行ったとしても、ただただ友人たちとぶざけたり雑談したりして、
本来の「催し」とは別の時間を過ごしていた。
学生ではなくなった今。
学生主催の文化祭に、講師として参加した。
去年も同じように参加したのだけれど。
今にして思えば、講師である友人といっしょに回ったせいもあり、
終始「講師として」参加していたように思う。
今年は何も気にせず、勝手気ままに「参加」した。
これほどまでに文化祭が楽しく思えたのは、
今回が初めてかもしれない。
生徒が出店する模擬店。
普段、授業で使っている場所が、いろいろな音や匂いに囲まれて、
まさに「おまつり」といった顔つきになる。
似顔絵つきの綿菓子。キムチを挟んだチヂミ。
フライドポテトとクリスピーなチキン。
木工や雑貨学科の手製の小物。
ポストカードの販売や、ライブペインティングなどもあった。
びっくりするほどおいしいチャイもあった。
完成度の高いものもあれば、そうでないものもある。
それでも。
どれもが「いいもの」ばかりだった。
「わるいもの」はひとつもなかったように思う。
たこ焼きを挟んだ「たこせん」。
懸命に焼いている生徒たちの前に、突如、天使が舞い降りた。
たこ焼きの天使だ。
彼女は、土曜日担当の掃除のおばちゃんで、
慣れない手つきでたこ焼きを焼く姿を見るに見かねて、
生徒たちに「レクチャー」しはじめた。
何でも、おばちゃんは「たこ焼き経験者」らしく、
的確なアドバイスで指導してくれた。
ふらりと現れ、ふらりと消えて。
軽のワゴン車で走り去った彼女はまさに、
「街のエンジェル」だった。
ビンゴ大会では、自分の受け持つクラスの男子生徒といっしょにいた。
知らぬ間に、いろんなことをみんな忘れて、どうしようもなく下品な話をしていた。
横にいた女子生徒に太ももを叩かれるまで、
「女子」がいることも、ここが「学校」だということも、
すっかり忘れてしまっていた。
彼女が「話の分かる生徒」だったからよかったものの。
このせちがらいご時世では、一歩間違えれば「セクシャルな問題」として叩かれるところだ。
叩かれたのが太ももだけで本当によかった。
おもしろ写真を撮って、見て、笑ってくれる「ばかな」生徒たち。
自分の周りに「ばか」をやってくれる存在がいることは、しあわせなことだ。
アルコールなどを交えない、ナチュラルなパワー。
こういう「無駄な」エネルギーは、
一度失ってしまうと、なかなか取り戻せないもののひとつかもしれない。
そんな「無駄な」時間が、とてもいとおしくて、ひどく心地いい。
模擬店で食べた、150円のパフェ。
見た目も、味も、おもちゃみたいなパフェだった。
甘いコーンフレークに缶詰フルーツを敷いて、ホイップ生クリームを絞り出す。
その上に、チョコレートまたはストロベリーソースをかけて、
カラフルなスプレーチョコをトッピング。
最後にチョコポッキー2本とウエハースを突き立てて、パフェの完成。
これが、紙コップみたいな透明のカップに入って、白いプラスチックのスプーンまで付いてくる。
しかも、ワンドリンク付。
チョコレート味のパフェを選んだ僕は、フルーツを断って、
「代わりにホイップクリームを多めにしてください」
などと、うっとうしいことを言って、
さらにはドリンクを断り、途中で生クリームを「お代わり」した。
まったく、たちの悪い客だ。
とにかく、このパフェ。
「くそうまかった」
あえてそう表現したい。
本当に「くそうまかった」のだから仕方ない。
世界中、どこの店を回っても、この「パフェ」は食べられない。
彼ら、生徒たちが考えに考えた結果、生まれた「パフェ」なのだから。
やっぱり、フルーツを断らず、
彼らの感性に任せたパフェを食べるべきだったと。
あとにして思ったが。
まさに「後の祭り」だ。
集客、品質、価格、準備や陳列、満足度・・・。
模擬店は、これから出て行く社会の、商業の縮図(略図?)だったりする。
閉店時間を迎えて。すれ違う生徒に、
「儲かった?」
などと「大人ぶった」ことを聞いてみたりもしたけれど。
本当はそんなこと、どうでもよかった。
採算、利益、成果。
そんなことを考える前に、ただ、やる。
それが「生徒」の「いい」部分だろう。
「生徒」じゃなくなると、自然と、そんなわけにもいかなくなる。
「生徒」を卒業しても、「いいもの」だけをつくっていけたら。
そんな「社会」になれば、もっといいのに。
最後に。
文化祭が終わって、校舎前に立っていると、
遠くから、派手な格好をした異様な人物がやってきた。
近づいてくるにつれ、その姿が明確になる。
街灯に照らされた、桃色の人物。
「あ・・・ミスアメリカだ!」
彼(彼女?)は、生徒から噂で聞いていた「コスプレのひと」だった。
「若い」世代の生徒が言うには、
<顔はアニメっぽいお面をつけてて、体がぴたっとした全身タイツの、女みたいな男>
ということだったのだが。
昭和を生きてきた僕には、一目見てそれが『バトルフィーバーJ』の『ミス・アメリカ』だと判った。
どうしてもいっしょに写真を撮りたくなった僕は、
彼(または彼女)に近づこうと試みた。
すると、『ミス・アメリカ』は、ブロンドヘアをなびかせながら(もちろん表情は変えず)、
くるりとターンして、早足に角を折れて去っていった。
文化祭ではしゃいで、パーティ用のアフロカツラをかぶっているように見える、チリチリヘアーの男。
そんな男が駆け寄ってきたら、
相手がミス・アメリカでなく、バトル・コサックでも、きっと逃げたに違いない。
ごめんね、ミス・アメリカ。
< 今日の言葉 >
全身恥部 全身恥部
体の一部が恥部じゃない 私は全身恥部なんだ
(『歩くチブ』/ザ・クロマニヨンズ)