2009/01/13

酔いやすい人







飲み会などで
「普段どおり」の調子でしゃべると、
必ずと言っていいほど
「酔ってるの?」と聞かれる。

親しい人にはご存知の「顔」でも、
深い付き合いのない人たちには、
酔っぱらっているように映るらしい。

「酔ってるの?」と言われると、
しゃべりにくくなる。

もしかすると、
普段からずっと「酔っている」のかも
しれないから。


酔うのは、
アルコールだけではない。

自分にうっとりと
酔う人もいるだろうし、
アイドルなんかに酔ってる人も
いるだろう。


余談だけれど。

先日、電車の中で
女子高生がこんなことを言っていた。

「タッキーってお年玉
 60万円あげたんだって」

「え、どういうこと? ひとりに?」

「ちがう。全部で60万円だって」

「ええっ。給料から払ったのかなあ」


まあ、どうっていうことの
ない会話だけれど。

何となく耳に残るやり取りだった。


さて。

ある友人は、
ひどく酔いやすい。

酒に、というより、
「乗り物」にめっぽう弱い。

20代のころ、
車で北陸に向かっていたときのことだ。

たいていは僕が運転をするのだが。
そのときは気まぐれに、
友人にハンドルを任せていた。

真夜中の山道。
景色は一面真っ黒。

つづら折りに連なる
ヘアピンカーブを延々とのぼっていて、
ふと、会話が途切れた。

友人は突然押し黙り、
真顔になっている。


「どうした?」


心配になり、僕は聞いた。

短い沈黙のあと、
友人が、ぼそりと答えた。


「やべぇ、
 気持ち悪くなってきた・・・」


友人は、幾重にも続く
急カーブに酔ったらしい。

あまりの驚きに、僕は言葉を失った。
まさか、自分の運転で酔うとは。

寝耳に水、いや、寝耳に
熱々のココアを注がれたような。

その衝撃は、
いまでも色あせずに残っている。



まだ10代か、
二十歳そこそこのころ。

肝試しに出かけたとき、
同じような山道で、
やはり彼は酔った記憶がある。

後部座席の窓側。
みるみる顔色が悪くなる友人を見て、
僕は車を停めてもらった。

闇にこうこうと浮かぶ自動販売機で。
僕は『はちみつレモン』を買った。


「酔ったときは、
 はちみつレモン飲むと治るから」


もちろん嘘だ。

僕は、あくまで気休めのつもりで、
よく冷えたはちみつレモンを彼に渡した。

はちみつレモンを飲んでから数分後。
友人が、静かに口を開いた。


「・・・ああ、効いてきたかも。
 ちょっと、よくなってきた」


僕はここでも驚いた。

彼の「純粋さ」「素直さ」に打ちひしがれ、
なんだか悪いような気さえしてきた。

プラシーボ(偽薬)効果も
はなはだしいのだけれど。

おそらく、そのときの彼なら、
「酔い止めだ」と言って
クッピー・ラムネを手渡しても、
けろりと酔いが治っていたことだろう。


そんなこともあり、
そうそうのことでは
驚かなくなっていたはずなのだが。

数年前に、
またしても「それ」はやってきた。


友人と2人、
公園のブランコに座っていて、

「どっちが高くこげるか競争しよう」

ということになった。

言い出しっぺは僕である。

鉄くさい鎖をぎゅっと握って、
膝を屈伸しながらぐんぐんこぐ。

景色が上下して、
空がどんどん近くなる。

「このまま一回転できないかな」

などと言いながら、
機嫌よくこぎ続けていると、
突然、ザザザーッと、
砂を滑る音がした。

友人が「急ブレーキ」を
かけた音だった。


「どうした?」


友人は、うつむいたまま、
こうつぶやいた。


「やべえ、
 キモチワルクなってきた・・・」


まるで「山道」の
再放送のようなセリフが、
友人の口からこぼれ出た。

ついさっきまで一緒に
声をあげて笑っていた友人が、
ぐったりと、別人のような顔つきで
うつむいている。

その、突然の落差に。
このときばかりは声をあげて笑った。


またしても自分の「運転」で
酔ってしまった友人。


自分のさじ加減で、
いかようにもできるはずなのに。

友人の、
成長のないバカさ加減に。
僕は、胸の奥のやわらかい部分を
わしづかみにされたような
気持ちになった。



お酒に酔って、
溺れちゃう人。

ギャンブルに酔って、
はまっちゃう人。

いけないものに酔って、
こわれちゃう人。

その対象が何であれ。

何かに「酔って」いられる人は
しあわせかもしれない。


「酔っぱらってないと。
 こんな世の中、
 しらふじゃやってられねえよ」

などと言った人が
いるとかいないとか。


何かに酔っても、
他人に迷惑をかけるような
悪い酔い方はしないよう。

くれぐれも気をつけたいものですね。


乗り物に酔いやすい友人も。
変なものに酔っちゃってるよりはいいかな、とも思う。

かくいう僕は、いま、
マッコリに夢中だ。

フルーティな
水刺(スラ)マッコリを片手に、
ドリトスを食べる祝日の午後。

その数分前には、踏切待ちで、
小学生くらいのギャルたちに、
なぜかひそひそささやかれて、
なぜかクスクス笑われた。

やっぱり。

「しらふじゃやってられねえ」のが
現実なのかもしれない。


< 今日の言葉 >

つ・・・つぐないきれない!
わたしのために眉間にうけたキズが
誠さんの運命をもキズつけたことは知っているつもりだったけど・・・
ああ!! あんなにも残酷にキズつけていたとは・・・

(『愛と誠』第1巻/雪降る路上、早乙女愛の心のセリフ)