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2012/09/26

家原美術館だより #3



さて。


今回の《家原美術館だより》は、

《家原美術館》の会場風景をお伝えします。


「和室1」「和室2」「2階洋室」

「蔵」「茶室」と、

5室の展示室のうちから、まず、

「和室1」ご紹介いたしましょう。



和室1では、

油絵や色鉛筆の絵など、

これまでに描いた絵画をはじめ、

木やポリプロピレン、陶器などの

彫刻作品を展示しました。




さらには、普段着ている「ガラシャツ」も展示しました。

ガラシャツが、運動会の「万国旗」みたいに

会場をにぎわせてくれたら。

そう思って展示しました。





 和室1は、10畳と13畳の2部屋。こちらは10畳の間で、
右手の廊下は、和室2・玄関のほうへとつづきます。

油絵、アクリル画、クレヨン画、色鉛筆画のほかに、
『赤い記憶』という作品の制作アルバムと、そのときの制作/滞在日記も置きました。

部屋をぐるりと囲んだガラシャツ。
その奥には「蔵」へとつづく中庭があります。



床の間にちらりとのぞく《光の魔法》。
その両脇を飾るようにして、《すかした人》《お下げ髪の女の子》を置きました。

ガラシャツにまみれて、
《ぼくのヒーロー》《植物の怪獣》があります。




ガラシャツの向こうは、13畳の間。
そちらにコレクションが展示してあります。
光に透けるガラシャツや、
フローティング・ボールペンが、すごくきれいです。















































































































































和室1には、

これまでに収集したコレクションの数々も

あわせて展示しました。


観光地で買い集めた『記念メダル』。

観光地でさがした『つめきり』。

観光地で見つけた『フローティング・ボールペン』。

観光地で出会った『キーホルダー』。

そして、

遊園地の思い出の『フリーパス』。



これらのコレクションを展示するために、

今回は、展示用のケース(箱)をつくりました。


持ち運びもできる、

開閉式の「コレクション展示用器具」。


イメージは、

試験管立てや昆虫標本、実験器具の箱など、

学校の理科室の備品です。






和室1の13畳。障子(しょうじ)を開け放った縁側からは、
庭の緑が視界いっぱいに降りそそいできます。



















『家原コレクション』展示コーナー。
夏休みの自由研究を発表するような気持ちでした。


『フローティング・ボールペン展示器具』。フローティング・ボールペンとは、
観光地などで売っているデンマーク製のボールペンで、持ち手の中の絵が動くあれです。













このケースは、こんなふうにして、「三節棍(さんせつこん)」みたいな感じに
折りたたんで、持ち運ぶことができます。

『キーホルダー展示器具』。国内外の観光地で買い集めたもので、
砂時計シリーズや、ゴールドシリーズ、クリスタルシリーズなどがあります。

『つめきり展示器具』。こちらも国内外の観光地で買ったもの。
富士山、京都、韓国、カナダ、NYなど。観光地のおみやげ感が出ているものが収集の対象です。














『遊園地フリーパス展示器具』。集める意図もなく、いつのまにか集めていました。
「奈良ドリームランド」や「多摩テック」など。いまは閉園してしまったものもあります。



















観光地の「記念メダル」。最近、数えていないですが、
持っている枚数は、たぶん700枚から800枚のあいだだと思います。


















































飾り棚には、

彫刻作品に加えて、

タワーの置物や、

今回の《家原美術館》の名誉館長であるぼくの祖父、

「家原健三郎」氏の肖像が描かれたお皿も

展示させてもらいました。




 























きていただたいたお客さまには、

絵の説明そっちのけで、

ついつい、コレクションの話を厚くしてしまい、

ご迷惑をおかけしたかもしれませんが。


それでも、興味深く眺めていただいたり、

苦笑いしていただいたり、

ため息まじりに、目を丸くしていただいたり。


各人、各様、それぞれの見方で

たのしんでいただけたようなので、

うれしく思っています。




中央、家原美術館限定手ぬぐい《世界宇宙》と、
右手に《ロケットタワー城》。
彫刻作品。左から《黒髪の女性》、《尻尾のない野良犬》、
《モダンガール》、《“いいもん
わるもん》。






左手《頭のなかで音楽が鳴っている》と、
右手(見えにくいですが)《偉大なる大木》。



《曖昧な境界線で色分けされた人》と《一人故郷を見下ろす人工衛星》。







見ていただいたお客さま方、

お話しをさせていただいたお客さま方、

本当に、どうもありがとうございました。



《家原美術館》展示のようすは、引きつづき次回、
《家原美術館だより#4》でお送りいたしますゆえ、
 乞うご期待であります。


◆ 次回は「和室2」と「蔵」をお伝えする予定です。





《家原美術館だより#3


























さてさて。


気になっている人がいらっしゃると、

風のうわさに聞きました。


例の「女の子」。

小学2年の、7歳の女の子のこと。


今回、ようやく「彼女」が登場いたします。



・・・と、そのまえに。



この展覧会で、

会いたかった人、いままで会えずにいた人などに、

いろいろ会うことができました。






いつもお名前だけで、

お顔を見たこともなければ、お会いする機会もなかった人。


ほかの「ものづくり仲間」からも聞いたことのある、

ひとりの男性。


その人は、いろいろな展覧会の「芳名帳」に

お名前を残していらっしゃる方で、

名前をいうと、


「あ、知ってる! その人、名前が書いてあった!」


と、返ってくることもしばしば。

ある意味、「有名な」人だった。



今回、ようやく「その人」にお会いすることができた。



「その人」が入ってこられたとき、

ぼくは、何となく「あの人だ」と思った。


ぐるりと見て回っていただいたあと、

その人に、声をかけてみた。


「よければ、こちらにお名前や、
 メッセージなんかを書いていただけるとうれしいのですが」


その人は、はたと足を止めて、


「名乗るほどの者ではないです」


と、きびすを返した。


けれども、その人は、

ぼくの用意した「お名前書いて帳」に、

さらさらと何か書き残してくれた。


「どうもありがとうございました」


お礼を言って見送る。

その人の姿が消えたあと、

すぐにお名前書いて帳を見に走る。


やっぱり。


いつも名前だけ残してくれていた、その人だった。


これまでの展覧会にいつも来ていただいていたのに、

お顔も姿も見たことがなかったのだけれど。

ようやくにして「その人」と対面することがかなった。


比喩(ひゆ)ではなく。

思わず本当に「ガッツポーズ」というものがこぼれてしまった。




十年以上ぶりに会うことができた人。

広告代理店で働いていたころ、お世話になった人たち。

社長をはじめ、みんなに会えて、うれしかった。




お世話になっている、森料理店ご一家。

お子さんも、ずいぶん大きくなって、

その成長ぶりに時間の流れを感じた。




家具をつくっている友人のお子さまも、

はじめは泣きじゃくっていたけれど、

最後は「ばいばーい」と手をふってくれた。




母の知り合いの、NHKの方。

その人がお花を持って見にきてくれた。


「こんなに立派じゃないけれど。
 うちも古いから、ここはなんだか落ち着くわね


そういって、橦木館とぼくの作品を見て回ってくれた。


きていただいたことを、

母に伝えようと「お名前書いて帳」にメモをした。




現役の学生のひとりが、

お名前書いて帳を書いてくれているとき、

ぼくのメモを見て言った。


「NHK?」


「そう。お母の知り合いの人がきてくれたんだよ」


「あたしのお姉ちゃんもNHKですよ。NHK宮﨑」


「えー、そうなんだ」




そしてそのあと、

以前、スピーカーを買ったときにお世話になった、

YAMAHAミュージックの人がきてくれた。


展示もゆっくりたのしんでいただけて、

最後、お名前書いて帳にメッセージをお願いすると、

お連れの人が、メモを見て言った。


「NHKの人?」


「あ、はい。母の知り合いがきてくれて」


「ぼくも、NHKです。NHK山形」



なんと。


1日にして3人の「NHKつながり」の人にお会いした。


数年間すごしてきて、

集金以外では、まったく会ったことのなかった「NHKの人」。

それなのに、1日で3人が「そろった」。


別にたいしたことでもないのだろうけれど。


「1日で、N、H、K、3人そろちゃった」


頭のかたすみで、

そんなふうに意味のないことを思ったりした。




美容院の店長さんと、

メガネ専門店の店長さん。

そして、その美容院のお店の人と、

そのメガネ屋さんのお店の人。


ある日、美容院とメガネ屋さん、

2人の店長さんが同じ日にきて、

別の日には、そこで働くお店の人、

美容師さんとメガネ屋さんの2人が、同じ日にきた。


別にどうってことない話だけれど。

なんか、不思議な感じがした。




ある日の夕方には、

ぼくの「教え子」でもある、

歴代の卒業生たちが、ぎっしりそろった日があった。


たくさん人がいるにも関わらず、

全員が「卒業生」。

けれど、卒業生どうしは年度がかぶらず、

おたがいの顔は知らなかったりする。


まるで示し合わせたかのように集まった、

各年代の卒業生たち。

そこに、現役の学生が数人加わった。


たくさん人がいるはずなのに、

みんな、「同じ学校」の人ばかり。

なんだか、それも不思議で、おもしろかった。




東京から観光でこられたというお二人。

名古屋をいろいろ回った最終日、

最後の場所が、「文化のみち橦木館」だとおっしゃっていた。


はじめは、どこからきたということも知らず、

絵の説明をしたり、コレクションの「自慢」をしたり、

ゆっくり館内を同伴していたのだけれど。


最後、お名前書いて帳を書いてもらう段階で、

東京からの観光だと、聞いて知った。


「すみません。せっかくの名古屋観光で、
 最後に貴重なお時間使わせてしまって」


そういうぼくに、お二人はこころよく、


「そんなことないです。
 最後にここにきて、偶然見られてよかったです」


と、言ってくださった。


言葉どおり、心からたのしんでいただいたようすだったので、

1日限定10名様にお渡ししていた

家原美術館限定手ぬぐいを、お二人に渡した。


「名古屋のいいおみやげができました」


お二人とも、すごくよろこんでくれたので、

ぼくもすごくうれしかった。




神奈川から、観光できたというお二人。

写真を撮るのが好きなようすだったので、


「このコレクションケース、こうやって見ると、
 光とか、ラインとか、すごくきれいなんですよ」


と、フローティング・ボールペンのケースを見てもらった。

すると、お二人ともが勢いよく、


「うわっ、ヤバいですね、これ!」


と、一眼レフのカメラをかまえて、

低姿勢でぱしゃぱしゃ写真を撮りはじめた。


そうやってたのしんでほしかったので、

ぼくは、すごくうれしくかった。




初めて会う人、懐かしい顔、なじみの顔。

とにかく、いろいろな人に会えて、

毎日が3倍くらいの濃さと早さで

すぎていったように思う。




そして。




きてくれた生徒たちを、2階洋室の展示室に案内していると、

階段のところで、女の子に会った。


ピンク色のTシャツを着た女の子。

彼女だった。


女の子の姿を見るなりすぐ、ぼくは言った。


「120円返してよ」


すると女の子が、

ちらりとこちらを見てからこう答えた。


「もってない」


「返してよね」


「いやだ」


「いやじゃなくて、返してよ」


「やだ」


途中、生徒が、見るに見かねた感じでこう言った。


「いいじゃないですか、120円くらい」


苦々しく笑う生徒。


「いや。貸したのと、あげたのとは違う」


ぼくは、こう言ったらしい。

らしい、というのも、

あとで受付にいた橦木館の方から聞いて、

ああ、そう言ったんだ、と反芻(はんすう)したからだ。



「約束、覚えてる?」


そう切り出すぼくに、女の子は首を横にふった。


「あげるって約束したアイロンビーズの人形。
 持ってくるから、ちょっと待ってて」


待ってて、と言ったにもかかわらず、

女の子はぼくのあとを追って、

和室のほうまでついてきた。



アイロンビーズで作った人形に、

キーホルダーの金具をつけたもの。

女の子にあげるつもりで、

ずっとカバンに入れていたものだ。


「はい、これ」


そのアイロンビーズ人形をカバンから取り出し、

女の子に差し出す。


女の子は、ぼくの手からひったくるようにして、

アイロンビーズ人形を手に取った。


「どうやってつけるの?」


夢中になり、カバンにつけようとしてみたものの。

つけ方が分からず、ぞんざいに聞き返す女の子。


「ちょっと貸してみて」


ぎゅっとつかんだ女の子の手から、

アイロンビーズ人形を受け取る。


「どこにつけたいの?」


「ここ」


女の子が、カバンのファスナー部分の、

引手の金具を指差した。


言うとおり、引手にアイロンビーズ人形をつけてあげると、

女の子はすぐに自分の手で試すようにして金具からはずし、

すぐまたぱちんと留めなおした。


しっかりしてるな、と思った。


たぶん、あとでまた別のところにつけ替えたいんだろう。


アイロンビーズ人形をもらった女の子は、

そのままだだっと逃げるようにして、

ぼくの目の前から消え去った。


女の子の背中に向かって、


「120円返せよー」


と声をかけるも、

返事は戻ってこなかった。




そのあと、2日くらいして。



お客さまの見送りついでに、

玄関のほうまで行ったとき。


下足場所でまた、女の子を見た。


ちらりと目を向けた女の子に、

ぼくは、しつこく同じフレーズをくり返した。


「120円返せよ」


女の子は、聞こえるか聞こえないくらいの声で、

「ない」

と言って、顔を伏せた。


見ると、カバンに、

つけたはずのキーホルダーが見当たらない。


「あれ? どうしたの、キーホルダーは」


女の子は、少しのあいだ黙っていた。


そして、女の子の答えを聞くまもなく、

ぼくは、自分の「仕事」に戻った。



それからまた、何日かして。

受付の方から、


「あの子、またきてましたよ」


と、聞いたりしたけれど。


ぼくは、女の子の姿を見ることがなかった。



けれども。


タバコを吸いに公園のベンチに行くと、

木の下に、いつもキックボードが停めてあった。


『JD BUG』と書かれた、ボロボロのキックボード。


女の子は、ちっともいないけれど。

彼女のキックボードは、ずっとそこに停められたままだった。



もし、女の子がこないまま、

アイロンビーズ人形を渡さないまま展覧会が終わったら。


そのときは、彼女の通う小学校に、

「忘れものです」

と言って、届けるつもりだった。


女の子の名前も、学校も、何年何組かも、

ぼくは、女の子自身から聞かされて覚えている。

女の子が住んでいる建物の名前だって、

分かっている。


「結末」を迎えないまま展覧会が終わってしまったら、

忘れ物として、女の子に渡してもらうつもりだった。


紙袋のなかには、

アイロンビーズ人形といっしょに、


『120円返せ』


と、太字で書いた、手紙もそえて。




結局、結末を迎えたようで、

はっきりしないまま終わった女の子との出来事。



彼女が少し大きくなったとき、

アイロンビーズ人形を見て、思い出すのだろうか。


「120円、返してないままだなぁ」


と、少しは思ったりするのだろうか。



結果を確かめることはできないけれど。


なんとなく、おもしろい「種」がまけたように思う。


気まぐれで勝手で、

罪深い「種」かもしれないけれど。


いろいろ想像すると、おもしろい。



いつか、ぼくのまいた種が、

おもしろい花を咲かせてくれたら。



そんなふうに思いながら、

タバコのけむりをくゆらせて、

ボロボロのキックボードを眺めていた。



ぼくのお話は、

ぼくのお話だからこそ、

いいお話とか美しいお話にまとまることがない。



そうやって通りすぎる、風景と時間。



そこに意味があってもなくても、

現実は、たしかな現実なのです。




無理矢理まとめるとしたら。




今回の展覧会で、

女の子からは120円、返してもらえなかったけれど、

別の人から「120点」の評価をもらったから。


結局は、「すごくプラス」で終わったのであります。




女の子とのエピソード。

期待に添えたかどうかは分かりませんが、

これにてひとまず、落着と相成ります。

ご清聴、ありがとうございました。






























次回また《家原美術館だより#4》でお会いしましょう。




★《家原美術館だより#1》〜 7歳の女の子とぶたまんじゅう の巻
★《家原美術館だより#2》〜 緑色のボールペン の巻





< 今日の言葉 >


「『けなげ組に入れそうだね」

(イエハラ・ノーツ2011/「それって、ほめ言葉?」より)