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2008/11/26

30代の文化祭




「路上のミスアメリカ」(2008)





学生のころは、
文化祭へ積極的に
参加したことがなかった。

行ったとしても、
ただただ友人たちと
ぶざけたり雑談したりして、
本来の「催し」とは
別の時間を過ごしていた。


学生ではなくなった今。

学生主催の文化祭に、
講師として参加した。

去年も同じように
参加したのだけれど。

今にして思えば、
講師である友人といっしょに
回ったせいもあり、
終始「講師として」参加して
いたように思う。

今年は何も気にせず、
勝手気ままに「参加」した。

これほどまでに
文化祭が楽しく思えたのは、
今回が初めてかもしれない。


生徒が出店する模擬店。
普段、授業で使っている場所が、
いろいろな音や匂いに囲まれて、
まさに「おまつり」といった顔つきになる。

似顔絵つきの綿菓子。

キムチを挟んだチヂミ。

フライドポテトと
クリスピーなチキン。

木工や雑貨学科の手製の小物。

ポストカードの販売や、
ライブペインティングなどもあった。

びっくりするほど
おいしいチャイもあった。

完成度の高いものもあれば、
そうでないものもある。

それでも。

どれもが「いいもの」ばかりで、
「わるいもの」はひとつも
なかったように思う。


たこ焼きを挟んだ「たこせん」。

懸命に焼いている生徒たちの前に、
突如、天使が舞い降りた。
たこ焼きの天使だ。

彼女は、
土曜日担当の
掃除のおばちゃんで、
慣れない手つきで
たこ焼きを焼く姿を見るに見かねて、
生徒たちに「レクチャー」しはじめた。

何でも、おばちゃんは
「たこ焼き経験者」らしく、
的確なアドバイスで指導してくれた。

ふらりと現れ、ふらりと消えて。

軽のワゴン車で
走り去った彼女はまさに、
「街のエンジェル」だった。


ビンゴ大会では、
自分の受け持つクラスの
男子生徒といっしょにいた。

知らぬ間に、
いろんなことをみんな忘れて、
どうしようもなく下品な話をしていた。

横にいた女子生徒に
ぱしん、と太ももを叩かれるまで、
「女子」がいることも、
ここが「学校」だということも、
すっかり忘れてしまっていた。

彼女が「話の分かる生徒」
だったからよかったものの。

このせちがらいご時世では、
一歩間違えれば
「セクシャルな問題」として
叩かれるところだ。

叩かれたのが太ももだけで
本当によかった。


おもしろ写真を撮って、
見て、笑ってくれる
「ばかな」生徒たち。

自分の周りに「ばか」を
やってくれる存在がいることは、
しあわせなことだ。


アルコールなどを交えない、
ナチュラルなパワー。


こういう「無駄な」エネルギーは、
一度失ってしまうと、
なかなか取り戻せないものの
ひとつかもしれない。


そんな「無駄な」時間が、
とてもいとおしくて、
ひどく心地いい。


模擬店で食べた、
150円のパフェ。

見た目も、味も、
おもちゃみたいなパフェだった。

甘いコーンフレークに
缶詰フルーツを敷いて、
ホイップ生クリームを絞り出す。

その上に、チョコレート
またはストロベリーソースをかけて、
カラフルなスプレーチョコをトッピング。

最後にチョコポッキー2本と
ウエハースを突き立てて、
パフェの完成。

これが、紙コップみたいな
透明のカップに入って、
白いプラスチックの
スプーンまで付いてくる。

しかも、ワンドリンク付。

チョコレート味の
パフェを選んだ僕は、
フルーツを断って、

「代わりにホイップクリームを
 多めにしてください」

などと、
うっとうしいことを言って、
さらにはドリンクを断り、
途中で生クリームを「お代わり」した。

まったく、たちの悪い客だ。

とにかく、このパフェ。


「くそうまかった」


あえてそう表現したい。

本当に「くそうまかった」
のだから仕方ない。

世界中、どこの店を回っても、
この「パフェ」は食べられない。

彼ら、生徒たちが
考えに考えた結果、
生まれた「パフェ」なのだから。

やっぱり、フルーツを断らず、
彼らの感性に任せたパフェを
食べるべきだったと、
あとにして思ったが。

まさに「後の祭り」だ。


集客、品質、価格、
準備や陳列、満足度・・・。

模擬店は、
これから出て行く社会の、
商業の縮図(略図?)だったりする。


閉店時間を迎えて。
すれ違う生徒に、

「儲かった?」

などと「大人ぶった」ことを
聞いてみたりもしたけれど。

本当はそんなこと、
どうでもよかった。


採算、利益、成果。

そんなことを考える前に、
ただ、やる。

それが「生徒」の
「いい」部分だろう。

「生徒」じゃなくなると、
自然と、そんなわけにもいかなくなる。


「生徒」を卒業しても、
「いいもの」だけをつくっていけたら。
そんな「社会」になれば、もっといいのに。


最後に。

文化祭が終わって、
校舎前に立っていると、
遠くから、派手な格好をした
異様な人物がやってきた。

近づいてくるにつれ、
その姿が明確になる。

街灯に照らされた、
桃色の人物。

「あ・・・ミスアメリカだ!」

彼(彼女?)は、
生徒から噂で聞いていた
「コスプレのひと」だった。

「若い」世代の生徒が言うには、

『顔はアニメっぽい
 お面をつけてて、
 体がぴたっとした
 全身タイツの、
 女みたいな男』

ということだったのだが。

昭和を生きてきた僕には、
一目見てそれが
『バトルフィーバーJ』の
『ミス・アメリカ』だと判った。


どうしてもいっしょに
写真を撮りたくなった僕は、
彼(または彼女)に近づこうと試みた。

すると、
『ミス・アメリカ』は、
ブロンドヘアをなびかせながら
(もちろん表情は変えず)、
くるりとターンして、
早足に角を折れて去っていった。

文化祭ではしゃいで、
パーティ用のアフロカツラを
かぶっているように見える、
チリチリヘアーの男。

そんな男が駆け寄ってきたら、
相手がミス・アメリカでなく、
バトル・コサックでも、
きっと逃げたに違いない。


ごめんね、ミス・アメリカ。







< 今日の言葉 >

全身恥部 全身恥部
体の一部が恥部じゃない
私は全身恥部なんだ

(『歩くチブ』/ザ・クロマニヨンズ)