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2009/05/14

ブラックライトとボインと水道管ゲーム



「私には星がついている」(2009)



高校3年のころ。

友人と2人、受験戦争からはみだした僕らは、
ほとんど毎日のように遊んでいた。

ボロボロの車に乗って遊んだり、
誰かの家に行って晩ごはんをごちそうになったり。

金はない代わりに、時間だけが腐るほどある。
連日、真っ暗になるまで遊びほうけた。


そんな「遊び」のひとつに、
「水道管ゲーム」があった。


正式な名前は『ウォーター・ワークス』。

アメリカ生まれのカードゲームで、
カードに描かれた水道管をつないでいくというものだ。

1枚目の「蛇口カード」から始まり、
プレイヤーが2人なら15枚以上、
3人なら12枚以上・・・という具合に、
決められた枚数の「パイプカード」をつないでいく。

手持ちのカードは5枚。

カードを出したら、
『UNO』やトランプの要領で、
順番に山から引いていく。

「水漏れパイプカード」で他のプレイヤーを妨害したり、
水漏れしていないパイプが描かれたカードで修復したり、
各自2個ずつ配られた「レンチ」で修復したり。

「L字」や「T字」のパイプで方向転換したりしながら、
「排水口カード」までどんどんパイプをつないでいく。

パイプは、「鉛パイプカード」の他に、
決して壊されない「銅パイプカード」がある。


・・・ざっと、そんな感じのカードゲームなのだが。

僕らは、このゲームで盛り上がった。

新しい遊びも、しばらくすると物足りなくなる。
それは、「遊び」の内容のせいだけではない。

2人というメンツは、
バランスがいい代わりに、
うまく「まとまりすぎる」場合がある。

卒業後の進路を(安易に)決めたあとの僕らは、
ほぼ毎日、顔を突き合わせていたせいで、
ときどき「新しいメンツ」が恋しくもなった。


そんなこんなで。


カードゲームの刺激にも飽きはじめた僕らは、
もてあましたヒマな時間を「有意義に」過ごすため、
バカな頭で思案した。


いったいどういう経緯で、
どうやってその「結論」に至ったのか。
いまやまったく不明としかいいようがないのだが。


学校帰り。

同級生のF子を誘って、
3人でこの「水道管ゲーム」を
やろうという話になった。

F子は、僕ら2人の共通の友だちで、
性格も気だてもいい、よく笑う女の子だ。

そしてF子は、
ものすごく「ボイン」なのだ。

F子の家は、女ばかりの3姉妹。
姉さん2人も、みんな「ボイン」だ。

聞くところによると、お母さんもボインらしい。

地震がくると、他の家より8倍ゆれるのではないか。
それほど巨乳ちゃんぞろいの、ボイン一家だ。

かくいう僕は、それほどボイン好きではない。
けれど、F子のおっぱいを、
一度、揉ませてもらったことがある。

もちろん2人っきりではなく、
他の女子らの立ち会いの下でだ。

制服ごし、手にあまるほど
たわわな胸を触らせてもらって。
あまりに見事な豊乳に、思わず言葉を失ったほどだ。

まるで、やわらかなスイカだった。


余談だが。

当時、それほどのサイズの
ブラジャーを買える店は少なく、
他県に住む彼女のおばあちゃんが
送ってきてくれるとの話だった。

どうやらおばあちゃんも、
かつてはボインだったらしい。


F子を交えての「水道管ゲーム」。

ヒマでバカな僕ら2人は、
彼女を家に招いてゲームを始めた。


そして。


いかにもゲームを「盛り上げる」提案でも
するように、こう切り出した。


「こうしよう。
 俺らが負けたらちんちん見せるから。
 もしF子が負けたら、おっぱい見せてよ」


当然、F子は難色を示した。

当たり前だ。


そんなもの、交換条件として
まったく成立していない上に、
何ひとつ、メリットがない。

それでもバカな2人は、ねばってみた。


F子は少し考えながら、ぽつりとこぼした。


「だって、ルール分かんないもん」


そこかよっ、と突っ込みそうになりつつも。

とりあえずルールの説明がてら、
やってみようという運びになった。


練習の一番。

僕らは少し「手心」を加えながら、
ゲームの流れとルールを説明した。


「ルール分かった?」

「だいたい分かった」

「じゃあ、本番ね」


と、友人が強気な感じで宣言して。
いきなりカードを配り出した。

いざ、本番。

流れに乗せられたF子とともに、
何となくそのままゲームが始まった。


いじる側といじられる側。


それは、もうずうっと前から決まっている。
どう転んでも、2対1の図式に変わりはない。

「僕ら」は暗黙の了解で、F子を集中攻撃した。
ときにはルールをねじ曲げ、拡大解釈して。

「僕ら」にだけ有利なように、
口八丁手八丁でゲームを進めた。


F子は、本当によく笑う。

不利なゲーム展開に困惑しながらも、
屈託なく笑っていた。

その姿がおもしろくて、
僕は、言葉巧みにルールをねじ曲げた。


当然の結果、F子が負けた。
あきらかに大敗だった。


僕らの妨害によって曲げられたパイプの進路は、
あらぬ方向へと何枚も伸びて、
まるで「終点(排水口)」につながる
気配はなかった。


「約束だぞ、F子。おっぱい見せろよ」


楽しげに言い放つ友人。僕もそれに乗っかった。


「俺らもちんちん賭けたんだから、おっぱいだぞ」

「えー、そんなー」


とF子。

いかにも本気で嫌がっているのが、
またおもしろい。


「早く見せろって」


友人の、
やや追い込むような催促に対して、
F子が答える。


「だって、明るいもん・・・」


そこかよっ、と、
またもや突っ込みたくなる返答に、
僕はふと思い立った。


「ブラックライトにしたら、いいってこと?」


部屋を明々と照らす白熱灯に視線が集まる。


「そんなライト、ないでしょ」


F子の答えを聞いて、友人が食いつく。


「じゃあ、ブラックライトだったら見せれるのか?」

「ブラックライトだったらね」


まさかブラックライトが本当に出てくるとは。
F子自身、思っていなかったのだろう。

軽い、目配せのような視線を送られた僕は、
箱の中からブラックライトを取り出し、
F子の前に差し出した。

それは、以前、遊びで買ったものだった。


「ブラックライトって何? どんなライト?」

いまさらながら、F子が言った。


クラブだのお化け屋敷だのと説明しても伝わらないので、
白熱灯を外して、実際に点けてみせた。

ここまでくると、もう、
何が何だか分からなくなっていた。

それでも友人は、どんどん先へとコマを進めていく。


「な? これならいいだろ?」


ブラックライトの怪しい光の下で、
友人の声が勇ましく弾む。


「一瞬だけでいいから。
 一瞬、ぱっとめくるだけで。なぁ?」


同意を求められた僕は、
すでに友人の真意が分からなくなっていた。


「生乳見せろ」「一瞬だけだって」

と繰り返す友人の顔は、
ほの暗い闇に包まれて見えなかったけれど。

彼を動かしているのは、
もはや「笑い」でなく、
「本気(マジ)」のように感じた。


ドSでまっすぐな友人は、
見ると言ったら絶対に見たいのだ。

誰かが「幕」を引かなければ、引っ込みがつかない。

そんな感じがした。


「ブラジャーでいいから。
 一瞬ちらっとだけ。な?」


2人に同意を求めると、
雰囲気を感じたF子がまず「分かった」と答えた。

納得がいかない様子の友人を何とかなだめると、
しぶしぶながら「分かった」と言った。


それでも。


無邪気でバカで強欲な友人は、


「3秒だぞ、3秒。両乳な」


と注文をつけることを忘れない。


そして。

ためらいがちに、F子が制服をまくった。


「早すぎて見えんかった」


と友人が言う。


「もう1回、3秒だぞ、3秒」


もはや大暴走の友人に、「えー」と言いつつも、
F子がもう1度、制服をまくり上げた。
先ほどよりも、ややゆっくりと。

なおも「早い。見えんかったって」と食い下がり、
「俺が数えるからな。いいいいぃーち、
 にーぃいいい・・・さぁああーん」
と、小学生なみの小ずるい浅知恵で
カウントしはじめた。


それは、ほんの1、2秒のことだった。


ブラックライトに浮かぶ、ふたつのおっぱい。


想像以上に大きなボインは、
ほんの数秒、闇に現われ、闇に消えた。


友人は、うれしそうに笑っていた。

なぜかF子も笑っていた。

そして僕らは、腹を抱えて笑った。


僕らが思いっきり笑うと、
F子も口元を手でおおいながら、
楽しげに笑いこけた。


何が何だか分からないけど、
とにかく、笑いが
次から次へとこみ上げてきた。


何がどうしてこんなことになったのか。

僕ら2人とF子の白い歯が、
ブラックライトの光に反射して、青白く浮かぶ。

それはまるで、
つい先ほど目にしたF子のブラジャーのように、
くっきりと闇に浮かんでいた。

遅れて僕は、ずっと前に
F子が言っていたことを思い出した。


「大きいせいで、可愛い形のブラがない。
 色もほとんど白しかないし」


白は、ブラックライトの闇に、よく映える。

ラッキーなのか、アンラッキーなのか。
F子の水玉模様のブラジャーは、
まぶしいくらいに青白く光る、白だった。


・・・まったく何をしてるのか。


それでも僕らは、
ずっとF子と仲良しだったから、
奇妙なものだ。



< 今日の言葉 >


『イメージとコントロールが
 イコールになった』

(イエハラ・ノーツ/2009,Apr)