2008/05/19

もう一度、生まれました。


「少数民族」(2008)




先日見た夢が忘れられない。


僕らは、
古い小屋のような場所にいた。

一緒にいたのは、
高校時代の友人だ。

僕らふたりは、
何かにおびえるように
身を縮めてかがみ込んでいた。


ガラス窓から見える風景は明るく、
暗い倉庫のような室内が
いっそう黒々として感じる。

窓の外では、白い日差しの中、
獅子舞のような面をかぶった
真っ赤な集団が、
列をなして練り歩いていた。
風景の左から右へ、黙々と。

面をかぶっているのか、
それともそれ自体が彼らの顔なのか。
全身赤色に包まれていて、
てかてかとしたその顔の質感は、
まさしく漆塗りの獅子舞そのものだった。


突然、
行列の先頭を歩く獅子舞男が
足を止めた。

彼は顔だけをくるりとこちらに向け、
ぴたりと立ち止まった。

機械じかけのような、
曖昧さのない動きだった。


彼の「目」は、
面に覆われているのだけれど、
あきらかに僕らを見据えている。

彼ら、獅子舞男たちは、
どうやら“僕ら”を探していたようだ。


彼に見据えられた、その瞬間。


猛烈にへその辺りが熱くなった。

熱風を吹きつけられたように、
中からじわじわと熱さを増していく。


「あ・・・熱い」


声にならないうめき声を発しつつ。

勢いを増していく熱さに
こらえ切れなくなり、
僕は水を求めるかのごとく、
黒っぽい木製の床をはい進んだ。

獅子舞男たちから、というより、
その熱さから逃れたい一心で、
辺りを手探りはい回る。


獅子舞男たちが徐々に
間合いを詰めて近づいてくる。

友人は戸惑い、
座り込んだままの姿勢で固まっている。

探し回っていた手が、
何かに触れた。

取っ手だ。

床に「隠し扉」が
あることに気づいた僕は、
友人に向かって大声で叫んだ。

聞こえているのかいないのか。

友人はじっと窓の外を
見つめたままだった。


獅子舞男たちは、先ほどよりも近く、
もう小屋のすぐそばまできている。


へその熱さは、
全身を焼き尽くしてしまいそうなほど
熱くなっていた。


取っ手に手をかけた僕は、
勢いよく扉を引き開けた。

「こっから逃げられそうだ、早く!」

もう一度、友人に声をかけると、
今度は気づいた様子で、小さくうなずいた。


床に開いた穴は、
30センチ四方ほどの狭いものだった。

僕は迷うことなく、
穴の中に体を滑り込ませた。

中は、清潔な感じの
白一色に包まれていた。

壁面は柔らかく、
湿り気を帯びているように
ぬるぬるしている。

縦に続く穴は、
奥へ進むにつれて
さらに狭くなっていく。

肩を寄せ、
全身をねじ込むふうにして進んでいくと、
ゆるやかな傾斜を描きはじめた。

縦向きだった穴が
横向きの「トンネル」に変わったころ、
こわばっていた体の力を抜き、身を委ねてみた。

なだらかな滑り台を滑っているように、
僕の体は、奥へ奥へと送り出されていく。

そのときふと、
頭の中に浮かんだこと。


“ああ、僕は
 これから生まれるんだな・・・”


そして僕は目を覚ました。


起きたとき僕は、
また「生まれた」のだと、
そう感じた。


『夢辞典』によると。
(トニー・スクリプ著、相馬寿明訳/どうぶつ社)


<へそ>は、
「自分への依存心、
 母親に対する依存心を表す」という。

また「自己のもっとも深い部分が
外の世界と接触すること」とある。

<へその近く>では
「自分の要求のために他人に頼っている状態。
 母親に対する情緒的結びつき。
 誕生前の胎児期の生活を暗示する」のだと。


うーん、なるほど。


<小屋>
(子どもの頃の家族に対する感情。
 基本的で単純な関係を表す)に逃げ込み、
 隠れていた僕らは、
<赤い顔>
(怒りなどの強い感情の表れ)から逃れようと、
<穴に入っていく>
(無意識にある感情、衝動、
 あるいは恐怖との出会い。
 自己の側面との対決。
 子宮内の記憶。死、埋葬)。

<白>は「何かに気づくこと、
 澄みきった心、純粋さ、潔癖さ、
 心軽やかな気分」とあるので、僕は、

「“こわいひとたちに
 おこられるのがいや”で、
 誰かに依存して、
 居心地のいい場所に逃げ込んでいく。
 けれども、そんな自分と直面して、
 もがいて、そんで最後は
 なんだかさわやかな感じになってる」

というわけだ。

・・・どういうこと、それ?


ちなみにドアの取っ手は
「ペニス」を表すらしいが。

「ある状況へのこだわり。
 性的なこと、あるいは他の事柄において
 変化が訪れるときを表す」ともある。

ふむ、
やっぱりフロイト氏は
言うことがセクシーだ。


とにかく。

僕はいま、大人の階段を
のぼっているのかもしれない。


だったら、
踊り場で足を止めて、
時計の音を気にしている場合じゃない。

少女だったと懐かしく、
思うときがくるはずだから・・・。