裁縫・・・。

職人仕事、手しごとの集大成。


話を聞いてくれたお礼に、と。

お店の男性から、

地元農家の方がつくったお茶の葉を1袋、

おみやげにいただいた。







☆ ★ ★













かつての城下町である、商店街。

シャッターが下りたままのお店も少なくなかったが。

古きよき看板たちが、何も言わず、

栄華の時代を語っていた。










































パン屋さんでパンを買う。

迷いに迷って、迷ったあげく、

店内を3、4周してようやくレジに向かった。


お店の紙袋が、いい感じの絵だったので、

余分にほしいと伝えると、

快く袋を分けてくれた。
















歩きながら、パンをほおばる。

あげぱんのジューシーさに、

口が、おぼれそうになる。




お茶どころの街だから、

きっとおいしい和菓子があるはず。


おいしいお茶に合う、

おいしいおまんじゅうを求めて。

一軒の和菓子屋さんに入ってみた。



いろいろ見定めてみて、

なんとなく選んだ一品。


求肥(ぎゅうひ)をシソの葉で包んだ『紫蘇衣』。

(「紫蘇」と書いて「しそ」と読みます)


何の知識も情報もないま選んだ一品ではあったが。

お店のおばちゃんいわく、ついいましがた、

いっきに50個売れてしまって、

売切れの状態だと。


お茶会の席で出された『紫蘇衣』を食べたお客さんが、

あらおいしい、おいしかったわ、と、

続々買いにこられたらしい。



残念無念にうなだれるぼくを見て、

不憫に感じて思い至ったのか。

お店のおばちゃんは、


「冷凍庫に、

 凍ったのが2個だけあるかもしれないから、

 ちょっと見てくるわね」


と言って、いったん店の奥に姿を消した。

しばしののち、

うれしそうにはずんだ声で、


「あった、あった。2個だけあった」


と笑顔で戻ってきた。


完全に溶けきってから食べてね、と。

お店のおばちゃんが、

食べどきを指南してくれた。

自然解凍で、

完全に解凍される明日の朝ごろまでは「おあずけ」だ。















2個の『紫蘇衣』をていねいに包みながら、

ふとまた思い出したように、

おばちゃんが言った。


「これ、形がくずれちゃったから。

 よかったらどうぞ」


そう言って、

懐中汁粉(かいちゅうしるこ)のようなものを3つ、

袋に入れてくれた。











「溶かすのは、熱々のお湯じゃないとだめだからね。

 ポストのお湯・・・じゃなかった、

 ポットのお湯じゃなくて、

 熱々のお湯じゃないとだめだからね」



お茶目な言いまちがい付きの説明を聞きながら、

お菓子を受け取る。

気づくと「おまけ」のほうが、

すっかり多くなっている。


「ありがとうね、ごめんね」


やさしく笑うおばちゃんに、

その言葉を、そっくりそのまま返したくなる。


まったく「こちらこそ」の身分である。



お店を出て、

またふらふらと歩く。


例のごとく、

端から端まで、隅から隅まで、

商店街を隈(くま)なく歩く。














































アーケードが終わると、

お店もぴたりとなくなった。


「端っこ」から踵(きびす)を返して、

いま来た方向に戻っていく。


そんなときは、

道向かいに渡って、

いま来た道の対岸の道、

いま来た店々を反対側から眺めながらの歩みとなる。

ついさっき歩いたお店の界隈も、

遠目に見ると、景色が変わるし、見え方も変わる。



そう。

このお店も、そんな「帰路」に「発見」した。


けっして見逃していたわけではないはずだが、

「往路」では目(または意識)に、留まらなかった。






★ ★ ★









ややっ。

なんだあのお店は。

気になる。

どうしようか。

よし、行ってみよう。


直感と思考との葛藤ののち、

道を渡ってお店に向かう。




店内のようすをうかがう。


入口窓から覗いた店内は、

薄暗く、なかなかはっきり全貌は見えてこなかったが、

ほの暗い灯りに照らされた室内が

おぼろげに見えはじめた。





















店内のようすは、

古めかしいキャビン(船室)そのものだった。


あらためてお店の外観を見直すと、

たしかに、海や港を思わせるものだった。



おお!

あぶないところだった。

あやうくこの地をあとにするところだった。



迷いは吹き飛び、すぐさま入店。


外が明るかったせいだけではなく、

店内は予想以上に暗かった。











カウンターに、

いることすらわからぬ気配で、

男性が立っていた。

白いシャツにベストを羽織った、

小柄な男性だった



時刻はお昼すぎ。

念のため「大丈夫ですか?」と訊いてみる。


「お食事はできませんけど、いいですか?」


うかがうような、男性の声。


「あ、はい。飲み物だけで、大丈夫です」


「それじゃあ、どうぞ。いらっしゃいませ」


言い忘れた挨拶を思い出したように、

ていねいな口調で男性が頭を下げる。


「わあ、すごい」


店内のあちこちを眺め回しながら、

ゆるゆると店の奥へと進む。



真鍮(しんちゅう)製の丸窓の枠。

おなじく真鍮製のランタン。

壁にかけられた木製の舵(かじ)。

潜水夫がかぶるヘルメットは、

やや小さめで、模型らしき大きさではあったが。

『未来少年コナン』で

ラオ博士(ラナのおじいちゃん)が

かぶっていたような感じの、

古めかしい形の代物だった。














天井には、

ランプを模した照明が

ふらさがっている。


ちろちろとゆらめく炎のような電球は、

おそらく前時代のもので、

現代のものより逆に生々しく、

ステラコイルを連想させる。



各席には、

映画館の誘導灯のように

紫色の照明が灯っている。


どちらも、足元を照らすには頼りなく、

奥へ行くほど店内は暗くなる。


闇に近い照度の店内は、

船室のようでもあり、

洋風のお化け屋敷のようでもあり、

メトロポリスのようなSF風景でもあった。



とにかく、わくわくときめく雰囲気だ。









いちばん奥の、壁際席に座る。

席は、腰高の間仕切りのような壁で、

それそれが囲われているような感じだ。


はっきりと何色かは判別できないが。

ソファの背もたれの、色の切り返しも好ましく、

座面はふかふかでお尻が沈む。

その沈み具合が心地よく、

視線が下にさがった分だけ「隠れ場所感」が倍増した。


机は、おそらく60年代くらいの、

デコラ張りメタルエッジ鉄脚テーブルだった。



客席の壁に据え付けられた

木製のスピーカーからは、

うっすらとジャズが流れている。

闇に溶け込むような、

やさしい音量だった。


カウンターのすみ、

壁にかけられた薄型テレビからは、

お昼のテレビ番組が流れている。


それこそが「現代」のはずなのだが。

逆にそこだけそぐわないような感じだった。



席に着くと、

お店の男性が、メニュー表と、

よく冷えたお水を運んできてくれた。


銀色のトレイが、

オレンジや紫の光を浴びて、

ますます宇宙的な感じだった。


ドリンクのメニューを見て、

お店の男性のいでたちに納得した。


きちんとなでつけた髪と、

白いシャツに黒いベスト。


どうやらこのお店は、

喫茶というより、

夜の、BARの毛色がつよいようだ。


たくさんのアルコールメニューのわき、

ソフトドリンクの欄を見る。


ふだんならコーヒーを頼むところだが。


「コーヒーエッグノッグ」


という、

聞き慣れないドリンクが気になったので、

それに決めた。


カウンターに立つ男性に、

注文を伝えにいく。


頼んでから、

コーヒーエッグノッグとは

どういうものなのかを訊いてみると、

「ミルクセーキのミルクの代わりに、

 コーヒーを入れたたもの」

ということだった。



なれた手さばきで、

男性がシェイカーを振っていく。


氷のぶつかる音が、

店内をにぎやかに彩る。


シェイカーからグラスへと

なめらかに注がれた液体は、

こまやかな泡をこんもりたたえた、

琥珀色の飲み物だった。



席に戻り、

男性が運んでくれた

コーヒーエッグノッグを口にした。


甘くて、冷たくて、なめらかな、

コーヒー牛乳のような味わいだった。

それでいて、しっかり苦みがある。










思いのほか暑かったその日は、

冷えた甘いコーヒーエッグノッグが

よく似合う日だった。


その甘さがなつかしく、

どこか異国風で、

行ったこともない東南アジアを思い起こさせた。
























船室から宇宙へ。

そして東南アジアへ。


そう、ここはお茶の国。

緑茶の美味しい茶所の街。



甘美で濃厚なコーヒーエッグノッグと、

宇宙的な船内風景は、

時間も、場所も、時代も状況も、

すべてを忘れさせる魔法がある。



紫煙をくゆらせていると、

カンターから、何やら包装を開ける音がした。

そこに、卵をかき混ぜるような音がつづいて、

ほどなくすると、

何か、油で揚げるような音が聞こえてきた。



あれっ。

お食事はできないって言ってたのにな。


時刻は13時すぎ。

たしかに、おなかも減るころだ。


ははあん、

おじさんの、お昼ごはんだな。


もう少し待って、

お客さん(ぼく)がいなくなってからにすればいいのに。

時間にきっちりした人なのかな・・・。



なとど思いめぐらせながら

くつろいでいると、

お盆を手にした男性が、

カウンターを出て、

ばたばたと2階へ上がっていく足音が聞こえた。


誰かが、上で待っているらしい。



あさはかな

わが考えを省みて、

心のうちで謝り席を立つ。



「ごちそうさまでした。おいしかったです」


「ありがとうございました」



入ったときには見えなかった、

きらきらした笑顔の男性が会釈を返す。









外は、非現実的なほど現実的で、

いましがた身を置いていた空間との落差のせいか、

まるで浦島太郎のような気分になった。


何時間、いや、何日すごしたのか。


そんな感覚にさえ陥ってしまう。



時空を超える、宇宙船。



時は平成最後の年。

こちら地球の商店街。


応答願います、どうぞ。



現実に帰還して、足を進める。




店先に立ち止まっただけの靴屋さんでは、

美術館の優待券をもらった。


お店のご婦人は、

ひじを伸ばして、両手のひらを直角に向けた姿勢で、


「いってらっしゃ〜い」


と、満面の笑顔の

きらきら両手バイバイで見送ってくれた。




お茶どころの街は、

みんなやさしく、

気のいい人たちばかりの、

すてきな街だった。




城下の街をはなれ、

山あいの街へと向かう。



ぼくには、どうしても参りたいお墓があった。


親戚でも知り合いでもない人の墓だけれど、

帰りがけ、寄っていかなきゃならねぇ、

その人の墓とは。


森の、石松さん。



冒頭の引用句は、

ここにつながるわけであります。



清水の次郎長の子分でおなじみの、

森の石松氏のお墓に寄って、お参りをして。


お寺の方に、

石松さんの人となりなどのお話を聞いた。



帰路の景色をたのしみながら。


森町とは、

こんなすてきな場所だったんだなと

感じて帰ってきた、

そんな次第であります。















地図も持たず、

しっかりとした下調べもなく、

行き当たりばったりで出会った風景、

出来事、出会えた人々。



お茶の街、そして森町。



自分も、

みんなのアイドルになるべく、

二宮金治郎さんか、

石松さんのような人になりたい。



そう思ったのでありました。











< 今日の作詞 >


「かげ」


くっついたり はなれたり

のびたり ちぢんだり

かげっておもしろい

かげっておもしろい


かげに色はないけれど

うれしいときにはピンク色

かなしいいときにはブルー


きみのかげにリボンをつけたら

ぼくの心にリボンがゆれる


かげっておもしろい

かげっておもしろい


ぼくがはねると かげもはねる

ぼくがわらうと かげもわらう

いつでもいっしょ

見えないときにも そばにいる

かげがあるから 光もある


かげっておもしろい

かげっておもしろい

かげっておもしろい



(夢のなかで甲本ヒロト氏に頼まれてつくった詩)






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