2010/02/03

ヨーグルト気分


先日、河畔のとある公園で、トランポリンを見つけた。

このトランポリン。
体操競技などでよく目にする平面的なトランポリンではなく、
こんもりとした山のようなトランポリンなのだ。

高低差のある小高い丘がいくつか連なる形で、
30〜40メートル四方ほどの敷地にででーんと広がっている。
なだらかな傾斜とこんもりした山。
この「山」が、真っ白だからまたおもしろい。

どうやらこのトランポリン、
白い、分厚いテント地のシートに、
中から空気を送り込んでふくらませているようだ。


見つけた瞬間、
いても立ってもいられなくなり、
その真っ白なトランポリンに向かって走った。

白い、小高い山の連なるトランポリン。

靴ひもをほどくのもまどろっこしく、
脱いだ靴を投げ捨てるようにして「山」に登った。


跳ねた。

飛んだ。

ものすごく高く跳んだ。

景色が下に見えた。

空が、少し近づいた。


跳んだまま空中で静止したように思えるほど、
高く跳べることがあった。

腕、脚、腹筋、背筋。
全身を使って体を飛び上がらせる。
スケボーの「オーリー」と同じような感じで。


あんまりたのしくて、笑いが止まらなくて、
よだれが垂れて、力が入らなくなって、
その場にかがみこむ。

息が上がったうえに笑うものだから、
呼吸をするのもままならない。

まわりでぴょんぴょん跳ねてるガキどもは、
まるで疲れ知らずの顔つきで、
止まることなくずうっと飛び跳ねつづけている。


あらためて、ガキの体力に敬服。


タバコのせいばかりじゃないだろうけど。
息もゼイゼイで喉もカラカラで。
ずっと跳びつづけていたいのに、
ときどき腰を下ろさないと息がもたない。

裸足のまま、自動販売機までウーロン茶を買いに走って。
靴下が泥だらけになった。


喉を潤し、トランポリン再開。

空が近くなり、
景色が少し下に見える。


小さな子供や親子連れの家族。
ガキどもと、子供を見守るお父さん、お母さん。
子供を見守っていたはずのお父さん、お母さんも、
いつのまにかトランポリンの上で飛び跳ねている。

お母さんが、子供とふたりでお父さんを押したりして、
たのしげに笑っている。
押されたお父さんは視界から消えたあと、
しばらく姿が見えなかった。
いたずらのつもりが、
結構、本気でふっとんだみたいだ。
それでも、お父さん、お母さんとも、
けらけらと笑っていたのでおもしろかった。


白い、トランポリンの山の上で。

みんな、ぴょんぴょん跳ねていた。
みんな、たのしそうに笑っていた。


薄暗くなりはじめ、守衛のおじさんがやってきた。

「いまから空気を抜きますから」

「え、もう終わりなんですか?」

守衛のおじさんがうなずいてみせたあと、
ぽつりとこうつけ加えた。

「まだ、空気が抜け切るまでには3時間ありますから。
 あとは親御さんの責任でよろしくお願いします」


ゆっくりと空気の抜けていく白い山で。
走り回り、ぴょんぴょん跳ねつづけた。

さっきまでたくさんほかの人がいたのに、
気づくと5人組のやんちゃなガキどもくらいしか残っていなかった。

そいつらには、太陽がまだ明るい時分から
何度か話しかけられたりした。

「ちょっと、ぼくが寝るから、そのまわりをはしってみてよ」

「嫌だね、そんなん」

「いいじゃん、やってよ」

「やだね、めんどくせぇ」

「じゃあ、ぼくがはしるから寝っころがってよ」

「あ? いいよ。やれば」


空気が減ってきて、
もう、軽やかに飛び跳ねられなくなってきたとき。
ぼくを指して、ひとりのガキが言った。

「重い人がいるから、空気のへるのが早い」

何となく腹が立ったぼくは、

「はぁ? おまえが屁ぇこいたからじゃない?」

と、言い返してやった。
するとガキは、

「こいてないって!」

と、必死になって否定した。

「こいただろ、さっき。ブって聞こえたぞ」

「こいてないってば!」

少し笑いながらも、
全力の本気で言い返してくるガキがおもしろくて、
しばらくそのやりとりで遊んだ。


空気が抜けた山は、反発する力を失って、
すっかりヨボヨボになってしまった。

もう充分遊んだので、
白い、トランポリンの山を下山した。

すっかりへこんで、
火山口のような形に落ちくぼんだ中で、
悪ガキどもが輪になって座っている。

ひとりのガキが、
仰向けに横たわったまま、ぽつりとつぶやいた。


「こうやってると。なんか、ヨーグルト気分だね」


ヨーグルト気分。

まるでその言葉が流通しているかのような言い草がおもしろくて、
しばらくそのフレーズを口のなかで転がしてみた。


ヨーグルト気分て。

けど、少し分かる気がした。


白い、しぼんだトランポリンの山に包まれて寝転がるガキは、
何度か「ヨーグルト気分だよね」と繰り返したものの、
仲間からは誰ひとり共感してもらえないままだった。

ほかのガキが、ゲップの出しあっこをして遊びはじめたので、
「ヨーグルト気分」のガキも、すっかりそのことを忘れて、
息を吸い込んではゲップを出して笑っていた。


靴を履き終えたころには、
ガキどもはすでに立ち上がっていて、

「鬼ごっこしよう」

と、走り回りはじめていた。

誰がオニか決めずにはじめてしまった鬼ごっこを横目に、
薄暗い公園を歩きはじめる。

その足で、ライトアップされた立体迷路をくぐり、
見晴らしのいい塔にのぼった。
視線を泳がせていると、
鬼ごっこに飽きたガキどもが帰っていくのが見えた。

ガキどもがこっちを見ている。

手は振らなかったけれど。
心のなかで「バイバイ」と小さく手を振り、
にぎやかな悪ガキどもと別れた。


悪ガキどもの姿が小さくなって、闇に埋もれる。
日の沈んだ公園に、冷たい冬の風がさあっと吹いた。

白い、トランポリンの山も、
闇に没して灰色に見える。

冷たくなった手をポケットに突っ込み、
しいんと静まり返った公園をあとにした。


まだ、6時すぎなのに。
思いっきり遊んだせいで、腹が、ぺこぺこだった。



< 今日の言葉 >

「こんばんは、オヤス美紗子です」


2010/01/26

アダルトな日々


昔、アダルトショップで働いたことがある。

アダルトショップとは、ご存知のとおり、
「アダルトな」「グッズ」を販売する店のことだ。


セクシーな下着やローション、
大人がごそごそと遊ぶ「おもちゃ」をはじめ、
アダルトなDVDなどが所狭しと並んだお店。

カナダへの飛行機代を稼ごうと考えていたとき、
アダルトショップの店先に、
「スタッフ募集」の貼紙があるのを見つけた。

おもしろそうだな、と思い、
さっそく店内に入ってみる。

そのときぼくは、
初めてアダルトな店に入った。


どぎつい蛍光色のPOP、
ゆれる裸の女のポスター。
立体迷路の壁のように立ちはだかる棚には
DVDがびっしりつまっており、
ふだん人前で口にしてはいけないような単語が
ずらりと続いていた。

まず、店のスタッフらしき人を捜すのに苦労した。

「すみませーん」

「はい、いらっしゃいませ」

 沈黙。

「・・・あのー、すみません」

「はーい」

声はするのだが、姿が見えない。

天井に届きそうなほど高くそびえる棚たちが、
行く先々で視界をさえぎる。

まるで『パックマン』だ。
声のするほうへ進んだつもりが、
そこに姿はない。

堂々巡りの不毛な鬼ごっこをしばらく繰り返したのち、
ようやくスタッフらしき人の姿を見つけた。

身長190センチ、体重100キロ超。
マトリョーシカのような体格の男性が、
額に汗を浮かべて、
棚と棚とのあいだに挟まるかのようにして立っていた。

(詳しくは、2009年01月27日号『歳下の店長』をご覧下さい)

そして。
初めて入ったアダルトな店が、
そのまま自分の「職場」となった。



正午に店を開け、深夜2時には店を閉める。
早番、遅番のシフトはあるが、
勤務は、基本的に1人。
引き継ぎのときにようやく雑談ができる程度で、
あとは1人、黙々と勤務する時間が続く。


早番。
掃除をして、諸々の開店準備をする。
午後から夕方にかけて、
アダルトグッズやDVDなどが続々と配送されてくる。

ローション、バイブ、ローター、下着、
オナホール、ダッチワイフ。

それらの商品をダンボールから出し、
入荷処理をして値札を貼り、
「商品」として梱包して店頭に並べる。

さらにはDVDやエロ本、
エロマンガ、エロ雑誌などがどんどん送られてくる。
DVDだけでも、日に50〜60本ほど入ってきたりする。

おもしろタイトルにいちいち反応していると、
仕事がちっとも進まなくなる。

とはいえ、
おもしろいものをそのまま放ってはおけないので、
手元のノートにさらさらとメモを取る。


遅番。
アダルトなお店のお客さんは、
おもに夜、集まってくる。
だから夕方以降は、
接客、レジ応対などが中心になる。


ちなみにレジからは、お客さんとこちらと、
お互いの顔は見えない造りになっている。


手の空いたときには、
頼まれてもいないのにPOPを作ったりしていた。
エロチラシからカワイコちゃんの写真を切り取って、厚紙に貼って。

『買ってみたら、すごくいいかも♡』

などと、意味不明なコピーをしゃべらせたりして。

それがなぜか効いたようで、
いままで売れなかった安売りコーナーのDVDが、
続々と完売するようになったのだから不思議だ。


冬場、オナホール(男子が使うものです)を温めるための、
棒状の器具が登場したとき。
店頭に並べただけでは、1つも売れなかった。

だから、POPを作って貼った。

アノ温もりを再現』

わざとカタカナにした「アノ」の上部に「・(傍点)」をふって。

これはさすがに伝わったらしく、
分かりやすいほどの反応で売れていった。
オナホールとセットで買うのがあたりまえとでもいうように、
結構な確率で “ 温めスティック ” を買って行ってくれた。


あるとき、男女ふたりが店にやってきた。
20代前半くらいの、若いふたりだった。

入店するなり、
女性が真剣に「おもちゃ」を選びはじめた。

あれこれ手にすること数十分。

そのあまりの真剣さに興味が失せた男性は、
エロビデオを物色しはじめた。
ひとり取り残された女性は、
レジ前の「小窓」からこちらをのぞき込むようにして、

「あのー、これ、どっちが気持ちいいですか?」

と、普通に聞いてきた。
そのあまりにも普通な感じに、
一瞬、戸惑いかけたけれど。

「ぼくは使ったことないんで分かんないですけど。
 こっちのはここが回って、こっちのはここがこうやって動くみたいですね」

と、書いてある説明を口頭で説明した。

「あ、じゃあ、こっちにします」

結局、その女性は、ごつめのバイブと、
男性の選んだDVDを1枚買った。
その男性分の会計も、
手慣れた感じで女性が支払っていった。


さて。

人には、好みというものがある。
それは性についても、しかり。

女子高生などの制服が好きな人もいれば、
おしっこやうんこなどのスカトロが好きな人もいる。

残念ながらぼくには、あまり特別な好みや性癖がない。
正直、エロビデオやエロ本もあまり見ることがなかった。

だから、仕事をして初めて実態を知って、
毎日が驚きの連続だった。


( ここからさき、よいこのおともだちはみないでね!! )


商品の選び方には、当然、その人の好みが出る。
性癖というか、嗜好というか。
こういった「性」の分野では、
ほかの買物に比べて「好み」が如実に出ているような気がした。


『素人娘直送投稿オナニー』
『女子高生の乳首オナニー』
『病みつきオナニー3(女子高生自宅オナニー)』
『あなたのオナニー買い取ります』

 計4点:¥20,620-


なるほど、分かりやすい。

ワイシャツとネクタイ姿にカーディガンを羽織った、
学校の教師風の男性が、

『女子高生痴漢作品集2005』

というものを買って行ったときには、
さすがに「えっ?!」とか思ったりもしたけれど。
とにかく、おもしろタイトルに、
平常心で接客するのが精一杯だった。


『糞尿流しそうめん』


『巨乳なわとび』


『インチキ教祖のワイセツ除霊』


『パンスト擦りつけオナニー中毒
 〜女子高生のアソコから煙が出ちゃう〜』


『リモコン角オナニー』


『生理ランナー』


『ハイレグ熟女』


『濡れ衣』


『洗髪』


『 boys be MASAKI 〜マサキを独り占め』


『極太鰻(うなぎ)と泥鰌(どじょう)と淫らなレズ肛門』


暴力的な指向の強いものばかり買う人など、
ちょっと笑えない場合もあるけれど。
そういったときは、
どうしようもない感じのタイトルやコピーに「癒される」。


『快楽エロ汁マンチョ』

・得意技/パイズリフェラ(この巨乳に触ってね♡)
     恋人プレイ(いつまでも待ってるよん♡)
     教えてください(ご指名お願いします♡)
     受け身プレイ(ワタシに会いにきてね♡)
     ギリギリ素股(どんなプレイもOKだよ♡)


『母乳搾りコレクション』

・ゆうこママは、産後1カ月というミルク工場オープンしたての新鮮生絞りミルクを
 存分に披露してくれます。揉んで搾るたびにどんどん出が良くなってくるミルクタンクは・・・(省略)。
 

『とん汁』という、太めの女性を扱ったビデオもあった。
これはどうもシリーズ展開しているらしく、「パート5」とか、
何本か同名のタイトルが並んでいた。

おたまとニンジンを手に、
風呂場で裸の女性が写っている。
ネギやジャガイモ、鍋などに囲まれて。

太めの女性が裸で登場する表紙は、
どれも同じシチュエーションで撮られていた。
その表紙の写真に、じわじわと笑いがこみ上げて、思わず、

「・・・とん汁て」

と、ひとり声に出して突っ込んでしまった。


『畑のおばあちゃん』というシリーズもあった。
タイトルどおり、畑で農作業するおばあちゃんの姿が表紙だった。
どう見ても、おばあちゃんが畑で農作業しているようにしか見えないのだけれど。
どうやらそれも「熟女向け」のビデオのようだった。



そんなゆかいな商品と、
ゆかいなお客さんたちに囲まれたアダルトな日々。


粉雪が舞い散るクリスマス・イブの深夜。
店内のスピーカーからは、
クリスマスムードたっぷりの曲が流れてくる。

日付も変わり、25日。
午前1:50。
もうすぐ閉店の時間だ。

寒い、クリスマスの夜。

入口のガラス戸が音を立てて開き、
ひとりのお客さんが入ってきた。

女性の、
いや、女性の格好をした男性のお客だ。
年齢は、50代半ばくらいだろうか。


現れたのは、あきらかに女装したおっさんだった。


アダルトな店には似つかわしいほど、
カツカツと硬質なハイヒールの音を立てて。
真っ赤なハイヒールの彼女(まはた彼)は、
店内を闊歩(かっぽ)しはじめた。

おそらくカツラだと思われるその髪型は、
パーマのかかったショートカット。
60年代風の、大きめなレンズのサングラスをかけて。

頬にはうっすらとピンク色のチークをはたき、真っ赤な口紅を引いて。
耳には、丸い、球状のキラキラしたイヤリングがゆれていた。

白地に赤の水玉模様のひらひらシャツに、
白いカーディガンを羽織って。
胸元には、ふっくらと「おっぱい」のふくらみがあった。

黄色いミニスカートから伸びた脚は、
白いストッキングを履いて、
両サイドをガーターベルトで留めている。

ミニスカートの丈は、
ガーターベルトの留め具がはっきり見えるほど、
ものすごく短かかった。

おかま、というのか、女装というのか。
その姿を見て、ぼくは、
ダスティン・ホフマンが演じた『トッツィー』を連想した。


彼女(または彼)が入店したあと。
もうすぐ閉店時間だということもあり、
ぼくは、店内を整頓しながら巡回をはじめた。

彼女(または彼)は、
こちらにちらちらと視線をよこしながら、
雑誌をパラパラめくっていた。

ぼくが棚のまわりをぐるりと回ったとき、
そのスカート丈を意識してか、
彼女(または彼)が、棚の下段の雑誌に手を伸ばした。

やや、おしりを突き出すようにして、前のめりの姿勢で。


その瞬間、
彼女(または彼)のミニスカートの裾から
真っ白い下着がのぞいた。


テニスのアンダー ・スコートのような、
ひらひらのフリルのついた白い下着。


彼女(または彼)は、
完全にぼくの目を意識していた。

彼女(または彼)の視線が、
ちらりとぼくをうかがう。

ぼくは、そのまま彼女(または彼)の目を見つめ返した。
目をそらすことなく、まっすぐ彼女(または彼)の目を見つめ返した。

すると、彼女(または彼)は、
雑誌を放り投げるようにしてその場を離れ、
店の外へと駆け出していった。

ゆっくりと店の入口に向かい、
店の外に視線を向けると、
意外に男っぽい運転でタイヤを鳴らしながら
走り去っていく白いセダンが見えた。


粉雪の舞い散る中の、
クリスマス・プレゼント。

その年、最初にもらったクリスマス・プレゼントは、
女装したおっさんの、フリフリの白いパンツだった。

ああ、まったく。

世の中には、
こまったサンタクロースもいたもんだ。

けど、違った意味で、
いいもんをもらった気もした。


いまでも夜空に舞い散る粉雪を見ると、
女装したおっさんの、黄色いミニスカート姿を思い出す。

ミニスカートから伸びたストッキングの脚は、
意外に細く、すらりときれいだった。


< 今日の言葉 >


コンパニオン:おかま、ニューハーフ、女装、ドラァグクイーン、
       マッチョ、ゲイボーイ、おなべ、やかんボーイ(男子部)

・月給30〜100万+歩合

・衣装無料貸付、化粧指導あり

・18〜80歳位迄

(歌舞伎町の、あるお店の求人募集広告より)


2010/01/19

熱にうかされて


やりたいこと、やろうと思っていたこと。
たのしいことが続いたせいで、
ついつい立ち止まらずに突っ走って。

気づいたら、ものすごい熱が出た。


39.8℃。


平熱が35℃台なので、39℃といえばえらい熱だ。


背中がぞわぞわしていたので、
たぶん熱があるんだろうと思っていた。
けど、測ってしまうと「うわっ」となるので、
測らずに、だましだまし1週間すごした。

学校も、授業があるので休むわけにいかない。


「かわいい生徒たちが待っているのだ」


そんなひとりよがりの使命感に燃えつつ。
異変に気づかないふりをして、毎日早起きをした。

不規則な生活がすでに規則的になっているぼくにとって、
5日つづけての早起き生活なんていうのは何十年ぶりかのことだった。

仕事が明けて。

家に戻ると、どっぷりと熱が出た。
分かりやすいほどの「安心感」で、
熱が「解放」された。


そして、粘膜をやられた。


喉、舌、歯茎。
たぶん、胃腸なんかがやられた影響だ。


4日で4kg減。

ガリガリにやせて、体の線が頼りない。
ペラペラになった体を見ると、
競技前のスイマーみたいだった。


熱のせいか、それとも飲み慣れない薬のせいなのか。
眠っていると、変な夢を見たりするし、
起きても、変な感覚でふわふわする。

立体のはずの「景色」が、
平面的に、薄くスライスされたみたいに連なって、
視覚的にも、触覚的にも「層」になって感じたり。

壁や扉とか、
いろんなものが、分子構造でできてるみたいに、
粒子っぽく感じたり。

目に映る景色が、
妙にざらついた映像で、
やけに色が鮮やかで、
ゆっくりとスローモーションに見えたり。


4日間、とにかく寝た。


自分が忍者になる夢も見たし、
パリコレで作品を発表する夢も見た。

電飾でピカピカに光る衣装。
真っ黒い肌に、真っ黒のマスク。

パリコレの下見に、なぜか関根勤氏とでかけていた。

忍者のぼくは、
忍者のくせにめちゃくちゃ普通に生活していた。
背負っている刀の鞘(さや)をふすまにぶつけて、

「あ、ごめん。柱、ちょっと傷ついたかも・・・」

とか謝っていたし、
腰にいっぱい鍵とかキーホルダーなんかをつけていた。
とにかく、みんなにやたらと声をかけられて、
やたらと目立つ忍者だった。


天気のいい昼下がり。
起き上がって絵を描いたりして、ぼんやりと外を眺めた。


ぼくは、絵を描いて、
いろいろな場所に行きたい。


ケンコーイチバン。
あたりまえのことにありがとう。


タバコ、もう5日くらいは吸ってない。


熱が出ると見る夢。
チョコレートみたいな、パソコンのキーボードみたいな、
でこぼこした板の上に寝そべっている夢。


中学3年のとき、
ボコボコに殴られて40℃以上熱が出た。

口の中が切れていて、
舌で探るとどんどん入った。
タオルを当てても、血がちっとも止まらない。
バスに乗って医者へ行くと、
もう少しでほっぺたが貫通するくらい、
深い傷だと言われてすぐ手術した。


遠足の前日。
おやつを買いに行ったその足で、
ものすごくでっかいうんこを見つけて、

「マンモスうんこだ」

と、大はしゃぎして。

棒切れにそいつをべっとりつけて、
わいわい言いながら、壁やら看板やら、
あちこちにそいつをつけまくって。

床屋のおっさんに見つかって、
すぐに学校に呼び出されて、
あやうく遠足に行けなくなりそうだったところ、
いっしょうけんめいあやまって、
なんとか遠足には行かしてもらって。

あとで聞くと、
遠足の当日に、校長と教頭が頭を下げ回って、
べっとりついたうんこを掃除して回ったと。


熱にうかされて、
どうでもいい記憶が浮かんで消える。

結局いつも、
だれかに迷惑かけてる気がする。
いくつになっても、
いつもだれかに叱られてる。

たぶんぼくは、いい子じゃないだろうけど。
みんなが笑ってくれれば、ぼくもうれしい。

そう思うのも、たぶん熱のせいだ。
飲み慣れない薬のせいだ。



クイズ『うんこ de ちんちん』

司会のウンコモリゾウです。

アシスタントのチンチンです。

どうぞよろしく。



熱にうかされて、少し、変になっちゃった。



< 今日の言葉 >

 プリンセス王子 VS エッグ玉子

 (特に意味はない組み合わせどうしの対決)





2010/01/06

なんだかやたらとちんこです


初詣、というわけでもないけれど。
先日、田縣(たがた)神社に行ってきた。

いままで、何度か足を運んだことはある。
ただ、お正月シーズンに行くのは初めてのことだ。


ご存知の方も多いと思うが。
この神社、
愛知県犬山市にある神社で、
大男茎形(おおおわせがた)と呼ばれる
男根をかたどったヒノキの「神輿(みこし)」が祀(まつ)られている。

直径60センチ、長さ2メートルあまり。
この神輿を毎年新しくつくり、豊年を祈るのだという。

正月ムードの漂う、よく晴れた日の午後。
何となしに田縣神社に行ってみたのだけれど。
この、大男茎形を詣でる参拝者の多さにまず驚いた。

田縣神社は、万物育成、豊年をはじめ、
子宝の神としても有名な神社だ。
そのせいもあって、
若い夫婦や子連れの家族の姿が多く見られた。


この田縣神社の境内の片隅に、
石造りの「ほこら」がある。

そこには長い行列ができていて、
ほこらに祀られた神さまを詣でようという人でいっぱいだった。

その石造りのほこら。
詳しいことは、あえて言わないでおきたい。
実際に行ったときのおたのしみが減るといけないので。

ほこらの横の立て札に

『珍となる』

と書かれているように。
さい銭を入れると、まさに「チンとなった」。

ずいぶん久しぶりに来たので、
「チン」のことなどすっかり忘れていた。
そのせいで、腹を抱えて笑わせてもらった。

新年早々、いいもんをもらった気がする。


その翌日。

大型電器店のレジに並んでいたときのことだ。
世間はまだ休日の様子で、
たくさんの人でごった返していた。

会計待ちの列に並び、
ぼんやり店内を眺めていると、
すぐ後ろの親子の会話が聞こえてきた。
小学校低学年くらいの男の子と、
その父親との会話だ。

父:「これは、ぼくのだからね」

子:「ぼくの?」

父:「そう、ぼくの」

子:「ぼくちんの?」

父:「そう」

子:「ぼくちんの。ぼく、ちんこ」

父:「・・・・」

子:「ぼく、ちんこ。ぼくちんこ」

父:「もう、恥ずかしいこと言うなって・・・」

子:「ぼくちんこ、ちんこちんこ」

父:「やめろってば」


まったく、無邪気なもんだ。



正月三が日の、1月3日の深夜。
知人からメールが来ていた。

新年のあいさつを兼ねてのメールだけれど。
あまりにも「名文」なので、そのまま引用したい。

(以下、引用)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


あけましておめでとうございます、▲▲です。
今年は『諸事情』により、年賀状を書くことができなかったのでメールで失礼致します。

さて、そんな私ではございますが大晦日を△△(地名)で過ごしたこともあり
新年早々(元旦の15時頃)、△△(町名)にある「・・・(店の名前)」に行って参りました。

いつものシステムに若干緊張してしまい、さほど女の子を吟味することもできず
以前と同じ姫(娘)を指名してしまう事となった次第であります。

どうやら姫は私の事を覚えていてくれたようで、
「アナタ、オボエテル。」「ヤセタデショウ」と、言っていました。

姫との「行為」はどこか懐かしさを感じさせてくれるものでもあり、
「夢」のような一時でした。
『事』を済ませ、ベッドで横たわる僕に対し、どこか寂しそうに姫が口を開きました。


「ワタシ、モウスグ チュウゴク カエル。」

「アナタノ、チンチン モウ アエナイ・・・。」

「アナタ、チュウゴク クル?」


姫の言葉にどこか胸を締め付けられるような気分になりながら店を後にしました・・・。



『一年の計は元旦にあり』


この言葉にもあるように、今年は『最高な』いい年にしたいと思います。
こんな私ではありますが今年もよろしくお願いします。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(以上、引用終わり/原文ママ)


正月早々、いったい何を言っているのか。
まったくもって、
突っ込みどころ満載の名文である。


後日、本人から聞いた話だが。
『事』が終わって後処理をする「姫」が言ったひとこと。


「・・・濃いなぁ」


その口調はまるで、おっさんのようで、
えらく流暢だったらしい。

その感じからして、
「アナタ、オボエテル」とか「モウ アエナイ」とかの、
カタコトのセリフとは違い、
ずいぶん感情のこもった日本語のように感じる。


チャイニーズ・ガールに翻弄(ほんろう)されて、
彼女の言葉に一喜一憂する知人。
純粋なような、ただただバカな男ような。


「一年の計は元旦にあり」
「こんな私ではありますが今年もよろしくお願いします」


・・・って。
いったいどんな「私」なのかは分からないが。
彼の今後に期待したい。


と、いうわけで。

こんなぼくではありますが、
今年も夜露死苦お願いします。



< 今日の言葉 >

遠くからは大きく見える 近づけばそれほどじゃない
からっぽに見えるけど きれいに澄んだ水がある

 (ザ・ハイロウズ/『月光陽光』)


2010/01/01

あけました2010



ことしは、とらどし。

あたしは、はんだし。

はんだしのつもりが、

ぜんぶ、でちゃった。


ことしもよろしくね。



2009/12/22

おとんがきた


うちの父は、愛人と暮らしている。

ぼくが中学生のころくらいからだろうか。
おとんはほとんど家にいなくて、
母子家庭のような生活がずうっと続いていた。

おとんと話すとき。
どこかよその「おじさん」と話しているような気がする。
というより、
知らないおじさんと話しているような感じでないと、
話しづらい。

あまり深い話をしたこともないので、
おとんのことは、知っているようであまり知らない。

ぼくにとって、
おとんは、謎の多いおっさんだ。



中学生のころ。
修学旅行から帰ったとき、
たまたま家にきていたおとんが大きな荷物を見て、

「おう、なんや。いまからどっか行くんか?」

と、のんきなことを言ったりしていた。


そんなおとんも、いまでは愛人と暮らすための家を建て、
すっかり別の家庭の人のような感じになった。


おかんの生活費として、
月に1度、「家庭」にお金を持ってくる。
そんなとき、偶然おとんと会えるときがある。
年に1度か、それとも2度か。
まったく会わないで終わる年もある。

今年は初めて、
お盆に坊さんがお経を上げるのを聞いてみたのだけれど。
そのとき、今年初めてのおとんと会った。

そして今回。
今年2度目のおとんに会った。

灰色のスラックスにガラのシャツを着て。
上に、白いシャカシャカジャンパーを羽織って。
ハンチング帽をかぶったそのいでたちは、
まるで競馬の予想屋のようだった。


久々に会ったおとんは、開口一番、

「なんや、その頭ぁ? 鶴瓶みたいやな」

と、たのしげに笑った。

ずいぶん前(ぼくが小学生だったころ)、
おとんはずうっとパンチパーマだった。

ちりちり頭を笑えた立場じゃないのだけれど。
たしかに、夏よりもかなり大きくなったし、
ピンク色のパイル地のズボン(若干フレア)に
グレーのモワモワジャケットを羽織った姿は、
自分でも笑えるときがある。

ちなみにパンチパーマ時代のおとんは、
喜平(きへい)の金色ネックレスに、同じく金色のブレスレット。
関西弁を操りながら、平日の運動会に現れたおとんを見て、
クラスメイトたちが、

「お父さんってやくざ?」

と、素朴な疑問をぶつけてきた。
さらには先生までもが、

「・・・お父さん、何の仕事してらっしゃるの?」

と、遠慮がちに聞いてきたものだ。



さて。

ケンカ上等、ナンパが日常。
学生時代、大阪ミナミの、戎橋(えびすばし)を拠点に
御堂筋を練り歩いていたおとんだけれど。

「おとん」になってからのおとんも、自由奔放な人だった。

短気で、いらち(せっかち)で、思い立ったら即実行。
ぼくは、おとんが怖かった。
怒鳴られたり、殴られたり、家を放り出されたり。
ずいぶん怖い思いをした。

だから、おとんが帰ってくると、自室に逃げ込んだ。

階下からは、おかんを罵倒する声が聞こえる。
何かが割れる音が聞こえる。
しんと静まり返った夜。
階下に降りると、おかんが台所で泣いている。
リンゴの皮をむきながら。

「リンゴ、食べる?」

赤い目をしたおかんが、リンゴを皿に盛る。
そんなリンゴは、おいしくない。

ぼくはリンゴよりもナシが好きだ。



ただ、おとんは遊ぶのがうまかった。

スポーツが得意だと自負するだけあって、
体力のある人だった。
体もいかつい。
格闘技も空手、ボクシング、柔道などなど、
いろいろと「かじって」いたらしい。

裏を返すと、専門的に掘り下げた分野がない、ということだ。

木登りやバック転、手裏剣投げにはじまり、
パンチの出し方やかわし方、
パチンコやチンチロリン、花札なども教わった。


おとんは、行列に割り込むのもうまかった。

「にいちゃん、かんにんな。アメちゃんやろか?」

と、笑顔で割り込むおとんを見て、
割り込まれた側も、苦笑いで「許して」(あきらめて?)しまう。

絵を描くのがうまかったおとんに、
ウルトラマンの怪獣を描いてもらったりもした。

いいことも、わるいこと。
いろいろ教えてくれた気がする。


大阪の、おとんの実家で古いアルバムを見せられて。
若かりし日のおとんが、知らない女の人と写る写真があった。
枯れ木ばかりが林立する寒そうな山を背景にして、
おとんと女の人が映っていた。
足元に、見たことのない種類のイヌが鎖につながれていた。

「これって、なに犬(けん)?」

「ああ? それか。それは、クマや」

あっさりとそう答えるおとんに。
子供ながらにビビった記憶がある。

その写真は、おとんが北海道に暮らしていたときのものだった。
とはいえ、クマを飼うなんて。
しかもイヌみたいな感じで首輪をはめて、
鎖につないで飼うなんて。

「育てとったら、えらい大きなってな。
 怖なって、山に返した」

もう、めちゃくちゃである。


日曜などの休日。
おとんは、ぼくを連れて繁華街に出かけた。
小学生のぼくは、
ややガラの悪い界隈(かいわい)の映画館に置きざられる。
ぼくの手に千円札を握らせ、

「迎いにくるまで待っときや」

と、おとんはひとり、どこかへ消えていく。

当時、映画館は入替制ではなかったので、
観ようと思えば、ずうっと観ていられた。

ガラの悪い界隈の、場末の映画館。

ババアがキップを売って、
同じババアがキップをもぎって、
同じババアがポップコーンを売る。
掃除をするのもそのババアだ。

ロビーには、『のび太の恐竜』などのポスターを覆い隠すかのような勢いで、
『痴漢電車』『淫乱女教師調教』などのエロ映画のポスターが張り巡らされていた。
おどろおどろしい、朱色の筆文字で書かれたタイトルと、
悶絶(もんぜつ)する女体。

そのせいか、
SMや痴漢など、企画ものの映画は、
何だが怖いものとして位置づけられている。


ちなみに。

野球、水泳、
ギャンブル、ケンカなど。
おとんが教えてくれたせいで嫌いになったものも、
いくつかある。


薄暗い映画館で上映されるアニメ映画。

早く迎えにきてくれないと、
エロい映画がはじまってしまう。

そんな心配をしながらも、
ドラえもんやのび太の大活劇を観ていた。


映画が終わると、
おとんが迎えにきて喫茶店に行く。

センター分けの、70年代風の、きれいな女性。
その女性がおとんの愛人だということは、
ガキのぼくにもひと目で分かった。


小料理屋の、
日本髪を結った女将。

焼肉屋の、おしゃべりな女性。

おとんが連れて行ってくれる店は、
おそらく愛人の店が多かったのだと思う。


まったく。
こまったおっさんだ。

本当に、おとんからはいろいろ教わった。
いいことも、わるいことも。
反面教師として学んだこともたくさんある。


ものすごく怖かったおとんも、
いまではたまに会う、
説教好きのおっさんのような感じだ。


そんなおとんは、
今回、イヌを連れていた。
毛の長い、小型犬だ。
車のなかに待たせていたらしく、
家を出るとき、玄関先でおかんに見せていた。

マルチーズらしきその小型犬には、
赤白ボーダーのニットが着せられている。

ぼくは、柴犬のような素朴なイヌが好きだし、
イヌに洋服を着せることもしない。

何から何までぼくの好みとは真逆のイヌを抱き、
うれしそうに顔をほころばせるおとん。
すっかり「おじいちゃん」だ。

すっかりイヌに魅了されたおかんが、
そのイヌの名前を聞いた。

「この子か? ベッキーや」

「ベッキー?」

「ベッキーちゃん。男の子やけどな」



・・・やっぱりおとんは、謎である。



< 今日の言葉 >

 ピチピチの スイーツ系女子高生

(生徒が聞いたという、女性専用車両に乗り込んできた男が連呼していた言葉)

2009/12/17

幻影


古いノートを読み返していたら、
こんな文章に目がとまった。
たぶん、書きかけた小説のネタか何かだと思う。


(以下、ノートの書き写し)


12月。
雪山へUFOを見に行く。
「彼」を含めた4名(彼、男、男、女)のパーティで。
「彼」は唯一の登山経験者で、
その経験と知識を買われて誘われた。

UFOの「秘密」を守るため、
この計画は誰にも話していない。
無許可(または偽名)で入山。
ひと気のない古びたバンガローで、各人が落ち合う。

火にあたりながら、UFOの話をする4人。
そのなかのひとり(男)が、「彼」の自尊心を傷つけた。
皆にバカにされたと思う「彼」。
「彼」が好意を寄せる彼女(女)も笑っている。

吹雪。奥深い山。
必死に山頂を目指す4名。

「彼」を真っ先に笑った男が窮地(きゅうち)に立たされたとき、
命運を握る「彼」が、
“ 思わず ” ザイル(登山用ロープ)を放してしまう。

先頭にいた人物(男)に、“ 故意 ” だということを
“ 悟られた ”ような思いに苛まれる。

一命を取り留めた4名。
雪深いなかでビバーク(不時泊。緊急時のやむをえない停泊)をする。

何とかして助かりたい。
そう思った「彼」は、
ひとり、ザイルを足に結わえつけて辺りの様子をうかがった。
吹雪のなかをむやみに歩き回ることは危険だと、
登山経験豊富な「彼」は重々承知のはずだったが。
疑心暗鬼もあってか、「彼」は、すっかり平常心を失っていた。


と、「彼」の目に、
3つの人影が近づいてくるのが見えた。


再び吹雪きはじめた視界は、古ぼけた映画のように、
うっすらとした陰影がおぼろげに見えるだけ。


夢中で影を突き飛ばす。
悪霊でも追い払うように。


3つの影が、音もなく消えた。


雪深い、斜面の先。
目の前には、うす黒い渓谷だけが広がっていた。



ひとり、下山した「彼」は、
幾日か経ったある日、
こんな記述を読んだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

発見された死体。
3体。

女の遺体は、雪に埋もれていたせいか、
腐敗の進行が遅く、大きな損傷もなかった。

生活反応のある傷が、
左肩と右足首脱臼だったことから、
死因は凍死と判断。

男の遺体、2体のうち1体は、
損傷が激しく、見た目に身元を判別するのも難しいほどだった。
陽の当たる場所にあったせいで腐敗も激しく、
そのうえ、おそらく冬眠あけであろう、空腹のクマらしき動物の餌食となっており、
頭蓋骨が砕かれ、内蔵もほとんど残っていない状態だった。

もう一方の、男の遺体は、
少し離れた谷の中ほどで発見された。
死因は頸部(けいぶ)の打撲によるものだった。
生活反応のない、死後の傷からは、
何ら不自然な様子も見られず、
転落の際に負った傷跡だと判定。
それにより、ほぼ即死状態だったと判断。

岩壁に突き出た岩に頸部を打ちつけ絶命、
そののち、岩にぶつかりながら谷まで転げ落ちたと推測。

こちらの身元は、
歯科の記録と親族によって明らかになった。

前者2名は、生存者からの供述で招かれた親族によって、
「本人」との確認がなされた(通院のカルテなし、病歴なし)。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「彼」は思った。

例の「3体」も。
雪どけの川に流されたか、
それとも空腹のクマが運び去ったか。
永久凍土のマンモスのように、
いまも静かに眠りつづけているのか。

3人の遺体は、
いまだ発見されず、
どれも「行方不明」のままだ。


ひょっとしたら、生きているのかもしれない。


毎晩のように、
「彼」は、同じ夢に悩まされる。

3人と、3つの影。
手を放す映像。フラッシュバック。


「違うんだ、わざとじゃないんだ」


「彼」はおびえる。
日々、おびえて暮らす。

3つの影。3人の影。
そして、目の粗い、ヒモ状の手ざわりにザイルを思い出す。


「違う、あれはわざとじゃない」


繰り返し「彼」は言う。
自分に言い聞かせるようにして。

見えない「影」におびえながら。
「彼」は “ 平穏な ” 日常を生き続けている。

たとえ目を閉じても、眠っても。
その影が消えることは、決してない。


(以上、ノートの抜粋)



さて。

そんなぼくが最近見た夢は、
SMAP(スマップ)の一員になって、ステージに立つ夢だ。

6人目のSMAPとして(正確には7人目か)、
ステージのソデでスタンバイするぼく。
今回のステージが、SMAPとしてのぼくの初舞台でもある。

ほかのメンバーに比べて“ 若干 ”見劣りする自分を気にして、
ややナーバスになっている。
緊張が半端じゃない。
硬直する姿を見て、
木村(拓哉)くんがぼくの肩をポンと叩いた。

「大丈夫だって」

力強い、木村くんの手が、ぼくの肩をつかむ。

ステージの向こうからは、大声援が聞こえてくる。

白い歯をのぞかせて、ひとつうなずく木村くん。
ぼくは、少し表情をゆるめて、大きくうなずき返した。

「よし行くぞ!」

円陣を組んで、掛声をかけると、
音楽が鳴り響いてステージに向かって走り出した。

まぶしい光と声援。


ぼくは、そこで目を覚ました。



・・・・なんじゃこりゃ。

起きたとき、
少しバカバカしく思って、ふっと笑って、
そのあと少し、恥ずかしくなった。

そして思った。
やっぱり木村くんは、かっこいいな、と。



< 今日の言葉 >

「同情するなら金をくれ」        (家なき子)

「お金なんかより、やさしさをください」 (家のある子)