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2021/10/23

家原美術館2021 〜会場記録・其の3〜

 







家原美術館2021、

会場記録・其の3。



蔵の2階で格好つけて

撮った写真からはじまる今回は、

「掃除・準備編」となる予定です。


展覧会場の風景は、






をご覧になられたら

よろしいかと思われますので。



駆け足ではありますが、

会場下ごしらえの風景を

どうぞご堪能ください。




























1階から2階へと延ばした電源コード













もともと「蔵」である空間を、

「ギャラリー」としての

展示空間に改装すること。



築80年(皇紀二千六百年=昭和15年上棟)の蔵には、

薄暗い白熱灯が1階に2灯、

2階に1灯、あるのみだった。


電源用のコンセントもない。



ということで、

まずは「電源」をつくることから始まった。



蔵入口付近のコンセントから

コードを延ばし、

蔵の1階・2階へと電源を供給。



1階には天井からスポットライトを、

2階は、棚の上の壁面に、

コンセントタップを設置する。


(「配線」に関しては、
 電気工事士の資格がないので、
 自分は「配線以外の作業」を受け持った)



いわゆる「改装」として

手を入れすぎることは、

自分としては好ましく思わない。


なるべく「オリジナル」の状態を損なわないよう、

最低限のたし算で、目的を果たしたい。



ちょうどいい匙(さじ)加減。



いちばん大切なのは、

「掃除」をすることだ。



何より簡単で、

何より大切な準備、

掃除。



それは、

おもてなしの

礼儀でもある。





箒(ほうき)でほこりを払い、

ごみを集め、窓を開けて換気をする。



仕上げに使うのは、

ぞうきんとバケツ。


洗剤などは使わない、

体を使っての水拭きだ。




初見のとき、

蔵に入って感じた暗さと汚れ。


掃除前の下見で、

半日ほど蔵ですごした靴下は、

足の裏が、もう履けないほど真っ黒に汚れた。



そして「匂い」。



ほこり臭さと汚れの上に散布された

消臭スプレーの、薬品的な匂い。



これがなかなかやっかいな代物。



目に見えない「匂い」という皮膜をはぎ取るため、

通常よりも2、3回よぶんに

水拭きをしなくてはいけないこともある。




目と鼻と手のひら、

足の裏の感覚。


そしてぞうきんとバケツの水が、

掃除の完了を教えてくれる。



「視覚的に、裸足で歩きたくなる質感」


それよりもっと上。


「床の上に、

 にぎりたての寿司を置かれても、

 何の躊躇(ちゅうちょ)もなく

 手にとって口に運べるくらい」



それを目指して、

ひたすらぞうきんがけを繰り返す。




汗なのか水しぶきなのか。

床に落ちる滴(しずく)が、

木目に花を咲かせる。



薄暗い蔵の中。



かつて読んだ

江戸川乱歩先生の小説や、

楳図かずお先生の

恐怖漫画の世界を思い描きながら。


掃除を終えるまで

ここから出られない刑という妄想に

心を遊ばせる。





最初の1ヶ月、

幽閉された」6月の日々。


午前中から夕方まで、

1日6時間ほど。


蔵の掃除に

約10日間を要した。























































































































* *




床、壁、天井、柱。

手がとどく範囲は全部拭いた。


3尺脚立の上から見る景色は、

床がはるかに遠く、

天井の梁(はり)や

筋交(すじかい)なども見下ろせる。



何年、何十年、

ゆっくりと堆積した塵芥(ちりあくた)。


マスクをしていても苦しいほどのほこりを、

箒(ほうき)で払い落とし、

きれいになるまで水拭きをする。



上から下、

天井から壁、棚、床へと

拭き進む。



「すきすきすきすきすきっすき」



水拭き掃除をするときいつも流れる、

『一休さん』のテーマ曲。



床の分厚い杉板は、

まさしくお寺か城のようだ。




最初はどす黒く、

漆黒の闇のような色をしていたバケツの水も、

やがて薄黒いねずみ色に変わり、

ぞうきんがぼろぼろになるころには、

透明感のある水へと変わっていった。



そんなころには、

手指の指紋がつるつるになり、

物が、つかみにくくなる。




6回目の、

水拭きを終えたころ。



空気も、色も、触感も。

清潔な色に染まった。



掃除を終えた蔵の2階、

試しに照明を入れてみる。



2階の照明に選んだのは、

ホームセンターなどで売っている、

現場用ライトだ。



本番は、

クリアの白熱球を入れて、

光の筋を四方に走らせたい。




2階の照明、点灯。



空間が、黄金色に輝く。



これは、

掃除をしなければ

出せない色だ。



木目が、木肌が、空気が、色が。

全部がいきいき、目を覚ました。



80歳のおじいさんが、

むきむきの若者によみがえった。

そんな感じだった。



匂いも消えて、

木の香りがほのかに漂う。




そこからようやく「飾り」に入る。

絵を飾るための「背景づくり」の工程。



蔵に置かれていたものを拭き清め、

片づける(しまう)だけでなく、

きれいに並べることで、

蔵だということを感じてもらいたかった。



蔵の半分の棚は、何も置かず、

その骨組みの造形美と連続性を見せて、

半分には色調を統一させつつ、

蔵にあった品々をリズムよく並べた。



単なる背景にとどまらず、

アイロン、そろばん、トースターなど、

古めかしい道具類などを並べることで、

博物的なたのしみ方もできるようにした。




























































蔵1階。

今回、お客さまが踏み入らない部分、

1階の「物置き部分」は拭かずにおいた。



古物好きの人の言葉、

「オリジナルの部分も残しておくべき」。


そういう意図こそなかったが、

自分の中での境界線をつくって、

その範囲の内側はほぼ完璧に

ぞうきんでぴかぴかに拭いた。







































































































* * *





















今回、蔵以外の部分は、

それほど大々的な掃除はしていない。


とはいえ、

おめかししてこられるお客さまが

気持ちよくすごしていただけるよう、

最低限の水拭きだけは

こっそり行なった。




「おみやげコーナー」の廊下、

天井部分の桟(さんに)積もったほこりは、

やや長身のぼくには、

どうしても目に入る。



見ちゃったら、

放っておけないわけで。



汚れて色の鈍い空間も、

ほんのひと拭き、

ふた拭きするだけで、

艶やかな光を取り戻す。


そこでようやく、

照明追加。


廊下がきらびやかに

輝きおどる。




玄関からつづく窓。


碁盤の目状に走る、

窓の桟。


背丈ほどの位置、

壁に埋まった桟の上。



さらには茶室の畳、

天井、窓の桟。



色を失い、灰色だった空間に、

紅を差すような感じで

水拭きを施す。



建物が笑っている。


錯覚かもしれない。


けれどもそんなふうに感じる。



水拭きを終えたあとの建物は、

たしかによろこんでいるような、

やわらかな表情に包まれている。










































































洋室の床掃除をしていて。


ゴシックな装飾のせいか、

シンデレラの気持ちになった。



いじわるな継母(ままはは)も

義姉たちもここにはおりませんが。



8月31日、

日の傾きかけた洋室の床で。

ひげのシンデレラは、

ひとり、唇を噛みしめるのでした。



ぞうきんがけのきっかけで、

部屋のすみからおどり出てきた

黄金虫。



けっして動かず、

もう何年も、

もしかすると何十年前から

そこに横たわっていた黄金虫。



その黄金虫が

エメラルド色の王子の姿に戻って、

虹の宮殿に連れて行ってくれる

そのときを夢見て。



ひげのシンデレラは、

ぞうきんを片手に

軽やかなステップを踏むのでありました。






* * * *



























































さてさて。



今回お送りしました、

家原美術館2021

〜会場記録・其の3〜。


そろそろお別れのときが

迫ってまいりました。



今回もたくさんの方々に

ご来場いただき、

たくさんの感想をいただきました。



それは本当にありがたいことで、

本当にうれしいかぎりであります。



どれもが珠玉で、

枚挙にいとまはありませんが。



終幕の代わりに、

「お名前書いて帳」の1頁から

ひとつ、転載させていただきます。








す。た。
す。
た。
た。

10/2


(原文ママ)





最終日の夜、

これを読んで、

いろんなものがあふれ出た。




やるからには全力で、と

挑んだ家原美術館2021。



この言葉に。



とてつもなく大きな

ご褒美をもらった気がする。





そしてまぶたの裏には、

カボチャの馬車が

浮かんでゆれるのでありました。




世界と宇宙のみなみなさま、

このたびは本当に

ありがとうございました。




次回、

オーパンバルの舞踏会で

お会いする、そのときまで。




ここではない別の場所で、

また、遊びましょう。




ごきげんよう!






「ひみつ」(2018年)




家原美術館副館長/家原舞羅吼璃珠斗利明


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< 今日の言葉 >


『やってみせて 言って聞かせて やらせてみて
 ほめてやらねば 人は動かじ』

(山本五十六の言葉)